Animelo Summer Live 2017 -THE CARD- 8/25、26、27 @ さいたまスーパーアリーナ

 

Playing The World

Playing The World

 

 いやあ、アニサマ楽しいですね……。

ここ数年は毎回アニサマは今年でもういいかなと思いつつ、行ってみれば楽しくって来年も行こう! となるのを繰り返している気がしますが、今年はここ数年でも一番楽しかったように思います。去年と比べて総出演者数を減らして、ほぼ全員2曲以上でしっかり時間をもらえていたのが良かったのかなと。

しかしまあアニサマはアニソンフェスの頂点だなあと改めて思います。アニサマだからこそ持てる全てをぶつけてくるアーティストとか、アニサマだから来る客とか、そういうブランド力はここまでに積み上げてきたものに他ならず、パイオニアにしてそういう場で有り続けているのは純粋に凄いことだと。そしてそんな御託を並べるよりも、あの3日間の長丁場あの場にいる人たちが凄い楽しそうなのが、単純にアニサマ強いと思わされます。その分疲労感凄いですけど、しかし本当に楽しかった。

 

あとは気になった人とか、箇条書きで。

8/25

・え? 何? 誰が歌うの? 本物??? みたいな感じだったSOS団。世代なのもありますが、後藤邑子さんがまたステージで歌って踊れるほどに元気になったということが、涙腺にくるものがありました。

けものフレンズは開演前注意喚起アニメ(3日間でそれぞれ最後が違う)が制作されていて、たつき監督がまた酷使されている……とか思ったり。曲は盛り上がらないわけがなく。間奏明けコーラスで大写しになるオーイシお兄さんには笑いました。

Pyxis。アイドルだ……めっちゃアイドルだ……と思って見ていました。

大橋彩香。「ワガママMIRROR HEART」とても盛り上がるいい曲をもらったなあと。最近演じるように歌うなあと思ってはいましたが「ユー&アイ」と続けると声から全然違う表現をしていて、役者として歌手活動してるんだなと思います。

OxT。予想外の選曲でしたが、安定の盛り上げ。タオル回すの楽しい。田村ゆかりとコラボして「バラライカ」を歌ったのは驚きを通り越して笑いました。オーイシさんがやらないかを連呼してて、本当にニコ動の人なんだなと。

・前半トリで鈴木このみ。やっぱ凄いわ……と毎度のことながら思います。「カオスシンドローム」本当に好き。映画の方の曲かなと思っていたら最後に「This game」のイントロが来て、さては今日のアニサマのセトリは殺す気できているな? と思いました。

・多分ポピパより今人気あるよねというRoselia、歓声の大きさに大人気コンテンツバンドリ……となりました。演奏が思った以上に様になっていた。2曲目、2ndシングルだと思っていたら「LOUDER」が来たので私が死んだ。あああああって声が出た。

・西澤幸奏。「LOUDER」で燃え尽きてたらサイレンが鳴ったので蘇生しました。ゲーム主題歌ですがアニタイではない「Break Your Fate」やってくれて、今の西沢幸奏を2万7千人に見せつけてくれたのは良かったです。いやほんと幸奏カッコいいんですよ。あと「帰還」を聞きながら私の記憶より歌上手いなと思っていました。鈴木このみとの仲良しコラボはツインギターだったのですが、ギター弾いてもあくまでボーカリストという印象のこのみんと、ギターボーカルという印象のしえなが対照的で面白かったです。あとあのラフにパーカー羽織ってギター弾いてるのちょっと最高でしょ……。

早見沙織。あ変わらずびっくりするほど歌が上手い。竹内まりや作の新曲「夢の果まで」は、昭和ポップスを完璧に歌いこなしていてちょっと言葉もないです。本人主演のアニメ映画であれを主題歌ってどんな才能だ……。

田村ゆかり。色々と心配されたゆかりんですが、時の流れに抗うかのような変わらないゆかりんのステージを見せてくれてやっぱり凄いわと思いました。連続出場を伸ばしたmotsuがシクレで来ての「You&Me」、やっぱり最高に楽しい。あと、王国民の皆さまが、ピンクのハッピを着て集ってるの、相当エモかったです。

茅原実里。セトリが完全に殺しに来てたというか、SOS団を受けての「雪、無音、窓辺にて。」はイントロで崩れ落ちました。そしそこから「SELF PRODUCER」、「Paradise Lost」は私の一番好きなみのりん曲連発でやばかった。叫んだ。

・FLOW。相変わらず最高に楽しいです。他に何も言うことはない。アニソン縛りライブ、行きたい。

GRANRODEO。ドラムが変わってめっちゃドコドコしていたのが印象的。あんな低音ゴリゴリで音圧強かったっけ? と思いつつ、ああいうの好きです。良かった。

 

8/26

angela。「全力☆Summer!」楽しかったです。atsukoさんのトランプサンドイッチマン衣装とkatsuさんのバナナの被り物で笑いました。あと最後の挨拶の時にカードマジックしてたのなんだったんだろう……。

・KING OF PRISM。「ドラマチックLOVE」を聞いて、あれ私こんなにキンプリ好きだったっけ? と思いながらコーラス部分の声を張り上げていました。そしてその後まさかの本家TRF DJ KOO登場で、「EZ DO DANCE」は最高としか言いようがなく。

i☆Ris。貫禄出てきたなあと。パワーバラードな「イチズ」を切り札ですと言って最後に持ってきて、あれだけ歌い上げていたのはちょっと凄いと思いました。後日配信で曲を聴いたけれど、レコーディング当時とはもう全然別物でした。

・波多野渉。ユーリの曲はもちろんですが「ハートシグナル」めっちゃいい曲だなあと思いながら聴いていました。あと後半に鈴村健一とのコラボで「英雄」がきたのほんとめっちゃ熱かったです。あの曲好き。

中島愛。とても良い感じに大人びたなあという第一印象から、当時と変わらぬ「星間飛行」のパフォーマンスになんだかぐっとくるものが。

・スフィア。活動休止前最後のアニサマに、最高のセトリをもってきた感じ。聞けなくなる前に「MOON SIGNAL」のサビでもう一度飛べたのが嬉しかったです。

プリキュアはべいがめっちゃ楽しそうに歌っている……と感慨深い気持ちに。あとまさか草なぎ君の娘役でランドセル背負ってるのをドラマで見ていた美山加恋を、アニサマの舞台で見ることになるとは、人生とはわからないものだと思いました。

・Minorin Mimorin。ダジャレかよ!!

蒼井翔太。ビジュアル値がバカ高い……ボーカル値も高い……と思っていました。あと曲の途中で声を変えるやつ、声優でもあるんだなあと変な感慨を。

・fhana。本当に曲のクオリティがめちゃくちゃに高いなあと改めて。ステージ上をメイド喫茶にして劇団fhanaと化した「青空のラプソディ」、みんなで踊ってハッピーになれる素晴らしい曲だと思います。単独ライブ行くしかないと決意。

氷川きよし。シークレットで出てきて、誰だ??? って思ってたらドラゴンボールであああああと。赤いレザージャケット着こなして謳っているのやたらめったらカッコよくて、そりゃあお婆ちゃん方はメロメロだわと思いました。そして音程が全くぶれない歌の上手さも凄い、トークも上手い。超一流は畑違いの場所に来てもやはり違うものだと実感しました。ズンドコ節を一節歌ってくれて、きよし!!! と叫べたのとても良い経験でした。

・ミリオンスターズ。「Dreaming」から始まって、メドレーが来ることは予想してたものの「カーニヴァル・ジャパネスク」が流れ出した瞬間に、これはもう初見にはこんな歌があるよ以上の何かをする気はないなと理解しました。P的には最高のメドレーだったよ誰が「アイル」なんて聞けると思うかよ!!! やっぱり私アイマスのPなんだなと思うと同時に、こういうフェスだとジャンプしてもクラップしても大丈夫なの最高に楽しい!!!! とPらしくないことも思いました。いやほんと楽しかった。

・frpSide。正直疲れ果てていたんですが、やっぱりどの曲も盛り上がるよなあと。南條さんの声が太くなったというか、しっかりしたことで良くなったなあと思います。

 

8/27

上坂すみれキングレコードのシモネタ担当。「Inner Urge」のお前何歌ってんだ感と最高に盛り上がるSOXコール、やっぱり良いなあと。

・SideM。周りが知らない分315に盛り上がっていこうと頑張った。メドレーはムンナイも例によって最高でしたが、やはり歌SEMが最高に楽しかったです。周りが誰もやっていなくてもダイナミックにタケノコダンスしたよ。後半のBプロと比べると、同じ男性アイドルものでも、SideMは少年漫画の女性受けするキャラクターっぽくて、Bプロは少女漫画の女性受けするキャラクターぽいなと思ったり。

奥華子。なにはともあれガーネット弾き語りですよ。歌いだした瞬間、ああ本物だ……ってなってずっと鳥肌がたっていました。近所のおねーさんがはしゃいでいるみたいな佇まいでめっちゃ好感度高かったのですが、歌声は本当に唯一無二の人だなあと。

小倉唯。キントリの映像見た時から分かってはいたんですが、生バンドの小倉唯はヤバい。今まではずっと完成度が高すぎてショーケースで踊るお人形みたいだなと思ってしまって興味を持てずにいたのですが、生バンドのゆらぎと合わさることで一気にこう血の通った輪郭が見えてくるというか、凄く本人の魅力が引き立つなと。とにかく生バンド従えて踊っている姿がヤバかったです。この沼は深いと分かっているんですが、かなり危険が危ない。

ZAQ。一人口笛を吹きながらの登場からの「Last Proof」。そしてその後のMCで語ったアニサマへの思い。テーマソングを作って3日目の前半トリをもらって、そこから歌う曲がデビュー二作目の「Alternation」、そして中二病コラボ(真礼&すみぺ)での「Sparkling Daydream」と自分がもてるカードの全てをアニサマに切ってきた感じ、ちょっと凄かった。というかファンとしては端的に死にました。

そして、今回のテーマソングはアニサマの客席からステージ、そしてテーマソングの作成まで来た本人の想いが込められた曲になっているというようなMCを経て、最後のテーマソング歌唱で「次は君の出番だよ」と客席に歌うZAQさん最高にエモかったです。

B-PROJECT。目の前をトロッコが通っていったんですが、加藤和樹さんちょっとあれヤバいでしょ。私が女だったら惚れていた自信があるレベル。あとタクヤシロさんのトロッコが目の前で止まったのも最高にヤバかった……。

・WUG。いやあ「Beyond the Bottom」素晴らしいですね。初期の頃から知っているだけに、ここまでの表現をステージでできるようになったんだなという感慨と、シンプルに曲のストーリー性が強かった。

内田真礼。今回もレスキューチャンスがあって満足。あと最後のテーマソング歌ってる時に全国数万人の内田家クラスタの致死量に達する姉弟の絡みがあったんですけどあれなんだったんですかね!! ドラスタの方に引っ張られてたのをすみぺ取り返すくだりとか破壊力が。映像抜かれるたびに会場で歓声が上がっていたのも面白かったです。

TrySail。すっかり新人さんという空気は抜けて、大人気ユニットなんだと感じさせられるようになって、本当に格が上がったなあと思います。「adrenaline!!!」最高に楽しいキラーチューンだなと。疲れ果てていたんですが、頑張ってしまった。

・LiSA。この後の水樹奈々とこの人は、ちょっと立ってるステージの次元が違いました。歌はもちろん、ちょっとした言葉だとか、所作だとか、そういうもののレベルでステージに立つ人間としての存在感が違う。LiSAは観客を楽しませて自分も楽しむんだということが最高に伝わってくるMCからシームレスにアカペラで入った「Catch the Moment」、そこから大先輩に繋ぐというMCからの「Rising Hope」は流れから何から完璧でした。改めて、カリスマなんだなこの人って。

水樹奈々。3年ぶりのアニサマでも最終日のトリはこの人以外にありえないんだと歌いだした瞬間に理解させられるようなやつ。歩いてきた道が、背負ってきたものが、分できた場数が違うんだと強烈に見せつけられるようなステージングで、曲が終わるたびにやっぱりすげえ……以外の言葉を失ってました。あの歌いだした瞬間にSSAが狭くなるような感覚、いや、本当に凄いですね……。アニソンというカテゴリのトップに立つ人は2017年現在もこの人なんだと実感しました。凄かった。

BanG Dream! 4th☆LIVE Miracle PARTY 2017! at 日本武道館 8/21

 

 終盤の「前へススメ!」から「夢見るSunflower」の流れ、ちょうどメンバーの並びをセンターステージ逆側から見る形になって、ずっと大橋彩香がドラム叩いている背中が見えていたんです。

武道館のステージで照明を浴びながら、最初聞いた時にこれ大丈夫なのって思った難易度の曲を、全力で叩いている推しの背中、眩しかったです。尊さとか、頼もしさとか、そういうのが綯い交ぜになって、ただ眩しかった。ああ、私今日はこれを見に来たんだって。

センターステージで自席が北アリーナだったからこそ見れた、普通は見れない光景だったのですが、ちょっと今までに味わったことのない感慨があったし、多分ずっと忘れないなと思います。

そんな感じだったポピパ武道館。いや、センターステージ構成で1万人以上の座席作って、平日の武道館が埋まるんですね……。アニメはちょっとどうなのって思うところもあり、ガルパが大ヒットをしてるのは知っていたのは分かっていたのですが、この人気はちょっとびっくりしました。センターステージの構成もあの景色はすごく良かった……ですがその分音響がちょっと酷かったので、早くちゃんと調整した映像で聞きたいなとも。

個人的にはバンドリというコンテンツよりも、ガールズバンドとしてのポピパが好きなので、途中途中の演出やソロよりももっとフルバンドでの曲数をやってほしいというのはあるのですが、練習の都合とかを考えると難しいのだろうと思うところはあり。でもやっぱり、上で書いた二曲をはじめとして、声優ガールズバンドとしてのポピパは魅力的だと思います。冒頭の「ときめきエクスペリエンス」から、武道館のステージに負けずに堂々と演奏をしていて、正直ちょっとびっくりしました。メジャー1stから見てる私でも、あれまあこんなに立派になって……と思ったので、最初から見ていた人たちは本当に感慨深かったんじゃないかと。

そしてこの蹴り出した当初はどうなるのか分からなかったような企画の先頭に立ち続けてきた愛美の最後のMCでの涙は、ちょっとやっぱりグッと来るものが。青春というか、人生かけてやってきた人の姿だったなあと。良いライブでした。

メイドインアビス 1-6 / つくしあきひと

 

 人類未踏の巨大な縦穴アビスの底を目指す、探掘家の少女と遺物の少年のワクワクドキドキ冒険譚……うん、まあドキドキはしますよね、ちょっと意味が違いますけど。

未知の生物や遺物に溢れ上昇するとアビスの呪いと呼ばれる症状が現れる大穴や探掘家を始めとした設定や、深度が変わるごとに全く風景を変えるその見たことがない世界を描き出す説得力。大穴のふもとにある街での暮らしから、母を追って穴に飛び込むリコたちと孤児院の仲間たちとの別れまで、ちょっとした瞬間に生活の匂いがしそうな描写も素晴らしいと思います。思いますが、それ故にその描写力が、アビスの底に向かうごとにエグさとなって襲い掛かってくるの本当にですね、えげつなく精神力削っていきますねこれ……。

2巻で白笛オーゼンを酷い人だと思った(後で良い人だと思い直しましたが)のが遠い過去に思えるくらい、加速度をつけてエグくなっていく世界。白笛ボンドルドのネジのハズレ具合も環境そのものの持つ狂気も、たぶん単純にアビスの深層は人の在るべき世界ではないということなんだなと。真っ当な人間なら近づかない、近づくべきではない世界。アビスに近づいたことがそもそもの誤りなんじゃないかと思うような。

じゃあこの作品どこで道を外しているかって言えば、多分最初にアビスの説明が入った時点なんじゃないかと思うのです。上昇負荷の説明で予想以上に酷いものを見せらた時点で、それでも無邪気に穴の深部を目指したがるリコ。その姿に読んでいて疑問がなかったと言えば嘘で、それでも、立ち止まれないから憧れなんだと思っていましたが、ここまで読んでくると、それすらアビスの何らかが働いているじゃないかと思えてしまうのが何とも。

特にそう思うのは第6層突入後。明らかに人の理で解せない世界から触れてはならないというアラートが強烈に伝わってくる感じ、ちょっと凄いです。もはや試練だとか厳しい環境とかそういう次元ですらないように思えるのに、彼ら彼女らに退路はなく、もちろん引く意思などこれっぽっちもないという。人を捨てていたボンドルドがまだ理の分かる狂気だったというレベルの何かが、1巻からここまでに散りばめられた要素を一つの得体の知れないものに繋げていきそうなこの危機感は、ヤバいとしか表現しようがなく。

そしてそんな彼ら彼女らの冒険の描写もかなりキています。当然世界が世界だけにそのグロさもエグさも半端ないのですが、そこにロリショタケモ男の娘に人体欠損、四肢切断その他もろもろ投げ込んでくる闇鍋感。ストーリーも設定もそういった描写も、どこまでも濃い作者の業を煮詰めたような何かに仕上がっていて、あらゆる意味で気を確かに持って向き合わなければ引きずり込まれる、そういう力を持った作品だと思いました。凄い、ですがここまでくると怖い。

しかしまあ読み進めるほどによくこれアニメ化にゴーサインが出たなあと。今丁度オーゼンのところが放送されていて、この先を映像化? しかもテレビで放送? 正気?? みたいな気分になるのですが、果たして……。

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!

keikomori.hatenablog.com

今回のシンデレラのツアーはこの初日に書いた感想が全てで、ただ単純に各公演色々なキャストが色々な曲をやることを楽しんできたのですが、SSAというファイナルも通常運転の拡大版で貫き通したことで、表向きテーマのないこのライブツアーは、やっぱり一番シンプルな形としてのシンデレラのライブを確立するためのものだったのかなと思います。

そういう意味で、4thのSSA1日目からの流れを受けて、目指されていたのは代替性と継続性、そして再現性だったのかなと。誰がステージに立ってもシンデレラで、シンデレラのストーリーは止まらない。それを実現するために、キャストの誰が入れ替わっても、スタッフが変わっても、公演場所が変わっても、時期が変わっても通用するだけことで基本形を固めた。次からは時期に合わせた色々なテーマがここに乗ってくるのだと思いますが、一番プレーンな形はこれで、そこだけで勝負できたというのが今回のツアーの意味だったのかなと感じます。

アイマスのライブって物語性だとか一期一会の瞬間に重きをおいているように感じていて、それって二度と再現ができないものなのですが、シンデレラの今回のツアーはもちろん初出演だとかはありましたが、割と明確にそういう要素を排していたように思います。サプライズなし、他では実現できないような演出もなし、どの公演でも骨組みは同じくして、それはSSAでも変わらなかった。だから、今回のツアーの形式であれば、毎年でも、海外でも物理的なハードルさえ超えれば同じことができるように思います。そういう意味でアイマスらしくない、でもメジャーアーティストとしてはプロフェッショナルで真っ当な普通のツアーだったし、その先にドーム公演を据えたのは、この先の結果はまだわからないけれど、そういう道を歩むことができるという自信もあったのかなと。

今までを見てきた立場からするとそれはやっぱりつまらないことだと思うし、明日のことは顧みないその場だけの特別が見たいという気持ちはどうしてもあります。ただ、そういう要素を無くしてもこれだけ盛り上がる、これだけ楽しいライブが作れるコンテンツになって、そういうライブを楽しめるようなファン層が今を支えているのだと思うと、なんというか、キャズムを超えたんだな的な感慨がありました。SSA2日目最終部ブロックの盛り上がりを考えると、やっぱりそうなった最大の要因はデレステの成功なんだろうなあと。

個人的には、あっさり味だったなとは感じつつも、あんまり物足りなさはなくて、凄い楽しかったし、次も見届けなくちゃじゃなくて、次も見に行きたいと自然に思えたのが良かったです。まあ例によって何度か死にそうになったり頭を抱えたりはしていましたが、それはそうと安心して適度な距離感で楽しめる公演で、普通に楽しかったという感想が一番最初に来るツアーでした。良かったです。

パンツあたためますか? / 石山雄規

 

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

 

「なにがそんなに辛いんだ」

「……分からないんです」

「なにかが嫌で逃げてきたんだろ。なにがそんなに嫌なんだ」

「……分かんないよ」

彼女は今にも泣き出しそうだった。

 環境が悪いわけでも、人間関係が悪いわけでも、病気があるわけでもない。何か原因があるならそのせいにすることはできて、でも何かが悪いわけではない。ただ、何かが欠けていて、ふつうに生きられなくて、逃げ出して、不安で、寂しくて、満たされなくて、幸せになりたくて、辛くて辛くて、ダメだと思うほどダメになって。とどのつまりは自分のことが大嫌いで、そんな自分のことが好きで仕方ない。

滝本竜彦が推薦文を寄せる、20歳そこそこの作者によるデビュー作は、まさに「NHKにようこそ!」の2017年度版リミックス。漠然とした生き辛さというか、不安というか、この青春の感覚は、時代を超えて普遍なんだなと改めて思うような一冊でした。そういえば滝本竜彦も先達から連なる文脈の中で語られる人だったなあと。

いやでもこう、何が頭を抱えるかって、あれから10年以上の時がたっても自分はこういう話が死にそうによく分かるし、本当に好きなんですよね。単に好みの話だけだったら三つ子の魂何とやらですが、これはなんというか、自らの成長の無さが真正面から突き刺さる感じで、お前この10年何して生きてきたの感がちょっと……。

ヒロインの真央はある日突然主人公の部屋に侵入しパンツをあさっていた自称ストーカーの美少女。物語の軸は彼女と主人公の関係で、それは当たり前な世界から弾かれたダメな人間同士のどこか共依存じみた関係になっていって。足りないものを底が抜けたまま注ぎ合うような関係は、温くてべったりと幸せで、光がさしたようでもその先にはきっと何もない。そういうのは、夢があるからどうにかなるものでも、周りに人がいればどうにかなるものでもなくって、もう一度学校に行こうとした真央が扉の前で立ちすくむシーンなんてもう刺さるものがあって。

だから、やり方はクズでダメで最低でぐしゃぐしゃに格好悪くても、この結末は正しい選択をしたんじゃないかと思います。鏡に写すようにそっくりな2人が傷を舐めあうだけだった自分たちの関係を、一度仕切って1人と1人としてもう一度向き合えるように。世界はだらだらと続いていって、それでも変わることはできるんだと、そういう希望を感じさせる終わり方でした。

小説として出来が良いかと言われるとどうかなと思うところも多いのですが、こういう話が好きな人はとりあえず手にとって、それと若い子が読んで心に突き刺さればいいと思います。抜けない棘になるから。あと、タイトルは「マイナスイオン・オレンジ」で良かったと思いますが、それだと手に取ってもらえないと考えたのかなあとか。

それから、私はNHKの岬ちゃんが好きだったのだから、真央が嫌いなわけ無いじゃんっていうね。もう本当にね、勘弁してほしいですよね!!

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 1 / バンダイナムコエンターテインメント・升之

 

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149(1) SPECIAL EDITION (サイコミ)

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149(1) SPECIAL EDITION (サイコミ)

 

 担当者不在の状況が続き、子役のアイドルたちが毎日暇を持て余すばかりだった第三芸能課。そこに配属された小さなプロデューサーと小さなアイドル達のシンデレラストーリー。

とにかく丁寧な作品だと思います。奇をてらったところはなく、シンデレラガールズの年少組のアイドル達と新人プロデューサーが壁に当たったり、ぶつかったりしながらも二人三脚で進んでいく様子を、真正面からきっちりと描いたもの。この巻では橘ありすがメインとなる話も、彼女のキャラクターを考えればとてもスタンダードなお話。でも、キャラクターの描写も絵もストーリーも、細部まで手抜かりなく作られていて、本当に素晴らしい出来になっています。

それだけに、多分デレマスを知らない人でも十分に楽しめるマンガだとは思います。ゲームやアニメとは設定もストーリーも違いますし、年少組に焦点が当たっているのもこれまでの派生作品とは差別化が図られています。

でも、やっぱりこれはアイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツが好きな人のための作品だと思うのです。その細部に渡る丁寧さに、キャラクターを捉えて彼女たちの魅力を生き生きと描く様に、プロデューサーと共に前へ進んでいく様子に、何より感じるのはコンテンツへの愛で、私のようなこのコンテンツを追いかけてきた人間はそれが嬉しいし、有り難いし、素晴らしいと思うから。

彼女たちのストーリーはまだ始まったばかり。作者の描くこれからに期待と感謝を抱きながら、サイコミの更新を毎週待っていたいと思います。いや、ほんと、尊い

キッズファイヤー・ドットコム / 海猫沢めろん

 

キッズファイヤー・ドットコム

キッズファイヤー・ドットコム

 

 試される小説だな、と思います。

それが当たり前に思っていたことのどこまでが先入観なのかとか、じゃあ一体何が正しいのかだとか、あると信じていたものが本当にあるのかとか。ホストたちの炎上子育てを笑おうとすると、スコッと自分の足元が抜けるような。

カリスマホストの白鳥神威の圧倒的な自分への自信に基づいた過剰なまでのポジティブさ、全ての苦境を成長への機会と捉え後ろを振り返らないスタンス、女性たちの心を掴み先を読むコミュ力、そしてウェーイと突き進むノリと勢い。

「言葉の意味より大切なもの。それはフィーリングだ」「ホストの本能は無限の量子的パワーさえ秘めている」「ブロックチェーンを利用した新たなる通貨「Wei(ウェーイ)」」のようなパワーワードが乱発され、神威以外のホストたちもギャグすれすれの圧倒的な個性を発揮。そんな夜の歌舞伎町に生きドン・キホーテで全てを調達する彼らの世界に現れたのは赤ちゃん。全くの別世界の生きもの。

自分の家の前に手紙と共に捨てられていたその赤ん坊を、持ち前の前向きさとホストとしての矜持と筋の通し方で育てることにした神威ですが、怒涛のようなワンオペ育児にひたすら翻弄され、店に連れていけば夢を見る空間を求めていた女たちの足は遠のく。そして落ち詰められた彼が、それでも前向きに繰り出した一手が育児のクラウドファウンディング。KIDS-FIRE.COM。

赤ちゃんへの投資を募り、命名権や24時間の監視、進路決定権を分配する。アクセスが足りないと見るや炎上マーケティングに全振りし、燃え上がった所でテレビに出演するやり方も、子供の権利を切り売りするようなその内容も、正しくないように感じます。それはやっちゃダメなやつだろうと、おかしいだろうと。そしてそこに欺瞞があることは、やっている本人たちですら分かっている。でも、実際問題として神威にあのまま子供を育てる手があったのか。子供は親が育てるべき、愛があるならできるはずという精神論が、いったい追い詰められる親に何をしてくれたのか。

そう思った時に、子育てとは縁遠い世界にいる私が当たり前だと思っているものが、果たしてどうやって形作られたものなのか、どこにバイアスがかかっているのか、ふと分からなくなるのです。愛が分からないという神威だから、子育てに必要なコストと、返せるリターンを結びつけて、単純にそれを社会に求めた。彼はその道を邁進して、その結果が語られる近未来SFのかたちをした続編、キャッチャー・イン・ザ・トゥルースでも、やっぱり何が正しかったのかは良く分かりません。彼が推し進めたことは、育児をする親の環境を整えるだけのことで、それはたくさんの矛盾を孕み、またそれによって追い詰められた人がいて、救われた人もいるはずで。

「愛なしで子供を育てることができたら、それは世間でいう薄っぺらな愛情より素晴らしいものになるのかな」

「それはたぶん愛と見分けがつかない」

神威たちのやろうとしたことは、作中のこの台詞に語られていることなのだと思います。それができる道具が現代にはあって、そうならざるを得ない背景も現代にはあった。でもやっぱり、それはおかしいと思ってしまう自分がいて、それは先入観がもたらすものではと思う自分もいる。

当事者ではない私は世の中の当たり前を無邪気に信じていて、思っていた以上に何も分かってはいないんだということを、ひとまず胸に留めていたいなというのが、このひとつの未来予想図のような作品を読んで今考えられることの全部かなと、そう思いました。