小林さんちのメイドラゴン 6 / クール教信者

 

 アニメ化を経て、もう一度キャラを見直した話とあとがきにある通り、新しい何かがある訳ではないけれど、彼ら彼女らがここにいる理由を深掘りするような話になっていました。

ドラゴンたちにとって、小林さんが生きるこの世界が救いになるというのは、ある意味正しさの軸を無理やりこっち側に強いている傲慢さというか、ドラゴンならドラゴンなりの正しさがあるのではないか、みたいなことを思いながら読んでいたところもあったのです。でも、終焉帝の話やトールの話を読むと、トールたちがありたいようにあれる世界があって、その真ん中に小林さんがいたというのがこの作品なんだなと思いました。だからこそ、その出会いは本当に奇跡なのだろうなと思います。

それが自由を求めて闘った先の束の間の夢であったとして、むしろそうであるからこそ、トールにとって小林さんがいるこの瞬間は、とてもとても大切なものなのだろうと。そして、この作品のそういうところがやっぱり好きだなあと思うのでした。

甘々と稲妻 9 / 雨隠ギド

 

 子供の成長は早いなあとしみじみするマンガだなあと思います。

つむぎが小学生ならではの問題だったり、お母さんがいないことだったり、そういうものに自分で考えて、自分で動いていけるようになっていくことが、子供は成長していくものなんだなと。エリに見せたお姉さんらしさも良かったです。知らない場所、知らない人たちで不安で寂しかったエリの気持ちを、一番分かってあげられたのはつむぎだったというのが、また良いなと。

それから、つむぎがご飯を作って、おとーさんに美味しいと言ってもらえて良かったーと言ってるシーン。本当に犬塚先生良かったね……良かったねと。そりゃあ泣きますよね。

あとは野となれ大和撫子 / 宮内悠介

 

あとは野となれ大和撫子

あとは野となれ大和撫子

 

 崩壊寸前の国で後宮出の少女たちが国家をやってみる。次から次へと降ってくる難題に直面しながらも、自分たちの居場所と在り方を賭けて、彼女たちが精一杯に駆け抜けた、とんでもなく勢いのあるエンターテインメントでした。読み終わってまず出てくる感想が、面白かった! アニメで見たい!! だったのですが、まさにそういう映像が頭に浮かんでくる作品だったと思います。なんなら既に私の脳内ではアニメ化されている、くらいの。

アラルスタン。中央アジア、干上がったアラル海ソビエト末期に建国された小国。地理的にも政治的にも難しい立ち位置にある、居場所をなくした難民たちの国。そんな国で大統領が後宮に作った学校で学んでいた少女たちは、国をまとめていた大統領の暗殺から議会の逃亡という政治的空白を目前にして、自ら立ち上がり臨時政府を樹立します。

建国の経緯。気候や作物、そしてウズベキスタンカザフスタンに挟まれる地理的な部分。イスラム過激派組織すらその内に抱える宗教的な部分とそれ故に晒される外交上の動き。内政の動き、市民たちの暮らし、多民族国家としての文化的な立脚点、娯楽、国家にとっての象徴として存在する遊牧民たちの暮らし。テロリズム、戦争、難民の子どもたち。環境問題やひいてはかつてのソビエトによる核実験まで。

この作品のベースを支える、アラルスタンという国があったとしたら存在しただろう設定やこの国が直面することになる問題の在り方は、本当に緻密でリアリティがあって、そういうテーマを取り扱ってきた作家だからこその説得力があります。ただ、それ故にこの国がおかれた状況は、どう理屈で考えても詰みのように見えます。

だから、議員たちは逃げた。そして、彼女たちが立ち上がった。難民だった少女たちがアラルスタンという居場所を守るために。幸いにも彼女たちには学があって、才能があった。経験はなかったけれど、間違いなく優秀ではあった。でも、それだけじゃどうにもならなかったのだと思います。だから、その閉塞を打ち破る輝きが彼女たちにはあって、それがこの物語を駆動させる勢いになっている。少女小説的な、アニメ的な荒唐無稽さ、そしてクライマックスの舞台はまさに狂宴。それは、緻密な背景設定と一見アンマッチのようにも見えて、でもこれしかないんだと。物語というのは、本当に理屈だけじゃないんだとなと思いました。瑞々しく躍動して、どこまでも駆けていき、時に狂気すら感じさる彼女たちの姿はそれくらいに素敵だった、それが答えであるのかなと。

 ただ、正直中盤から終盤の展開は少し駆け足で、もう少しそこに至る描写が欲しかったというか、上下巻くらいで書いてほしかったような気もします。そのあたり含めて、1クールだと尺が……となるアニメっぽさを感じたりも。たぶんこれ、初回からの丁寧な描写でおおおってなって、中盤から超展開って言われがちになって、最終的にはいい最終回だったってなるタイプのやつでしょう、みたいな。

あと、作中で彼女たちのリーダーたるアイシャについては独裁者の資質があると言われていて、確かにそういう危うさがあるなあと思うところがあるのですが、読んでいてそれ以上にナツキの普通そうで全然普通じゃないヤバさみたいなものは強く感じました。物語上、それがイーゴリとの対比だったり、2人のあのやり取りに繋がった訳ではありますが、後宮に来た経緯はあれど、ナツキさん完全にネジがちょっとどこかにぶっ飛んでますよね? と思いたくなるシーンが多くて。でも、そのくらいじゃないとあの苦境は脱せないよな、と感じるところもあり、やっぱりこのどこか狂気じみた勢いの物語の主人公は、彼女であるべくして彼女であったのだと思いました。

さよなら神様 / 麻耶雄嵩

 

さよなら神様 (文春文庫)

さよなら神様 (文春文庫)

 

 あの「神様ゲーム」の続編は、読み進めるごとに色濃くなる悪意にいい加減ならされていくようなところもあったのですが、いやでも、最後の「さよなら、神様」は、うわあ……意外に言葉が出ないですよね。

鈴木君は神様です。神様なので犯人の名前も当然知っています。神様の言うことは無謬です、だって神様だから。という基本ルールから構築されるミステリは、1行目の「犯人は◯◯だよ」という鈴木君の言葉からスタートする短編集。その言葉を元に主人公を始めとする久遠小探偵団が事件の謎に迫る……という形式なのですが、性格の悪い神様は面白いから答えたという程で彼らに縁のある人物の名を挙げ、そしてトリックも動機も語らない。

けれど彼らは神様の言葉に踊らされ、一見盤石に見えるアリバイを持っているその人物を疑わなければならないという時点でまず底意地が悪いです。そしてありえないところに考え得るロジックを通すという話から、短編を重ねるごとにまあ良くもこんな……という。真実なんて知らなければよかったみたいな話は序の口で、それが新しい事件につながるだとか、今まで見えなかった闇が見えるだとか、よくもこのパターンにこんなバリエーションをと思います。

抱えた真実は主人公を追い詰め、当然周りでそんな事件ばかり起きれば周りからの扱いも酷くなり、それでも無理をして心を折らずになんとか気張ってきて……からの「さよなら、神様」。来るべくして来た破綻。真実を語ったのは鈴木。では誰が何を仕組んでいたのか。操られていたのは誰か。

麻耶作品らしく、表面上ハッピーエンドを迎えたようなエピローグ。ラスト三行を読んだら、もう笑うしかないでしょう、これ。

 

正解するマド / 乙野四方字

 

正解するマド (ハヤカワ文庫JA)

正解するマド (ハヤカワ文庫JA)

 

 「正解するカド」の文字媒体変換として完璧、完璧です。

ここにはアニメと同じシーンは1つも描かれていないし、内容的にはスピンオフなのですが、でもその作品を正しく小説にすることをそう呼ぶのであれば、これは最高のノベライズだったと思います。

正解するカド」のノベライズを引き受けた野崎まど大好き作家の乙野四方字が、あまりに書けなくて別件で原稿を抱えている講談社タイガ編集部に締切を延ばしてほしいと懇願するメールを出すところから始まってかっ飛ばしてんな! と思ったのですが、これはまだ序の口。精神を病みつつあった彼の前に現れたのはヤハクィザシュニナ、果たしてザシュニナは幻覚か本物か……みたいに展開される私小説が続いて、正解するマドとは? と思いますが、大丈夫これは正解するカドのノベライズです。

ワム、サンサ、ナノミスハインとアニメおなじみの異方道具が取り出され、やがて明らかになる真実は、だんだんそんな気がして来たけどさあ……これさあ……やりやがった! ばっっかじゃねえの! と。諸々確認して再びばっっかじゃねえの!! と。そして、全てが収束していくクライマックス。タイトルの意味。ああ、これは紛れもなく「正解するカド」を小説で表現したものだったのだなと。完璧です。正解です。

正解するカドというアニメはファーストコンタクトもののようで、創造者のレイヤと被創造者のレイヤが変換されて接触する物語だったと思うのですが、それをノベライズしたら確かにこうなりますねという。序盤から私小説というか、メタフィクション風味だった時点でなんかそんな予感もありましたが、ここまでゴリゴリにやりながら野崎まど的な飛躍も詰め込んできたら完敗です。アニメでいまいち印象の薄かったナノミスハインがまさかこんな最高の使われ方をするなんてというかふざけんなお前、みたいな。

そんな感じで個人的には面白い面白くないを超越して最高の作品でした。とはいえ、野崎まど大好き作家がカド全話視聴した野崎まど大好き読者のために仕立て上げた一作という、極めて狭いターゲットに向けたものであることは否定できず、でもこの楽しさをもっと誰かと共有したいので読んで欲しいというジレンマ。とりあえずカドを見ていた人は是非読んで、みんなで一緒に異方存在になろう!

アイドルマスターシンデレラガールズ WILD WIND GIRL 03 / バンダイナムコエンターテインメント・迫ミサキ

 

 デレマスの物語はニュージェネ中心だったアニメや、今連載中のところだとちびっこ組のU149などがあります。どれも基本的には挫折と成長の物語で、やっていることはアイドル活動なのでその中身も結構似たようなものになるのですが、ただ主役に据えられるキャラクターとPの性質でここまで味わいが変わるというのは、伊達に180くらいのキャラを揃えていないなあと改めて思いました。

そんな感じで元暴走族特攻隊長向井拓海のアイドル物語は、CDデビューという新たなステップへ。気合上等なヤンキースタイルがアイドルの世界に何故か最高にマッチしているのが面白いです。まあ、相変わらず警察のご厄介になったりしていますが。

そしてりなぽよと拓海の関係も新しいステージに入って、ノーティギャルズ結成と原作ゲーム設定を踏まえてきていて、じゃあここから雷舞上等に繋がっていくのかとか、この先の未来に炎陣があるんじゃないかとか、そういう期待が高まります。

ところでデレ5thライブツアー静岡を見る前にこれを読んだら、拓海(原優子)の純情midnight伝説でめっちゃグッと来るものがあって、そういう相乗効果があるの、とても良いなあと思いました。アイマスは沼。

虚構推理 6 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理(6) (月刊少年マガジンコミックス)

虚構推理(6) (月刊少年マガジンコミックス)

 

 虚構推理のコミカライズと聞いて一番最初にマジかよ……と思ったのがまさにこのクライマックスののシーンで、嘘を嘘でもって無に返すため、ひたすら文字情報を畳み掛けていく盛り上がりをマンガという媒体でどうするんだと思ったところだったのですが、流石でしたね……。いや、最高のコミカライズでした……。良かった……。ありがとう。

多くの人が信じたものが都市伝説だったり、神話だったりとして形をなし、それが実際に力振るう。そこに真実は不在となるか、あるいは必要とされない。その枠組自体は大昔からあったもので、だからこの作品も伝奇の色合いがあって、でもそれをネット時代と結びつけて6年前にこういう形で物語にしたのはやっぱり新しかったなあと思います。Twitterで面白いから、都合が良いからとソースもないまま拡散されていく情報が、いつの間にか真実のような顔をして力を振るい害をなすなんて、今いくらでも観測できることですし、この鋼人七瀬はまとめサイトを舞台にまさにそういう構造で描かれた事件でありますし。

そしてコミカライズが人気になったのか、原作は終わってもこのまま続きが出るということで、ほんとうにもう感謝しかないですよねマガジン編集部さんには。カッコよくて可愛くてちょっとゲスいおひいさまの活躍をまだこれからも見れる、そして城平京に新作小説を書かせることができる……ありがとう講談社、フォーエバー講談社、ついでにアニメ化もお願いできないか講談社。期待して待っています。