りゅうおうのおしごと! 8 / 白鳥士郎

 

タイトルホルダーの供御飯万智に月夜見坂燎女流玉座が挑戦する山城桜花戦をメインに、間の小咄的に八一たちの短編が挟まる変則的な構成の一冊。

親友同士の闘いに勝負の厳しさや女流の置かれた状況を絡ませ相変わらずの熱さを見せる対局と、姉弟子とあいが焼肉を挟んで喧嘩したり、JS研をなんちゃってアイドルにしてみたり、天衣お嬢様のゲームを作ったりする、あまりに馬鹿馬鹿しい短編の落差に目が回ります。そして最後に控えるは著者が7歳年下(八一とあいと同じ!)の妻との馴れ初めを語る惚気あとがきというこのジェットコースター展開。

というのはまあ置いておいて、勝負の世界では絶対的に弱い女流棋士という存在、しかも下から姉弟子やあいのような化け物に突き上げられている2人が、己のすべてを賭けてぶつかり合う闘い。山城桜花、きらびやかなタイトルであるけれど、同時に鴨川で公開で着物を纏い指すような、そういう扱いのものなのも分かっていて、それでも。奨励会に進んで打ちのめされ女流に戻り、それでも勝負にすべてを捧げた燎と、チャレンジすることすら出来ず、観戦記者という別の道も求めた万智。ライバルにして親友である二人の戦いは、お互いに予想外の指し手で思いの丈がぶつかり合う勝負で熱かったです。

強さこそ全ての世界と言いながら、それでもその闘いは屈指の名勝負になって、人々を熱狂させる。桜舞う川辺で行われた、美しく苛烈な闘いにはそれだけの価値があった。そして、八一たちと比べれば弱いと描かれて、彼女らはそれでも女流のトップで、彼女に憧れ彼女を追いかけ、勝利を祈る綾乃ちゃんのような子供もいる。強さと才能を冷酷に語りながら、そこに焦点を当てるほどに、それだけではない何かが見えてくるのが、とても魅力的な作品だと思います。

超動く家にて 宮内悠介短編集 / 宮内悠介

 

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

 

 「深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた」

 宮内悠介のくっだらない話サイドの短編集ということなのですが、お前はアホか!! って本を壁に投げるタイプという訳ではなく、くだらない発想を大真面目に膨らませたといった感じ。いや、表題作や「トランジスタ技術の圧縮」は出オチかよ!! って感はありますが。特に表題作の「超動く家にて」。たしかに超動いてた。動いていたけど、まあ、うん。あとエラリー・クイーン数な。

くだらないことを大真面目にとは言うものの、作品ごとにかなり振り幅が大きくて、全体的には読み味は雰囲気があるというか、深みがあるというか、余韻がのこるというか。高度に発展したくだらない話は、私レベルではSFや文学と区別がつかないというかなんというか。他作品を読んでも感じた作者の頭の良さと真摯さがあらゆる方向に発揮されているような、あるいは手癖でそう見せかけているだけなのか。最終的には「あーそーゆーことね完全に理解した(わかってない)」状態になっている私がいました。そんな中で本当にただひたすらにくだらないだけの話として輝いていた「犬か猫か?」が好きです。お前それどうでもええわ! っていう。

あとは、政情が不安定な時代を背景に、失われつつある言語で物語を筆記する使命を与えられたAIと、演技性パーソナリティの少女の関係を描いたボーイミーツガールな「アニマとエーファ」が普通にめちゃくちゃ面白かったです。好き。

それと宇宙ステーションを舞台に大の大人が本気で野球盤対決する「星間野球」は最高でしたが、これ本当に「盤上の夜」に収録されないで良かったな!!

要するに宮内悠介作品というのは、文学賞で候補になるような大真面目と本作のようなくだらないの両極端にあるわけではなく、当たり前のようにその間にあるものかなと思います。方向としては何も差分はない、というか。そして、そこから生まれてくるものが私は好きだなと思った短編集でした。

BEATLESS 上・下 / 長谷敏司

 

BEATLESS 上 (角川文庫)

BEATLESS 上 (角川文庫)

 
BEATLESS 下 (角川文庫)

BEATLESS 下 (角川文庫)

 

アニメ化に合わせて 大幅加筆修正で文庫落ちということで、5年ぶりの再読。あとがきでも書かれているのですが、この5年で古くなるどころか、AIもクラウドも話題に上る事が増えて、時代が追いついてきている感じがするの、正直凄いと思います。

そして久しぶりに読んで、ああこの小説は文庫上下1200ページを費やして、ひたすらにヒトとモノの関係の限界ぎりぎりを攻め続けるものだったなと。人のかたちをしたモノであるhIEとの関係、そして人を超える知能を持つ超高度AIとの関係、この2つのテーマを軸に同じ場所を何度も何度も違う色で塗り直していくような物語になっています。<人類未到産物>であるレイシア級hIEたち。その1機であるレイシアを拾ったアラトと彼の周りの人たち。レイシア級を生み出した超高度AI。管理元であるミームフレーム社。

近未来を舞台に様々な人たちの様々な立ち位置が、ヒトとモノをめぐる物語を動かしていき、明確な答えが出ないままに反復され続けるテーマは、かたち、意味、アナログハック、キャラクター性、経済へと広がりながら怒涛の展開になだれ込みます。誰かにとっての正解が、誰かにとって正しい意味をなさない、人類の愚かさいい加減さとその反面の強かさが、AIを前にして問われ続ける人とモノの関係の臨界点の物語は、同時に最初から最後まで、ヒトとモノ、アラトとレイシアのボーイミーツガールの物語でした。本当に、あまりに濃密で、壮絶で、なんというか、ただただ凄いものを読んだなと。なかなか分量的にも読み応えのある作品ですが、とにかく読んでみてと勧めたくなるような小説です。

元々が連載作品だったこともあるのか、そこらじゅう盛り上がりっぱなしで特に後半は大変なことになっているのですが、個人的に好きなシーンは紅霞の最期。人の闘争をアウトソースされる道具である彼女が、個体性能の限界に行き当たった時に目的を為すために取った行動があまりに人間らしく見えて、裏返って人間とは何かを問われているようで印象的でした。彼女の上位互換であり、人間を拡張する道具であったメトーデも同じで、そこがヒトとモノと環境の総体にこころを見出したことへ繋がっていった部分でもあるのかなと思います。

あと、人より優れた知能がある世界の中で、かたちに意味を見出すことが人だけに残された特権であるのなら、難しいことは考えず一番目の前にあるかたちに怒って泣いて喜ぶアラトの妹のユカが、この作品の時代において、誰よりも人間らしかったのではないかなと思ったり。

 それから、一番好きなキャラクターはエリカ・バロウズなので、彼女がコールドスリープから目覚めた時のことが描かれたS-Fマガジンの短編も読みました。

S-Fマガジン2018年4月号

S-Fマガジン2018年4月号

 

 21世紀から来た彼女に、22世紀の世界がいったいどのように見えていて、その憎悪の出処がどこにあったのか。そして彼女が何故ああいう行動を取ったのかがよく分かる短編になっていて良かったです。個人的には、この時代において人間の手で何かを掴み続けることを志向するリョウたちに対して感じた違和感が、エリカの視点を通すことではっきりと腑に落ちた感じがありました。

劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ

 

ワルキューレは裏切らない

ワルキューレは裏切らない

 

 マクロスΔTVシリーズは、誰の物語でどこが盛り上がりどころかつかめないままふわっと進んで、これで終わり? っていうところで終わってしまった感じがあったのです。それで総集編ならどうなのかなあと思いつつも、3rdライブを見て興行収入に貢献しなければと見に行ったのですが、劇場版、めちゃくちゃ面白かったです。

とにかく、TVシリーズからフォーカスを完全にワルキューレに絞ったことで、ストーリーの軸がしっかりとして、何を描きたいかが非常にわかりやすくなっているのが良いです。あと劇場版で追加変更されたストーリーも、全てがワルキューレを中心として整理されているのでとっても見通しが良い感じ。というか銀河をかけた戦争が起きているのに、命に変えても推しを守るオタクと、無理やり自分たちの好きな曲を歌わせようとするオタクの争いみたいになってて、敵も味方もワルキューレ大好きだなって。

そう、多分これ、ワルキューレ大好き、ワルキューレやべえって映画なんです。2ndライブを受けて何も予定がないところから作られたというだけあって、ワルキューレの楽曲が流れまくり、ワルキューレとそのメンバーたちの物語があり、ワルキューレが歌って闘って恋もする。あとその背景でめっちゃ大きい戦争とかしてる、みたいな。

その分、ハヤテは父親のエピソードも全カットで完全にフレイアの相手役になっていて、ミラージュに至ってはもはや添えるだけになっているので、そっちを主人公だと思って見ていた人には不満が残るかもしれませんが、ワルキューレが好きなら最高の映画だと思います。3rdライブでJUNNAがMCでああいうこと言って、ああいうパフォーマンスしたの、映画の美雲を見てなるほどって思いました。

あと、全体としては2クールのストーリーを120分に詰める分かなりダイジェスト感もあるのですが、その圧縮ぶりが逆に勢いにつながっている感じがあります。特に後半に向かってのクライマックスの連発、王道お約束の連発、そしてライブ! ライブ! 戦闘! ライブ! の高濃度っぷりがたまらなかったです。一度だけの恋なら~Absolute5~ワルキューレは裏切らない~Absolute5の流れ、歌詞と物語が完璧なシンクロを見せながら、あの映像でこの歌が映画館の音響で迫ってくるんだからそりゃあテンション上がるでしょって。

この最近のエンタメの流行り的な、勢いとテンションで全てを押し切っていく感じ、本当に好きなやつで最高でした。シンフォギアとかキンプリとか好きな人は是非。あと例によってガルパン、ハイロー、ラブライブが好きな人も是非。いやほんと面白かった。ちなみに私はフレイア推しです。

2月のライブ/イベント感想

THE IDOLM@STER SideM 3rdLIVE TOUR 〜GLORIOUS ST@GE!〜 2/3・4 @ 幕張メッセイベントホール

THE IDOLM@STER SideM ANIMATION PROJECT 01「Reason!!」 (通常盤) (特典なし)

THE IDOLM@STER SideM ANIMATION PROJECT 01「Reason!!」 (通常盤) (特典なし)

 

両日LVで鑑賞。初日は全ユニット揃い踏みですが、何はともあれJupiterのライブだったと思います。ついにライブで披露された961プロ時代の楽曲「Alice or Guilty」から、スクリーンのロゴと衣装が315プロ仕様に変わる演出を挟んでの「Brand New Field」は、Jupiter推しではなくてもグッと来るだけの破壊力があった……。苦節10年、アニメのEpisode0をやったからこそここにたどり着いて、始まりを回収できたというのはドラマだなあと思います。

2日目はSideMで私の好きなユニット集めました公演みたいになていて大満足だったのですが、本当にS.E.Mめっちゃ良かったしめっちゃ好きだわと思いました。あのいい歳して大真面目に手に職捨ててアイドルなんか始めちゃった3人が夢と情熱を掲げて頑張ってる姿に、頑張れる勇気をもらえる感じ。その中でもまいたるの「THIS IS IT!」が最高に最高でした。えのじゅん最高だった。あとCafe Paradeのダンス含めた完成度めっちゃあがってるなと「Reversed Masquerade」を見ながら思ったり。

 

OLDCODEX Arena Tour 2018 “we’re Here!” 2/8 @ 横浜アリーナ

TVアニメ『Butlers~千年百年物語~』OP主題歌「Growth Arrow」(初回限定盤)(DVD付)
 

 シンプルにめっちゃカッコいいし、良いバンドだなあと。色々言われてきたけどみたいな話はMCでもあった通りなんだろうと思いますが、そういうのも全部糧にして乗り越えて、今最高に充実してるんだというのが強烈に伝わってくるようなライブでした。

そして単独ライブだと、ペインターがあるべくしてそこにいるというか、だってライブなんだからいなくちゃおかしいでしょ? くらいの勢いでOLDCODEXの表現の一部だと分かるのが、なるほどなあと。特にYORKEにスポット当てた一連の流れは他では見れない表現で凄く面白かったです。キャンバスも燃えたし!

あと、フルライブの曲数をあのハイトーンからグロウルまで多様で常に全力な歌い方で声が枯れる気配もないのは、とんでもない喉の強さで才能だとなあと思います。

 

小山剛志カラオケ企画 カラオケMAX 2/18 昼の部 @ 川口総合文化センター・リリア メインホール

声優がカラオケをしているだけのイベントと言ったらそれまでなんですが、これがほんとうに最高に面白いから発見だよなあと思うカラオケMAX。同じメンバーが出演しても、この楽しさはカバーソングライブじゃダメなんですよ。選曲の意外性にモノマネがあったりネタに走ったりガチだったり、カラオケだからこその盛り上がりがやっぱり楽しさの源なんだなと。

今回はとにかく藍原ことみにびっくりしました。なにあのモノマネのクオリティ。中森明菜広瀬香美とそれもうモノマネなのではという歌を披露した後の、モノマネコーナーのYUKIが歌い出しで会場がざわついたくらい凄かったです。というか音域も広ければ声色も凄い幅で、しかも歌はべらぼうに上手いと、もうモノマネタレントでやっていけそうな感じすらしてちょっと驚きでした。モノマネ歌謡ショーの開催待ってます。

あとは相変わらずすごいクオリティだった伊東健人土岐隼一コブクロと、めっちゃ百合だった飯田友子藍原ことみのテゴマスが良かったです。

 

マクロスΔ』戦術音楽ユニット”ワルキューレ” 3rd LIVE 『ワルキューレは裏切らない』 at 横浜アリーナ 2/25

ワルキューレは裏切らない

ワルキューレは裏切らない

 

 

LVで鑑賞。去年声優によるキャラクターユニットだと思って見に行ったら度肝を抜かれたワルキューレなんですが、今年は凄いものを見に行くぞとめっちゃハードルを上げて見に行ったのに、そのハードルを超えて凄かったので、もう凄いんだと思います。

生バンド背負って、激しいフォーメーションダンスをしながら、主旋律を歌う人がどんどん入れ替わりながらハモりまくるのを、キャラクター表現としてやっているというのが、何度見てもとんでもないなあと。あとは5人のキャラクターとキャスト5人自身のシンクロ具合が、この5人じゃなくちゃダメなチームとしてのバランスという意味でも完璧なのが、割と奇跡的なキャスティングなんじゃないかと思いました。

先の予定も決まっていない中で、恐らく最高で完璧なライブをとやったのだろう2ndに比べて、今回はパフォーマンスもMCもかなり崩した部分の多い、その分とても生き生きとしたライブだったのが印象的。

特に後半激しい曲を畳み掛ける中で、JUNNAと鈴木みのりのストッパーぶっ壊したような絶唱の連続がとんでもなかったです。特にJUNNAのこの一曲で声が出なくなってもかまわないっていう感じで、丁寧にやるつもりもペース配分も何もない、自分の全てを叩きつけるようなパフォーマンス、ちょっと凄まじいものがありました。MCで今回は果てるまで歌うつもりで来たと言っていて、まさにと。LVで見ていても、あのパートの5人同士、そして観客との相乗作用で、ボルテージが上がっちゃいけない領域に上がっていく感じがして本当に凄かったと思います。

例によって次の予定があるかもわからないところではありますが、ワルキューレというユニットはこんな所で終わらせちゃダメだろうと、そう思うライブでした。凄いものを見た。

てるみな 3 / kashmir

 

てるみな 3

てるみな 3

 

 猫耳幼女と鉄道と異界。現実に存在する場所や路線と、不条理が支配する幻想の領域がシームレスに繋がるこの読み心地。唐突に始まって条理を外れたままに終わり、そしてまた全く別の場所から次の話が始まる感じ、まさに現実を一枚めくったところにある異界というか、垣間見た悪夢の世界のようで、相変わらず大変に好みです。人気があったのかどうなのかは分かりませんが、Neuとして続いて3巻が出て嬉しい限り。

そしてここにきてちょっとずつ幻想に侵食されているというか、最早ホラーみたいな話が増えているような印象。ただ、これは無いだろうと思ったものが、調べてみたら実際にモデルがあったりするので油断ならないというか、出てくるものをちょいちょい調べながら読んでいると意外と勉強になるのではという気もしました。

パンツあたためますか? 2 / 石山雄規

 

パンツあたためますか?2 (角川スニーカー文庫)

パンツあたためますか?2 (角川スニーカー文庫)

 

 あの結末から一体何をどう続けるんだと思ったら、ヤバい女が増えた……という感じの続巻。真央が地元に帰ってそれでも手紙のやり取りは少しあり、大学生活は相変わらず低空飛行な久瀬に、絶対関わっちゃいけないでしょこの人という女たちからのモテ期? が到来するという話なのですが、これが本当にヤバい。

留守中に人の部屋のベッドでパンツ握りしめて全裸で寝てるあなたにハッピーエンドをもたらすと宣う隣人と、バイト先でちょっと助けたらいきなり身の上話を語りだして何もしてないのにあなたの子を妊娠したと迫ってくるゴスロリが、どっちも話したこともない個人情報を把握していてストーカー疑惑があるってかなり警察に行ったほうがいい事案ではっていう。

そんな引きの強さのある話ですが、中身は結局ダメ人間たちの青春模様であり人間模様。正しさに振り回されたり、寂しさに振り回されたりしながら、それを上手くコントロールもできず、信念を貫けるわけでもなく、コミュニケーションのとり方は滅茶苦茶で、でも彼ら彼女らはここで生きているんだという感じ。こういう人たちを、こういう手触りで書いてくれる小説、本当に好きです。構成も文章も上手いとは思わないですが、それもまた作品にあっていると思います。

しかしまあ理沙はちょっとヤバさの度合いが違うというか、自分に実現できない理想を安全な場所から人に押し付けて救世主のように振る舞うのは人としてアレ過ぎる感じ。それからあの姉妹はお誕生日会のシーンがとても良かったのでここからちゃんと幸せになってほしいなあと。あとアクが強いキャラが多すぎて真っ当にヒロインしている優が不憫。そして何はともあれ、この話は久瀬と真央の話なのだなあと思いました。

そして2巻を読んでもやっぱりこのタイトルにした編集者はちょっとどうかしてると思いました。内容が何一つ伝わらない……。