虚構推理 7 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理(7) (月刊少年マガジンコミックス)

虚構推理(7) (月刊少年マガジンコミックス)

 

 続きだ! 虚構推理の続きが読めるぞ!!

という訳で、鋼人七瀬より後のエピソードを収録した短編集。探偵”岩永琴子”の特異性を改めて示し直すような3つの事件でした。

というか、岩永琴子、あくまでも怪異たちの知恵の神であって、真実を解き明かす探偵ではないんですよね。怪異たちに何か頼まれれば相談に乗るし、その過程で人に知りえない情報を手にするから外からはチート探偵に見えるけど、別に本人としてそこにこだわりがあるわけでも何でもない。そして、真実が怪異たちの悩みを解決するなら解き明かすかもしれないけど、そうでないなら全然別の納得いく回答をでっち上げることを是とする。それが怪異たちのためになるから。

それが怪異たちと関係ないところにいる人間から見ると探偵のように見えるから、何だか良くわからない存在として謎解きの中心に存在するというのが面白いなと思います。「よく行く店」はまだしも、高級店で一人うなぎを食べてたらいつの間にか菩薩扱いされて勝手に事件が解決していく「うなぎ屋の幸運日」とか、もはや怪異と関係ない部分で本人何もしないまま事件の中心にいるの、岩永琴子だなあと。そして解決というか、相談への対応というオチの部分もまた。

あと、相変わらず琴子が迫っているだけのような九郎との関係も、なんだかんだ言ってちゃんと付き合ってるんじゃんと思う短編集でもありました。お幸せにという感じでもないですが、お似合いではあるのかなと。

ストライクフォール3 / 長谷敏司

 

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

ストライクフォール3 (ガガガ文庫)

 

ちょっとこれは凄い。熱い。ヤバい。 

宇宙における技術開発と戦争にあまりにも近すぎるスポーツであるストライクフォールですが、この巻はぐっとそのスポーツとしての側面に寄せてきた感じ。そして慣性制御という全てのセオリーを覆すブレイクスルーの後に来る、新シーズンの開幕戦なんて盛り上がらない訳がなく。

これまであまり省みられなかったチルウエポン耐性と反応速度が重要になり、慣性制御による高速化とリンカーと呼ばれる速度調節テクニックが、従来の宇宙戦を前提に構築されてきたフォーメーション戦術に叩きつけられる。その激動の時代の中でシルバーハンズの一軍キャンプに呼ばれた雄星がぶつかる壁と彼にしか出来ないこと。そして不動のリーダーであったケイトリンに慣性制御への適応という課題が持ち上がり、その牙城を混沌の時代に天才的な攻撃センスでリーダー候補に抜擢された"蛮族"アデーレが打ち崩す。そしてやってくる、前年度優勝チームとの開幕戦。試合の開始から終了まで、カットすること無く一気に描かれるその試合。時代の変わり目の絶対に負けられない闘いは、当然のようにこれまでにない戦術がぶつかりあう死闘となって、その凄まじいこと凄まじいこと。

スポーツ観戦、特にモータースポーツのような技術の側面が強いものを見ていて、一番面白いのはルールが変わった時と、ブレイクスルーが起きた時だと思うのです。収束しつつあった定石がリセットされて、色々なチームが全く新しいアイデアをぶつけ合う混沌の時は、何がどうなるのか全く先が読めず、ただ新しいものが見られることへのワクワク感が半端なくて。

この巻は、まさにそういうワクワクが、もう毎試合が最終回なんじゃないかというくらい熱い展開山盛りで怒涛のように押し寄せてくる訳で、そりゃあ面白くないわけがない。ただ、これは本来セオリーもルールも存在しない架空の競技で、それなのに時代の変換点の目撃者になることに作中の人々と同じように興奮できるのは、ここまでの試合と、そしてキャンプでのアデーレvsケイトリンの闘いがあってこそだと思います。気がついたらストライクフォールという競技のファンだったし、シルバーハンズを必死に応援している自分がいる、みたいな没入感。これはちょっと凄いなと思いました。

慣性制御というパラダイムシフトによって2巻であんな事件が起き、この巻でも政治的な動きは大きなうねりとなっています。それはもちろんストライクフォールと切り離せず、実際雄星がテロの現場でコントラクターでやったことは、もう戦争に片足を突っ込んでいる。

でも、その中でもこの戦争に近い競技を、スポーツとして、スポーツだからこそできる闘い方で闘い抜く選手たちの姿は、戦争とスポーツという2つのテーマを掲げたこのシリーズが、人々の熱狂と共に、ここで見せつけなければいけないものだったのかなと、読み終えてしばらくしてから思いました。抜群に面白かったし、凄い一冊でした。

苺ましまろ 8 / ばらスィー

 

苺ましまろ(8) (電撃コミックス)

苺ましまろ(8) (電撃コミックス)

 

 現物を見るまでは信じないぞ! と思っていたけれど、本屋に行ったら現物が並んでいたのでマジだ……となった4年半ぶりの苺ましまろ新刊。

初めは可愛いから読み始めたような記憶があって、実際可愛いしいつもながら女児服への執念を感じるこだわりがヤバいんですが、そんなことよりギャグマンガとして相変わらず最高に面白いです。低体温な空気と無駄な勢いとシュールさが可愛い絵柄と奇跡的にバランスが取れないまま同居しているこの感じ、苺ましまろだなって。宇宙人美羽の回で爆笑してからの次の回のオチとかもうズルい。

最後の話は最早マンガであることを放棄している盛大な手抜きなのか、ネタなのか、なんなのかよく分かりませんが、そんなところも含めて苺ましまろの新刊だありがたやと思えたので良い読書でありました。次は5年後かな……。

Kalafina Acoustic Tour 2017 ~"+ONE" with Strings~ 12/3 @ 東京オペラシティコンサートホール

デビューした頃から結構な回数のKalafinaライブを見てきましたが、こんなKalafina初めて見ました。感情がこもっているというか、鬼気迫るというか、圧があるというか。ただただ凄かったです。

Kalafinaは元々ボーカル不定の梶浦由記プロデュースプロジェクトみたいな形で、メンバーが固定されてもその流れで梶浦サウンドを表現するユニットというイメージがありました。今回も言っていたし、今までのMCでもKalafinaの曲は遊びが少ないみたいなことは言っていた記憶もあって。ただここ最近、その隙間で如何に3人の表現をできるかみたいなことをやろうとしている感じは凄くあって、行けなかった今年のツアーのブルーレイを見てもびっくりしたのです。曲と歌い手の主従が入れ替わったというか、曲を表現するユニットが、歌で表現するユニットに変わったくらいの大きな変化があるように見えて。

で、アコースティックライブ。やり始めた頃に見に行った時には、いつものバンド編成ライブのバックがピアノになったくらいの印象だったので、今回もそんな感じかなと思っていたのです。

いやまさかとんでもなかった。いつもの編成のライブと同じ曲をやっても、もう完全に別物に昇華されていて、しかも縛りが少ない分、どこまでも歌で勝負する感じ。落ち着いた曲がメインかと思っていたら、今までにないくらいに激しいライブでした。3人の声が調和したり、ある時はぶつかったりしながら、一つの音楽が構築される感じ。2人が歌って、一瞬の静けさから鋭くもう1人の声が入ってくる瞬間。ぜんぜん違う声色の3人の歌が一つになった時の迫力と鳥肌。これまでになく主張が強いというか、魂がこもっているというか、本当に細かいニュアンスまで表現の限りを尽くして、尽くして、それが3人の音楽になっていく感じ、本当に凄かったです。梶浦サウンドが好きとかそういうのをいったん全部横において、ボーカルユニットKalafinaの凄みを見せられて、息を呑んでただただ圧倒されていました。

Kalafinaについては、ずっと上手いとか美しいとかカッコいいとか思っていたし、大好きだったけれど、凄いとかヤバいとか思うことってあまりなかったんですよ、本当に。だから年始ぶりのKalafinaで、どう受け止めればいいのか分からなくなるくらい、いつの間にこんな凄い歌を歌う人たちになっていたんだろうって。

少し前にコリオグラファーが入って見るライブになった時にも大きな変化を感じたのですが、10周年を迎えようとする中、今まさに起きている変化は更に大きいのかもしれないと感じたライブでした。そして、最新で最高のKalafinaはこのアコースティックライブだからこそ見られるものなのかもしれないな、とも。Kalafinaの音楽に少しでも興味があるなら、今、見に行ったほうがいいと本気で思います。

11月のライブ/イベント感想

11/5 だれ?らじ公開録音~もちろん顔と名前覚えてますよね~

そろそろ惰性で聴いている感じがあっただれらじですが、やっぱこの3人めちゃくちゃ面白いなと思った公録でした。ハイテンションで暴走する野村、毒舌後ろ向きなべーせん、かわいいキャラをやりつつ番組のバランスを取るしーまるの3人のキャラクターの組み合わせは奇跡的だなと。

そして例によって1時間死ぬほど笑ったということ以外の内容は一切記憶に残らないので特にそれ以上の感想もなく。会場限定でやった面接を模した即興コントみたいなコーナーがめっちゃ面白かったことはかろうじて覚えている。

 

11/10 Linked Horizon Live Tour 2017 進撃の軌跡カルッツかわさき

進撃の軌跡(CD+Blu-ray)

進撃の軌跡(CD+Blu-ray)

 

 追加公演を除けばツアーラストになる川崎。流石に30本以上のツアーをやってくると、最初に見た国際フォーラムと比べてもまとまりが出るというか、個人個人が上手いという感じじゃなくて、チームとしての表現が全然違ってくるなと思いました。めっちゃ心臓捧げた。

そしてやっぱりサンホラ曲がアンコールで来ると沸き立ってしまうのは仕方ない。というか合唱隊がメンバー紹介で「神の光」をやったのはひええええってなるでしょ。その前に「神話」をやっていただけに尚更。

 

 

11/24 さユり 夜明けのパラレル実験室2017 ~それぞれの空白編『       』~

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青のポンチョを纏ってギターを抱えて、透過スクリーンの向こうで叫ぶように歌う。その声と姿に、きっと歌うために生まれてきたんだなと、それ以外はないのかもしれないなと思わせるような何かがあって、ああ、この子は歌うたいなんだなと感じました。この先でも、この前でもきっと表現できないだろう、今だからこその歌は、酸欠少女の名を冠する通りの形のない息苦しさと切実さに満ちていて。

野田洋次郎提供曲の「フラレガイガール」がこれ以上ないほど完璧にハマっていて素晴らしかったのですが、やっぱり自分の言葉を自分の声で叫んでこその人だと。だから、最後に歌った「birthday song」が、その青さまで含めて素晴らしかったなと思いました。

でもやっぱり、この歌に呪われるには私はちょっと歳を取りすぎたなあと。大好きなんですが、あと10何年か前に出会いたかったと、少し思ったライブでした。

バビロン 3 ―終― / 野崎まど

 

バビロン3 ―終― (講談社タイガ)

バビロン3 ―終― (講談社タイガ)

 

当然野崎まどなのだから身構えながら読むのです。全く別の話が始まって、それがどんなに丁寧に積み上げられていって、たとえそれがどんなに面白くても、キャラクターにどんな魅力があっても、それは崩すために用意されたものなのだと。

分かってはいたのですが、積み上げたものが無駄ではなくて、ようやくたどり着いた結論を示した上で、ほらだから最初からそう言ってるじゃないとばかりに、あまりにも簡単に崩れていくのを目の当たりにすると、それはやっぱりショックです。そして同時に、ああこれが野崎まどだなと、今回も思うのでした。

自殺法という日本の新域が制定した地方条例は、しかし世界の幾つかの都市に飛び火して、国際問題となりつつあった。そんな中で、アメリカ大統領アレキサンダー・W・ウッドを主人公にこの巻は語られていきます。考える人と呼ばれる、およそ政治家らしくない特性を持った彼と、それを支える腹心たち。それぞれのお国柄が色濃く反映された各国首脳とのやり取り。FBIが報告する「マガセ」という謎の女の存在。そして舞台はサミットへ。

回り道に回り道を重ねて、自殺法というものを考え、考え、考え抜いた彼の辿り着いた結論。この物語自体とても面白くて、読者としてはアレックスに肩入れをして読んでいて、彼の答えはきっと正しくて、だからこそ彼の考える道が一つの救いをこの上ない形で示したことに安堵して、なのにそれは唐突に突き崩される。

回り道の末の回答おめでとう、だってこの物語は自殺法が主眼じゃなくて、最初から善悪の話をしていたでしょうと突きつけられ、その上で純粋悪として立ち現れる曲世愛という存在。シンプルだからこそどうすればいいのかもわからないそれに、いったいどう対峙すればいいのかわからないまま、ただ早く続刊をくださいと思うしかないような3巻でした。本当にどうするんだこれ……。

恋は光 7 / 秋★枝

 

恋は光 7 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
 

 完結、ということはつまり恋の行方にも結論が出るわけで。

もう本当に面倒くさい奴らだな! と思いながら読み続けた恋物語ですが、紆余曲折回り道をしながら辿り着いたところは、「恋」のお話なんだからもう最初からそれしかなかったんじゃないかと、それを確認して踏み出すための道だったのだなという感じ。でもこのぐるぐる回って考えすぎる人たちの恋模様、本当に面白かったし、みんないいキャラしていたなあと思います。

そして、愛情を「本能」と「学習」の2つに分けて、西条のみていた光が何だったのかに繋げる結論もこの作品らしいとは思います。ただ、でも、やっぱり北代さんに、幸せになって欲しかった……。恋には遅すぎたとしても、学習の愛情であっても、それが2人の積み重ねてきた無二のものなのだからいいじゃないかと。

でもまあ性格の悪いことを言えば、恋とは何かしらを経て、そしていつか光らなくなった時に、彼が帰ってくるのは北代さんの隣だと信じています。それはまた逆も然りで、遅くなったとしても最後には隣り合っている2人なのだと。やっぱりああいう関係が、少しずつ形を変えながらでも続いていくという幻想は、見させて欲しいなあと思うのです。