GODZILLA 怪獣黙示録 / 虚淵玄・大樹連司

 

 アニメゴジラの前日譚は、何故地球から人類は追われ、そして地球は怪獣惑星となったのか、その時代をドキュメンタリー形式で描いた一冊。

様々な人々へのインタビューを通じて、初めて人類が怪獣に相対したアメリカから、世界中に出現し続ける怪獣たち、発生する大量の難民と引金が引かれる人類同士の戦争、そして怪獣を遥かに凌駕したゴジラの出現、追い詰められた人類の前に現れた二種族の宇宙人とのコンタクトまでが描かれていきます。

いきなり怪獣出現とゴジラの進行が描かれた世界地図と年表から始まって、後はインタビューによってそれぞれの時代の空気や立場に基づいた言葉が並べられていくのですが、まあこれが大真面目な大法螺話といった趣で大変素晴らしいです。東宝怪獣総進撃という感じで、子供の頃怪獣図鑑をよく読んでいて割と詳しいと思っていた私的に懐かしかったり、流石に知らないというようなところまでネタが広いのですが、それ故にあまりにも大真面目な語りの中に、こう、突然にマンダとかカマキラスとかフレーズが出てくるのが楽しい。終盤になると異星人からもたらされた技術もあってか、メーサー砲とかスーパーXとか普通に出てくるのがなんというかもうあれです。モゲラも出てくるよ!

そんな感じでテンションを上げながら読んだのですが、一つ一つのエピソードにはばらつきがありつつもグッと来るような話も多く、この時代を如何に人類が生きてきたのかが分かるのがとても良かったです。アニメゴジラはこの怪獣惑星となった地球を人類が取り戻そうとする話のようですが、そこに至るまでの過程として読んでおいてよかったと思いますし、正直あまり期待していなかったアニゴジへの期待値が非常に高まる一冊でした。楽しかった!

うそつき、うそつき / 清水杜氏彦

 

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

うそつき、うそつき (ハヤカワ文庫JA)

 

 嘘をつくと赤いランプが光る首輪。一定期間のバッテリー交換が必要で、固有のシグナルを発する発信機やレコーダーが内蔵され、無理やり壊そうとすれば装着者を絞め殺すそれが、すべての国民に義務付けられた国。そんな社会を、首輪外しという裏稼業をなりわいとした少年、フラノの目を通して見るような一冊。

全てが首輪によって国に管理され、倫理感の崩れ去ったディストピア。これはそういう社会と、そこに暮らす人を描いた物語で、実際フラノのもとに現れる依頼人は、首輪があるが故の不自由が、首輪を外した後の不自由を上回る何かを抱えた人たち。犯罪者であったり、訳ありの母であったり、娘であったり、亡命を試みる者であったり。そこには首輪があるが故に明らかになるものが確かにあるのですが、フラノの目を通して見えてくる世界はちょっと違うように思えます。

失敗すれば人を死に至らしめ、故意に見捨てることだってできる。そんな稼業を営むには彼はあまりにも幼く繊細で、強烈にリリカルな文章が彼の苦しみを直接伝えてくるような感じに引き込まれます。やっていることがやっていることだけに彼に待っている未来が明るい訳はなく、次々と明らかになるくせにどこにあるかわからない真実は、彼を追い詰めていきます。彼の前に現れる人たち。優しい本当、身勝手な本当。優しい嘘、身勝手な嘘。首輪があるから、首輪がないからではなく、人は嘘をつく生き物で、それがちょっと可視化されたことでは変わらない。むしろ、見えてしまうからこそ、それは強烈な形で表に出るのかもしれないと思いました。

世界の謎や首輪の謎が解き明かされるわけでも、誰が何をどうしたかったのかすらはっきりとはしない、これはあくまで何かを信じようとして嘘に翻弄された一人の少年の話。それでも縋った思いすら、最後の最後で彼が見た首輪の色につながっていくのであれば、やっぱりこの首輪というのは最低で残酷な仕組みで、けれど物語としてはこの上なく美しい嘘だったように感じました。

10月のライブ/イベント感想

いい加減数が多すぎて、全部に感想を書いている訳でもないとどんどん忘れていくので、今月から備忘録も兼ねて参加したライブ等の感想まとめを。

 

10/7、10/8 THE IDOLM@STER 765 MILLIONSTARS HOTCHPOTCH FESTIV@L!!

両日LVで参加。まず大きな誤解として、765ミリオンとしてのライブだと思っていたら765AS+ミリオンの合同ライブだったというのがあって1日目は想像と違う料理出てきた感があったのですが、2日目は選曲がとにかく好みだった事もあって楽しかったです。

コロムビアの古い765AS曲からミリオン曲までごちゃまぜの相互カバー祭り。相変わらずミリオンは個々のライブパフォーマンスに光るものがあるし、それは765ASのメンバーを凌駕する部分が多いです。でも765ASのあの存在感なんなんでしょうね。立ち居振る舞いというかオーラというか、場の支配力がまるで違うのは、単純に踏んできたステージの数なのか、修羅場の数なのか。

あとこの組み合わせ、ぴょん吉、ころあず、戸田くんみたいな直系組もそれ以外も舎弟感出るので、アイマスの縦の関係をめっちゃ感じさせるのは良し悪しかなあと。縦の伝統と崇拝は、元々強いアイマスの宗教感を強烈にする気がするので。シンデレラでもアイマスに憧れて入ってくるメンバーがどんどん出てくる現在、今更の話かもしれませんが。

 

10/14 AYA UCHIDA LIVE2017 ICECREAM GIRL

ICECREAM GIRL(初回限定盤A)(CD+Blu-ray)

ICECREAM GIRL(初回限定盤A)(CD+Blu-ray)

 

 内田彩基準では久しぶりだったアルバムを引っさげたライブ。ソロデビューを嫌がって、ステージでもぐにゃぐにゃしてた人がよくもまあここまで......みたいな感慨あり。あの武道館全曲ライブまで走り抜けて、その後の体調不良があって、それからもう一度自分のペースで歩み始めた故の喜びと余裕みたいな。

歌も踊りもできる人ですが、やっぱり声優なので表現力、それも曲ごとにガラッと切り替わるところが凄いなと思いました。ロック系、EDM系の違いもですが、とにかく曲ごとに表現の仕方が全然違くて、引き込まれるものがあるなと。バックダンサーを引き連れた「カレイドスコープロンド」なんて、今までになかったものが、いきなりこのクオリティで出てくるのかと思いました。

ラブライブであれだけできる人がこんなもんなはずがないと思っていた、あの頃の未来にこのパフォーマンスがあるというところに「SUMILE SMILE」、そして喉の手術も乗り越えた先に「Ordinary」があるというのは、ちょっとエモさがすぎます。曲ごとの物語を演じるタイプの人が、明確にファンへの言葉を歌う曲というのは、本当にズルい。

 

10/21 KING OF PRISM SUPER LIVE MUSIC READY SPARKING

劇場版KING OF PRISM -PRIDE the HERO-Song&Soundtrack

劇場版KING OF PRISM -PRIDE the HERO-Song&Soundtrack

 

LVで。楽しいのはアニサマの時の感じでわかっていて、なるほどこんな感じなのか、この人はこのキャラではこういうパフォーマンスなのかとか思いながら見ていたのですが、大和アレキサンダーこと武内駿輔くんの登場とともに冷静さがふっとんだんですが何だあれ。

いや、すごいんですよ。武内くん。キャラも相まってのオラついた感じと時折透ける年相応な感じ。あの髪型で結構顔が良くて、スタイルが良くて歌がうまくて声が良くてダンスも踊れる。で、あの色気。武内くんが歌って踊るコンテンツはちょっと抑えておくべきかなと思いました。でっかい波が来る気がする。

 

10/22 Anisong Ichiban!! presented by HoriPro featuring JAPAN POP CULTURE CARNIVAL 2017 IN MATSUDO

アニイチはもうただ楽しいだけのイベントだと分かっているのですが、やっぱこういうカラオケ系イベントは盛り上がる曲ばかりを縦横無尽に繰り出せるところが強いなあと。あと、やっぱりホリプロ声優は歌がきっちり上手いので映えますし、そんな人たちの持ち歌では見えない色が見えるのも面白いです。アニイチは大分長いイベントですが、カラオケMAXといい声優カラオケコンテンツはこれからもっと盛り上がりそうだなあと。

序盤のへごのUNISON、KANA-BOONからの大木くんのBULE ENCOUNTという来るイベント間違えたかな感のある流れも最高に盛り上がったのですが、この日のMVPはエロマンガ先生から「adrenaline!!!」、おにあいから「SELF PRODUCER」と自分の出演作のキラーチューンをまとめてきた木戸ちゃん。盛り上がりすぎて死ぬかと思った。

あとTrySailの出演しているミューレフェスとイベ被りしていたにも関わらず「adrenaline!!!」のコールが完璧なオタクたちのことが私は好きだよ。

恋と禁忌の述語論理 / 井上真偽

 

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

 

 高校生の主人公が、数理論理学を専門にする叔母の硯さんのところに事件を持ち込み、それを硯さんが推理するという形のミステリ連作短編集。

この作品の何が特色かといえば、そのアラサー独身美女でどこか世間ずれした硯さんが推理に使うのが数理論理学だというところ。キャラクター含め過剰なまでに演出された主人公の持ち込む事件を、公理と命題と推論規則に落とし込む。そこにあるのは、キャラクターの考えや動機なんてものは入り込むことはない、ただ純然たる論理として、その結論が導けるかどうかだけ。

故に硯さんは現場に居合わせるわけではなく、主人公が持ち込む現場で起きた不可解な事件の話を聞き、それを解決した探偵の推理が証明可能なものであるかを検証するのみ。それはもはや安楽椅子探偵というか、探偵の正当性を検証する存在であって、具体的に事件の真相を推理するわけではありません。というか、これは証明できない、この可能性があるという提示はするのですが、じゃあ硯さんの推理が正しいかというと、自分でも言及してる通り公理に検証が必要だったりと、はっきりとしたものではなく。

それはまあ数理論理学というものの性質を考えればそのとおりかもしれないとはいえ、何だかなあと思う部分もありつつ読んでいたのですが、最後まで読んでなるほどと思いました。そういう仕掛けであるのならば、作品構造として、硯さんの立ち位置はまさにそれが正しいのか、と。

ミステリの形式を取りつつ、半分くらいは数理論理学のテキストなんじゃないかという作品で、正直内容を全部理解できたかというと微妙なところもあり、仕掛けに納得はしたものの、それで面白いのかというとなんだかなあと思うところもあったりはします。でも、この一点突破の歪さと、それでも全体としては形になっている感じ、そうだよなメフィスト賞だもんなこれくらい尖っているよなと、不思議な満足感があるのは確かでした。

3月のライオン 13 / 羽海野チカ

 

 これまでにスポットの当たらなかった人も含め、色々なキャラクターを描いた短編集のような構成の13巻。滑川さんの話や、二海堂の真っ直ぐさ、眩しさも良かったですが、一番印象に残ったのはあかりさんの話。

自分のことを後回しにして、誰かのために頑張って、それでも人との間には一線を引く。そんな彼女の生き方がモノローグで語られると、彼女をそうさせてしまった過去の重さが胸にくるものがあります。だから、彼女があの時の出来事を、素直に嬉しかったと言えるのは素敵なことだと思うし、素の彼女でいられる場所で、絶対に幸せになって欲しいなと思いました。そして島田八段格好良すぎる...…。

読んでいて感じるのは、ままならない家庭環境だとか、勝負の世界の厳しさだとか、描かれているものはいつだって重くて苦しくて、それでも作者は人が生きることは美しいことだと信じているんだろうなということ。だから、この作品は、ああ美しいなと思えるのかなと感じました。

東京レイヴンズ 15 / あざの耕平

 

 久しぶりの新刊は転生した夏目の視点から、夜光の時代を描く過去編。これまで現代の視点から語られてきた、夜光や飛車丸、角行鬼、そして夜光の周りにいた当時の相馬や倉橋について、改めて本人たちの視点から語られた時に何が見えるのか。

「帝式」と呼ばれる夜光の確立した陰陽術が、そもそも軍用であったことから分かってはいたのですが、戦争の真っ只中を歩む日本の中で、否が応にも使えるものはなんでも使おうとする軍部の内と外の争いに巻き込まれていくのが読んでいて辛いものがあります。そこが主題ではないので深く触れるわけではなくとも、思った以上に時代背景が暗い影を落としているような感じ。

そんな中で忠犬(狐だけど)のような飛車丸の忠義っぷりがおかしかったり、陰陽術の天才である勝手気ままな夜光と、相馬の若き当主である不良軍人の佐月が、反発しながらも協力していく相棒っぷりが良かったです。

過去編のまま終わって続くの!? と思ったものの、あとがきによれば次巻で現代に戻る模様。過去と現在を繋ぐ物語と、魂の呪術によって現在から過去に繋がった物語、夜光と飛車丸、春虎と夏目。その2つの流れが果たしていったいどういうひとつの形を描くのか。スケールの大きさ、話の複雑さからもうどんな景色が待っているのか想像のつかない感じですが、作者を信じて、また待っていたいと思います。

1518!イチゴーイチハチ! 4 / 相田裕

 

 帯に「夢を諦めるところから始まる物語」と書いてあるのですが、この作品は1巻からずっとそういう話を続けてきていて、やっぱりそれが最高に好きです。

4巻はここまでの集大成というか、一区切り的な話なのですが、クライマックスというには地味で、彼ら彼女らはもう表舞台で輝く訳ではなくて、それでも確かにこれらは彼らの人生における特別な時間。肘の故障で続けられなくなった野球に、生徒会からの応援団の手伝いという形で向き合う烏谷の吹っ切れた姿に、男子の中で野球を続けることを諦めた会長が、それでも野球が好きだと女子野球を目指す決意をする姿に、夢破れた者たちがこの生徒会で過ごした時間は無駄ではなかったんだなと思いました。

そしてやっぱり最後のシーン。昔の彼の姿に憧れていた子供に対して、今の彼が投じられる最高の一球。そして自分の姿を追ってくる子にかけた言葉。それはまた、彼自身にとってもけじめであって、またそれを見ていた周りの人達にとっても一つの区切りになったのだと思います。確かに甲子園やそこを目指す大舞台でエースが投げるボールではなかったけれど、鳥肌が立つような、特別な時間を切り取ったシーン。すべてを賭けてきた夢が終わったその先に、こんなに清々しく、美しく、少し寂しさのある景色が続いている。本当に素敵な作品だと思いました。思いっきり泣いてしまった……。