私に天使が舞い降りた! 1-5 / 椋木ななつ

 

私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス)

私に天使が舞い降りた!: 1 (百合姫コミックス)

 

 前クールで上田麗奈が出るしちょっと見ておくかなと1話を見たら、気がついたら毎週5回くらいリピート再生して私の生活を支えていたことでお馴染みの「わたてん」こと「私に天使が舞い降りた!」ですが、アニメの放送が終わるまでは手を付けないようにしていた原作を読んだのでこの辺りで感想を。

内容は大学生のみゃー姉とその妹のひなた、友達の花、ノアがメインになって繰り広げる日常コメディなのですが、もうこの時点で10代で膝に苺ましまろを受けた身としてはキャラクター配置に、ああ! となってしまうのでいけない。アニメは可愛さ増し増しに作ってきた上で、一迅社CMで「かわいいは正義2019」ってキャッチコピーを持ってくるんだからもう確信犯でしょう。

そしてこれ掲載誌が百合姫なんですね。この手の作品は微百合な空気感を持っていることが多いのですが、そうとも取れるとかじゃなくて、もう清々しく百合なんでそう思ってくれて大丈夫だよ! っていう心強さがあります。

そんなおねロリ百合コメディを標榜するわたてんですが、可愛くて幸せな世界と言いながら、若干の闇が透けて見えるというか、ううん? となる部分があるのが良いのです。直球だと松本のみゃー姉へのストーカーっぷりが普通に犯罪だったり、みゃー姉の花への態度が犯罪スレスレだったりするのですが、他にもみゃー姉の人見知り&社会不適合っぷりのこれほんまもんやって思わせ部分とか、この関係はいつか破綻するのでは思わせる各所のカップリングだとか、こう、端々に。スク水は苦手っていうみゃー姉、その後判明する痛々しかった中高時代をあわせて考えると、ああなんかあったんだなって、うん、みたいな。

アニメの方はキャラデザ的にも可愛さ増し増しの百合成分増しでお届けしているので、余計に極端から極端へのコントラストがあって大変によろしいです。砂糖をたっぷりまぶされているだけだと甘くて胸焼けするし、苦いだけじゃとても食べられないけれど、組み合わせることによって引き立て合って輝きを増すみたいなところがあるじゃないですか。ちなみに原作の方はこの辺りが過剰にならずにもうちょっとナチュラルな塩梅で描かれているのですが、逆にちょっとリアル感がある中でそういう部分が見えるのもこれはこれで……という良さがあります。味付けの違い。

そんな感じで大変よろしかったわたてんですが、やはり最大の魅力は公式が最大手な作中カップリング。ということでここからはカップリングについての感想を。

 

・ひなノア

ジャスティス、圧倒的ジャスティスです。この太陽と月の組み合わせ感、無自覚イケメン少女×わがまま努力家系少女の組み合わせが最高です。ひなノア、基本的にノアの心情が移り変わっていくだけで、ひなたの方は何も変わらないのが良いと思うのです。

私が一番可愛い! と言って憚らないノアが、花ちゃん一番なみゃー姉の前に撃沈して落ち込んでるところを、ひなたが慰める(イケメン)なところが初期段階で、そこからノアの気持ちが次第にひなたに向かっていくのですが、みゃー姉禁断症状を起こしたひなたをノアがみゃー姉のコスプレをしてお世話する辺りでノアの心情が一線を越えます。

というかまず、登場キャラクター中ではでは大人びた思考をしていて、おしゃれ大好きなノアがみゃー姉ジャージを着ている時点で何が起きたって感じなのですが(別のシーンでジャージ着させられて落ち込んでる描写あり)、そこにはそうまでしてひなたの気を引きたいという心理的な天秤が働いていた訳で。その結果があの「ヒナタちゃんがすごいベタベタしてくる…これ良い!!」に繋がる訳で。

そしてそのノアをひなたが「みゃー姉」として受け入れるまでにある逡巡、そして本物のみゃー姉が解禁された時は瞬時にノアを捨て、そしてイケメン顔でみゃー姉と同じくらい好きなノアだから代わりになれたんだと宣うまでの流れ。お前最低に天然ジゴロやな! って感じですが、この歪みがひなノア、That'sひなノアって感じでしょう。ノアちゃんの心理状態ジェットコースターですよ。自分は代わりだってわかっているけどひなたが好きなんですよ。あんなに聡い子がもう理屈じゃないんですよ。

しかしまあ、星野ひなた、思考と言動と行動が全てイコールで結ばれるタイプの人間で、適当だけど基本的に優しいので誰にでもイケメンだし、それでもみゃー姉が刷り込み的に至上で、次に友人である花とノアが大事であるという価値観はずっと変わらない。そこはノアの感情とは決定的にすれちがっているのです。

で、この後ノアひなデート回という尊さが天まで届く回があるのですが、おめかしをしてきたノアに対してひなたがボーイッシュな格好で出てきて最高のイケメンムーブをかますんですね。でも多分星野ひなた、ノアがそう望んでいることを無意識に察知して、そう振る舞っているだけで、それ以上の特別なものはなさそうなのがタチが悪い。でもそんなことされたらノアの気持ちは天まで昇りますやん。そういうとこだよってノアだって言いますわそんなの。

星野ひなたって天然で天才なんですよ、何も難しく考えないけれど、ただ単純にそうあるだけで誰かの太陽になれる。でも、ノアって可愛い可愛いと言われて育って自分でもそう思っているけれど、そうあるために天性のものはあれど考えて努力をするタイプなのだと思います。そして彼女は承認を必要とする。それだから、そんなノアだから、ひなたと触れる中で愛情と依存と羨望が入り混じりながら惹かれていったんだろうなと思うと、仮りそめでもその関係が逆転した時に何か歯止めが壊れたんだと思うと、やっぱひなノア最高じゃねって思います、はい。

さて、そんなひなノアですが、なんか多分本番はもう5~10年後だと思います。ひなたがノアに向けられた感情がそういうものだと気づくタイミングと、みゃー姉離れをするタイミングが来た時に、ノアに対してどういう気持ちを向けるのか。徹底的に一方通行で成立していた関係が初めて双方向になった時、たとえそれがどちらに転ぶにしても、その瞬間が見たいので誰か描いてくださいお願いします。

 

・みゃー花

人見知りで友達いない半引きこもりな大学生のみゃー姉が一目惚れ(自覚はない)した相手は小学生でしたという時点で事案の気配がするカップリングですが、お菓子を食べさせる代わりにいかがわしいコスプレをさせて写真を撮っているのでもうだめです。

しかしこう、みゃー姉は明らかに欲望の混じった想いを花に当てて花はドン引きするのですが、まさかそういう感情だと本人が分かっていないのは、まずいと思っているからこその自衛なのか単にコミュ力が破綻しているのか。

そして花の方も、賢そうな顔をして3人の中では一番子供というか、アホの子というか、お菓子に対してピュアすぎる熱意をぶつけた結果として、お菓子供給源のお姉さんに懐くみたいな過程を経るので、なんだかよくわからないけどカップリングが成立してるみたいな感じ。あの噛み合っていないけど一見美しいプロポーズ(便宜上)のシーンがこの二人の今を象徴しているのかなと思います。

まあでも、自分を売って対価(お菓子)を得ることを覚えてしまった花ちゃんはこのまま大きくなるとちょっと危ないんじゃないかなって思うので、やっぱりみゃー姉は責任を持って一生花ちゃんにお菓子を作り続ければいいのでは。

 

・かのこよ

原作では物心付く前からの幼馴染で一緒にいるのが当たり前の2人という感じですが、アニメでは完全にカップルだったよね君らっていう。特に夏音が小依に向ける感情が違うっていうか、重みが……。

 小依の方は単純に幼馴染として夏音を見ている感じで、行動原理も頼られたい褒められたいチヤホヤされたいとシンプルだけど、本人の実力が追いつかないから空回りっていう子なんですが、それを全部フォローしていく夏音はまた違う感じ。というか、小依がフォローされることで夏音に頼っている割合よりも、夏音が小依を助けることで逆依存している割合が高いのではっていう、共依存感があります。私が助けると、いざという時は助けてくれるという夏音の想いが呪いのように2人を縛っている感じがして。

小依はキャラソンなんかを聞いても、自分が足りていないことも分かっていて努力をしないといけないと前向きなだけに、夏音の愛が小依の成長をスポイルしないかなと、そんなことを思うのですが、これ絶対小学生に対して考えることじゃないよなという、この、なんだろう、深淵がある。

でもその2人で完結した世界がパーフェクトワールドっていう感じで魅力なのもまた事実で、2人で閉じて、2人で沈んでいく、沼のようなカップリングだなと思いました。そこにたぶん幸せはあるよ、たぶん。

グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ / 飛浩隆

 

グラン・ヴァカンス 廃園の天使?

グラン・ヴァカンス 廃園の天使?

 

 大途絶から1000年の間、取り残されたAIたちが日々を繰り返し続けている、仮想リゾート<数値海岸>の南欧の港町をモデルにした<夏の区界>。ゲストと呼ばれる外からの人間が訪れなくなっても、永遠に続いくかと思われたその区界は、突如訪れた<蜘蛛>の大群によって全てが無に返されていきます。生き残ったAIたちは鉱泉ホテルに立てこもり、罠のネットワークを構築して徹底抗戦を試みますが、というお話で間違いはないのですが、このあらすじから感じるアクション大作的な印象とは、だいぶ違うものを感じる作品でした。

区界のAIたちは自分たちがAIであることも、1000年成長もなく繰り返す毎日のことも理解しています。自分たちAIがこの区界でどのような役割を持って、ゲストたちが現実には満たせないどんな欲望をここに叩きつけていたのかもよくよく知っていますし、自分たちの思い出が一定地点からは作られたものであることも、街の大きな歴史も設定に過ぎないこともみんなわかっています。それでも、人間の世界から切り離されてなお、当たり前のように、それはそう作られたのだからそれこそ当たり前なのですが、暮らし続けている様子と、それを小説という形で見ていることへの奇妙な感覚。そして、人が不在の世界で、人が作った趣味の悪い設定から、AIたちの人間らしさが立ち上がっていることが、不思議な手触りを残します。

そして、そこで起きるのはあまりにも不条理な破壊と苦痛。<蜘蛛>と彼らの王と呼ばれる存在の持つ圧倒的な力に蹂躙されていく理不尽さ。そして徹底的に純化された官能と美しさ。次から次へと想像もつかないイメージが立ち上がっていきながら、書かれてきたものからの展開としては一分の隙もないくらい整合が取れているこの感じ。

あまりにも精巧に作られた模型を眺めていたら、気づけば内側から引き込まれて気が狂っていくような感覚に、読み進めるに連れて襲われる一冊。あとがき(ノート)に作者が書いている「清新であること、残酷であること、美しくあること」を、ただ一人の人間が関わることのない仮想空間での出来事を覗き見るという趣向で味わうような小説でした。

3月のライブ/イベント感想

3/9 ZAQの日 vol.3 @ 下北沢GARDEN

 去年のZAQの日がアコースティックなので今年もそうだと思っていたら違うじゃん! という感じの、ちょっと変わり種のセトリ&アレンジでお届けするファンクラブ的な雰囲気でのライブでした。ぶち上がる曲はもちろん楽しいんですが、それ以外のジャンルも幅広く、やっぱりZAQの音楽好きだなと。
めったに聞けない「星空を歩く音」が凄い良かったのと、この日はセルフカバーが「僕たちは一つの光」だったことで死にました。いやーその曲をカバーとはいえ生で聞く日が来るのか……。

 

3/10 THE IDOLM@STER SHINY COLORS 1stLIVE FLY TO THE SHINY SKY  昼の部 LV

THE IDOLM@STER SHINY COLORS BRILLI@NT WING 04 夢咲きAfter school

THE IDOLM@STER SHINY COLORS BRILLI@NT WING 04 夢咲きAfter school

 

 中の人もキャラもよくは知らない状態で見に行ったシャニマス1stのLV。初々しくも光るものがあるパフォーマンスという感じでしたが、やっぱりキャラクターコンテンツの中の人ライブはちゃんと知っていないと難しいなと思うところもあり。
曲的には放課後クライマックスガールズの2曲が最高に楽しかったです。でも一番刺さったのは甜花ちゃんでした。というかアルストロメリアは深い沼を感じる。

 

3/17 ゾンビランドサガLIVE ~フランシュシュみんなでおらぼう!~ 夜の部 LV

 逆にがっつりハマったコンテンツの中の人ライブは最高だな!! となったのがこちら。まさかのラップから、アニメの順番に、映像をはさみながら曲を演っていくのがやっぱりぐっとくるものがあります。精一杯のパフォーマンスの感じがまたなんというか、フランシュシュというグループの印象に被るのが強い。特にえーでさんの源さくらっぷりが凄いです。「アツクナレ」は盛り上がるし、「To my dearest 」は泣けるし、アイアンフリルがシークレットで出てきたらそれは驚くし。新アイアンフリルはそらまるが図抜けて歌もダンスもクオリティが高くて、スクールアイドルと横浜市の迷探偵の経験強いなと思ったり。
そんな中でも「特攻DANCE」が最高だったというか、二階堂サキ=田野アサミさんのカッコ良さがやばかったです。曲中のセリフからラスサビへの流れで危うく二階堂サキの夢女になるところだった。それから、「ヨミガエレ」のセット倒壊からの流れの再現は、本当にね、やるかなとは思ってたけどヤバかった。また曲が最高なんですよ……。
次は「聖地」佐賀ライブをやるということで、アルピノかなあ、行きたいなあと思っているところです。

 

3/23 岸田教団&THE明星ロケッツ REBOOT TOUR 2019 @ EX THEATER ROPPONGI

岸田教団&THE明星ロケッツ/REBOOT (アーティスト盤) (2枚組)

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 REBOOTをテーマに掲げたツアーのファイナルは、古い曲を存分に演りながら、それでも最新の岸田教団が最高の岸田教団だと示すようなセトリとパフォーマンスで、まさにREBOOTを印象づけるライブだったように思います。私は「セブンスワールド」の辺りの岸田教団が一番好きで、この日もめっちゃ楽しかったんですが、それでも今最高の岸田教団はアンコール前最後のブロックにあったと思うんですよね……。「Reboot : RAVEN」本当に最高だった。
それから、岸田教団が良い意味で普通の、普通にこれだけクオリティの高い、普通に格好良いライブをぶつけてくるということに少しの驚きと、追いかけてきた喜びがありました。宗教団体を名乗ってましたが、めっちゃロックバンドだったと思います。岸田教団はあくまで音楽制作集団で、ライブはおまけみたいなところが正直昔はあったんですよ……。

 

3/31 少女☆歌劇レヴュースタァライト STARRY KONZERT ORCHESTRA LIVE 昼の部 @ 中野サンプラザ

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.1「ラ レヴュー ド マチネ」

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.1「ラ レヴュー ド マチネ」

 
「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.2「ラ レヴュー ド ソワレ」

「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」劇中歌アルバムVol.2「ラ レヴュー ド ソワレ」

 

 思っていた以上の見たかったものを見せてくれるのでスタァライトは追いかけがいあると改めて思ったオケコンでした。2ndでレヴュー曲を全披露した時に、あとは生演奏で、生演奏をお願いしたいと思っていたらまさかこんなに早くオーケストラでレヴュー曲を演ってくれるとは思わないじゃない!?
アニメの流れを完全再現で、OP、劇伴、レヴュー曲、合間に後日談の朗読劇、そしてEDがあってアンコールに「約束タワー」で、全てがオーケストラの演奏、アニメの映像、そして演者の歌という作りが最高でした。これだよこれが見たかったんだ感。
贅沢を言えば、ここにさらにバンドも入れて、2ndの時の殺陣もやると完全体になるのではないかな、見たいなとちょっと思ったり。

あとこの作り方のライブをどこかで最近見たなと思ったんですが、リンホラの進撃の軌跡で見たやつだなと。ミュージカルからライブに寄せていくものと、ライブからミュージカルに寄せていくものの折衝点がここにあるのかなと思います。

メランコリア 上巻・下巻 / 道満晴明

 

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

 
メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)

 

10年部屋に引きこもった少女が目覚めると外では世界が滅びていて、飼い猫は突然喋りだし、いきなり決断を迫られる。そんな短編で始まる短編集は作者独特のセンスが炸裂したものになっていました。

不条理なくらいにぶっ飛んだ発想で次から次へと語られる短編はキャラクターも絵もギミックも、独特の空気、独特のセンスで満ちています。不思議な事が当たり前に起きて、とびきりシュールで理不尽だけど、意外と俗っぽくてキャッチーで、ダウナーな雰囲気と描かれる関係が凄く馴染むというか、波長が合う人には凄く気持ちが良いものになっています。私はすごく好き。

短編はどれも好きですが、中でも脚を得る代わりに声を失う人魚姫の設定を下敷きにしながら、斜め上の方向に展開していき、そして最後に最高の百合を見せてくれる「おとぎ話」が最高でした。

てんでばらばらに思える短編が連なっていくのですが、人類の滅亡という共通項が進むほどに色濃くなり、それぞれの話が思いもかけないところで繋がって、作品は上から下へ、下から上へと大きな円環を描きます。これがなんというか、美しい構造というより、ものすごい不可思議なものを読んだような感じ。最後まで読むと、奇妙で、けれどどうしようもなく惹かれる一つのオブジェが出来上がったような印象を受ける作品でした。

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです / 佐藤友哉

 

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)

 

 1巻は太宰治が現代に蘇って、時代的なギャップに対してどういう反応を取るのかというifが、やたらとクオリティの高い文体模写によるおもしろかなしい道化っぷりと共に描かれていくのが楽しかったのですが、2巻にきて急激に地獄みが増してまいりした。というか、これは相当な地獄では……?

かつて自分が候補作になって落とされた芥川賞に拘る太宰が、女子高生地下アイドルをプロデュースして小説家に仕立てていく。それでもって、この女子高生には才能があった。あってしまったばかりに、2人の関係は拗れていきます。

道化の仮面を外せぬままに、コンプレックスと執着、安定しないメンタル、極端から極端へ振れる自己評価、恨み妬み、そして他人への無理解。芥川賞を目指して女を裏切り、心中未遂(転生後二回目)を起こして、現代という時代を流れていく太宰。どうしようもないのだけれど、どうにも気になってしまうのが佐藤友哉/太宰治たる所以というか。そして1巻と比べると、相変わらずの文体模写ですが、かなりユヤタン比率が上がっているように思います。

救えないディスコミュニケーションの積み重なりがもたらしたものが爆発するラストシーンなんてもう笑っちゃうようなひどい状況。それでも、あの場にいる人間は誰も彼も本当に切実で、人生の分水嶺に立っているというのが、もはや喜劇めいていて、なんともはや。そしてそこに至らしめた、絡み合った感情というか、絡まなかった故の感情みたいなものがあまりにも地獄めいていて、思わずドン引きするような一冊でした。

凄いところで次の巻へ続いたのですが、この先どっちに転んでも碌なことになる予感が、しない!

東京タワー・レストラン / 神西亜樹

 

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

 

 お客様が心に抱えたトラウマを思い出のメニューで癒していく心温まるお料理小説と言われれば、ライト文芸系流行のお店屋さん×ちょっといい話的な路線だと思うじゃないですか。帯やあらすじを良く読むちょっと怪しい文言が含まれているけれど、まあ全体的な雰囲気はまさにそういう感じですし、確かに間違っていない。スタート地点とゴール地点は。

という訳で、近未来のコロニーと化した東京タワーの中、人気のないレストランエリア(諸事情で封鎖されている)で目覚めた記憶喪失の青年と、コックを名乗る牛人間(食用クローン牛が出力エラーで人型になった)が、ビストロヤクザ(とは?)の査察を切り抜けるために料理に挑むお話。ちなみに近未来東京タワーの料理はすべてゼリー的なもので機械から出力されます。味付けはマシンの操作次第。うーん、ディストピア

そんな感じで、屋根裏に引きこもるタイムトラベラーだとか、腹の虫(地球外生命体)に寄生された星屑屋から逃げてきた少女だとかと、まあなんやかんやでカプレーゼだったりポタージュだったりを困難に直面しながら作っていきます。この辺りの設定、キャラクター、ギミックが次から次へと大変に胡乱で、しかもそれがちょっと勿体ぶった文章で流れるように語られるのが非常にツボです。最高のほら話を読んでいる感じが素晴らしい。めっちゃ楽しい。

とはいえ、これだけだと心温まるお料理小説を求めて手にとった人がなんじゃこりゃとなっていないか若干の不安があります。でも、特盛になったすこし不思議とこんがらがったタイムトラベルミステリ的仕掛けを乗り切れば、ちゃんと優しさあふれる良い話なんです、これ。

レストランという居場所を守るため、意外な繋がりがあるものの、それぞれの事情と傷を抱えた全然別の人たちの気持ちが、一皿のナポリタンに集約されていく。妙ちくりんなものを積み重ねた上で、子どもたちの真っ直ぐな頑張りと、大人たちの諦めない思いと優しさが、溶かすようにトラウマを癒やしていくような、そういうお話。

読み終わった時には東京タワー・レストランという場所が愛すべき場所に思えてくる、大変に好みで、大変に美味しい一冊でした。面白かった!

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

 

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

 

 宮内悠介が博奕をテーマに読みたい作家9人に執筆をお願い、本人の作品と合わせて10篇を収録したアンソロジー本。流石のビッグネーム揃いということで、アベレージの高い短編集になっていました。

博奕と言うとリスクとリターンというか、一か八かの勝負! みたいなイメージが強かったのですが、全て手を尽くしてなお結論が出ない時、天にというか、神にすべてを任せるという側面があるのだなと、そういうシチュエーションを描いた作品が多かったことで感じました。確かにそこには平等があって、でもそこをどう料理するかで作家ごとの色が出るのも面白かったです。

特に面白かったのは山田正紀「開場賭博」。江戸無血開城における勝・西郷会談が、まさに結論が出ない交渉事を天に任せるという意味でチンチロリンによって行われるというぶっ飛び話なのですが、これがめちゃくちゃ面白かったです。立場を背負った建前と個人としての本音の隙間、いかさまの絡んだ勝負師たちの駆け引きが熱い。

それから星野智幸「小相撲」は、小相撲と呼ばれる賭相撲を題材にしたもの。力士たちの勝敗には観客たちの人生の選択が賭けられていて、賭けた方はそこに何を見るのか。真剣勝負とは別のところに立ち上がる、そこにどんなドラマを見せるか、どんなドラマを見せるのかという力士と観客の真剣勝負。題材は相撲なのですが、あ、これプロレスの話なんだと感じました。好き。

あと梓崎優「獅子の町の夜」はシンガポールを舞台にしたある老婦人の人生の賭けを描いたもの。「スプリング・ハズ・カム」を読んだときも思いましたが、本当にこういう洒落た短編を書かせたら素晴らしいなあと。