GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ / 大樹連司

 

 傑作。凄いぞこれ。

アニメゴジラ前日譚の第2段は、人類がゴジラに追い詰められ、メカゴジラという希望に縋り、そして地球脱出を余儀なくされるまでの記録。前作同様に当時の証言を重ねていくドキュメンタリー形式で、人類が追い詰められ狂っていった凄惨で壮絶な歴史を描き出します。そしてその歴史の中に、私に拾えるところだけでも膨大な過去の東宝特撮の要素をこれでもかこれでもかと配置しながら、一つの史実として成立させてるのが凄まじいです。もう年表読むだけでワクワクするやつ。アニメゴジラの前史にして、とんでもないクオリティの二次創作というか。

とにかく圧倒的なゴジラの恐ろしさと、異星人がもたらしたメカゴジラに縋り、その建造時間を稼ぐためだけのゴジラ誘導作戦にロクな武器も与えられず死んでいく人々。そしてゴジラをそこに留めるためだけにヒマラヤ山脈を崩して断層にするという途方もない作戦。荒唐無稽なフィクションの極地のような出来事も、その現場に居た人々の証言の生々しさに、いつしか人類が直面したこの惨憺たる負け戦が本当にあった歴史のような気がしてくるのがもうヤバいです。だんだん、こんな悲惨な歴史を果たして楽しんで読んで良いものかみたいな気分にすらなってくるので、だいぶキマっている感じ。

全てのリソースがメカゴジラ建造に向けられた結果、困窮していく最前線。ビルサルドがいなくなったらもう直せない超兵器という名のガラクタ。結果投入されたのはアホみたいな例のバイク型兵器。特攻だとしか思えない攻撃に、先の見えない闘いに自ら死のうとする兵士たち。欠員を埋めるため動員されるのは難民となっていた少年少女で、彼らを教育した兵士にそれでも感謝を述べて死んでいく。

それだけならげんなりするだけなのですが、語られるエピソードがまた琴線に触れるような話が多いのです。ゴジラが見かけ上活動を止めていた期間と妖星ゴラスの話も面白いですし、メカゴジラプロパガンダムービーを作ったモデルはあの人だろうと推察できる映画監督の話に、希望が失われ火の海となった羽田空港に現れる少女だけの冷凍メーサー戦車隊とか、崩される前のエベレストに向かった山男の話とか。これだけで長短編何本作れるんだろうというエピソードが次から次へ断片として語られるので、200ページにも満たない小説の濃度が大変なことになっています。

そして中でもどうしても好きになっちゃうじゃんというのが、人類を守るために闘った怪獣たちの話。メガロと同士討ちするキングシーサーがちょろっと語られただけでテンションが上がるし、「オレたちのガイガン」はもう泣くでしょあんな話……。そしてそこから、地球圏を脱出して終わりかと思っていたこの作品の最後の最後にきた大ネタ仕込みに繋がって、それがアニゴジ1作目ラストのあれにも繋がって、それで、やっぱり人類の守り神はあの怪獣! ってやられたらもう私の負けですよ。完敗。

他にも明らかに起動させたらそれはそれで大変なことになるのが目に見えているメカゴジラという存在や、オキシジェン・デストロイヤーをそういう扱いにしたのか上手いと思った矢先に現れるこれデストロイア幼体じゃないっていうあれだとか、気になることがたくさんあって、なんだかやっぱり映画を見に行かないといけない気分になりました。

あと、ここまでやってそれでもアイツが出てこいないのだから、映画3作目は当然あの怪獣が中心なんだろうな、とか。

4月のライブ/イベント感想

4/5 相坂優歌 ファーストライブ「屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま」@ Zepp DiverCity TOKYO 


4/7・8 THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS Initial Mess@ge LV

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 010 島村卯月

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 010 島村卯月

 

 シンデレラガールズの台湾での海外初公演をLVで。

これまでのシンデレラガールズをダイジェストで見せていこうというコンセプトが見えるセットリストに、極限までシンプルなセットと演出。周年ライブでは逆にもうできないような、シンデレラガールズの素をぶつけるようなライブになっていたと思います。シンデレラガールズは常に変わっていくものだと思っているのですが、序盤の初期メンバーソロからの「ススメオトメ」は、もうどうしても1st舞浜アンフィが脳裏をよぎってダメでした。走馬灯か。

あと、「S(mile)ING!」。私が島村卯月大橋彩香に落ちたのはアニメの時で、それはあの時に彼女が抱えていた物語が刺さったからで、それを受けての3rd、4thのこの曲も良かったんですよ。あれも乗り越えた先の形だったから。でも今回はそこから更にずっと先に行っている島村卯月大橋彩香としての表現がそこにあって、ああ立派になった、もう大丈夫だって思ったらなんか泣けてきてですね……。「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」的なメッセージを感じたというか。こう、あとはもう地元で畑を耕しながら、街に出て活躍していることを風の便りに聞ければいい、彼女の歩む道が幸せであれ、みたいな、そういう。いや、本当に好きで良かった……。

 

4/28 THE IDOLM@STER SideM 3rdLIVE TOUR 〜GLORIOUS ST@GE!〜 静岡1日目 LV

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 彩ってあまり好みではなくて、ライブでも今まではピンと来ることのないユニットだったんですが、今回はとにかく凄かった。特に、2人だけで歌った「喝彩!~花鳥風月~」。1人足りないからと言わせないというあの気迫に満ちたパフォーマンス。スクリーンに釘付けにされるくらいに、胸にくるものがありました。

あとは「我が混沌のサバト・マリアージュ」からの「Reversed Masquerade」が素晴らしかったのと、やはり他とは仕上がり度合いが違うドラスタの「MOON NIGHTのせいにして」も良かったです。

大楽は見れていないのですが、ツアーを通じてパフォーマンス面でも立ち振舞の面でも、出演者同士の絆という面でも大きな成長が見えたのが、良いツアーだった証なんじゃないかなあと思います。

 

4/27 プリンセス・プリンシパル STAGE OF MISSION @ 舞浜アンフィシアター

プリンセス・プリンシパル STAGE OF MISSION [Blu-ray]

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 プリプリ続編は劇場版全6章! ガルパン方式! 

ということで、狭く熱烈なファンだけを見据えて続けていくからお前らついてきてお金を落としてくれよな!! という熱いメッセージを感じるイベントでした。そりゃあイベントブルーレイも発売される。お布施だわこれ。

イベントの方はOP&ED&キャラソンライブ+声優トークコーナー+朗読劇の至ってスタンダードな形。プリンセスのキャラソンとOPが聞けたのが良かったです。あとこの5人が集まると相変わらずわちゃわちゃとうるさいな! っていう(悪い意味ではなく)。

1518! イチゴーイチハチ! 5 / 相田裕

 

1518! イチゴーイチハチ! 5 (ビッグコミックス)

1518! イチゴーイチハチ! 5 (ビッグコミックス)

 

 生徒会の活動を通じて距離が近づいてきた幸と公志朗。そんな中、公志朗のクラスメイトであるナカナツが公志郎に急接近! 二人の仲はどうなっちゃうの!! みたいなあらすじが背表紙に書いてあるんですけど、本当にそういう話でした。ど王道少女漫画展開か。

野球への区切りがついた所でそうかそういう展開になっていくか、なっていくよな青春だものっていう感じなのですが、2人の初々しさが最高に素晴らしいです。お互いを意識し始めたばかりの関係みたいなものを描いてもこの作者は上手いなあと。2人ともめっちゃ良い子だし、可愛いし、微笑ましいというかなんというか。公志朗が野球の代わりだと考えたくないというのも、幸が恵まれた自分と相手の差に悩むのも、ちょっと不器用なくらい生真面目で、けれど真摯で良いなあと思いました。

ただ個人的にはナカナツめっちゃ好きですね!

賭博師は祈らない / 周藤蓮

 

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)

 

 18世紀末のイギリスを舞台に、勝たない、負けないを信条とする賭博師のラザレスが、勝ちすぎるという失敗を帳消しにするために賭場と引き換えた少女奴隷のリーラ。喉を焼かれ意思表示の手段を奪われ、決して逆らわないように調教された彼女を、ラザルスは「どうでもよい」という口癖の通り、踏み込まず捨てもせず、コイントスの結果に従いメイドとして働かせ始めるというような導入のお話。

声も表情も、感情を表す全てを失い、ただその瞳に怯えをよぎらせる奴隷の少女と、孤児から賭博師に拾われて仕込まれた、その道で生きていくには純粋すぎるばかりに心を殺す青年。世相の厳しさと賭博師という刹那的な生き方を背景に、少しずつ、お互いに生まれていく人間らしい感情が非常に良いです。それは信頼だったり、愛情だったり、2人にとってはずっと遠かったもので、だからこそ特別になり得た。そして、何も抱えないことを自分に課していた青年が、奪われた少女を取り戻すために、考えもしないはずだった無茶な勝負に踏み出すのだから、それはもう控えめに言って最高でしょう。

そしてまあリーラが可愛いんですよ。褐色銀髪で木版に単語を並べてどうにか意思疎通が取れる元奴隷の少女。主人であるラザルスにめちゃくちゃ懐いている感じがなんというか、捕まって怯えていた野生動物が飼い主にめっちゃ懐いたみたいな趣があって好きです。ラザルスはラザルスで心を閉ざした野生動物みたいな感じなので、2人の関係の変化が、こう、人から遠ざかっていたものが人になっていくような話が趣味なのでとてもツボでした。あと、この時代を生きるにはあまりにも真っ直ぐすぎて、その真っ直ぐさ故に時代を変えていく拳闘士のジョンが本当にいいキャラクターだと思います。

ラザルスにとってリーラを取り戻す闘いの手段であるギャンブルの部分が、ヴァンテアン(ブラックジャックの原型)のカウンティングから最終的にはちょっと異能バトルみたいになるのでどうなのかと思いつつ、この作品は2人の関係と時代の持つ空気感みたいなものを楽しみに読むものなのかなと思いました。良かったです。続きも読みます。

彼女がエスパーだったころ / 宮内悠介

 

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ

 

 これは凄い小説だと思うのですが、何がどうすごいのか分からないというか、宮内作品はだいたいが私にはちょっと難しくて分からないとなるのですが、なんだか惹かれて読んでしまう不思議な感じがあります。たぶん、この作品で科学と超常現象の狭間に描かれているものは人間で、この人が捉えている人間というものが私には分からなくて、でもそれを知ることができたら何かが分かると感じられるからなんじゃないかなと。

そんな感じの連作短編は、火を使う猿、エスパー、オーギトミーに代替医療、水の浄化と胡散臭さ極まるジャンルへ取材を行う主人公の視点から、それに関わる人たちの姿が浮かび上がってくる構成。科学と超常現象。本当と嘘。理解できるものと理解できないもの。そんなに簡単な二律背反にならないのは、そこに人が関わっているから。そこで人が生きているというだけで、意味が形を変えるような感覚。ここに描かれているのは人間を切り離して成立する理屈が届かなくなる臨界点だから、科学的なものと超常的なものの狭間に、人間の人間たる人間性みたいなものがたゆたっているような、そんな印象がありました。

そしてまたそういう事を考えなかったとしても、超常的なものの出現が人間社会に連鎖的に何を起こしていったのか、それを追うルポルタージュ的な読み物としても面白いです。火を扱う猿が現れる「百匹目の火神」から、そうなるのか、ええそうなっちゃうの、でも何だか分かる気がする、みたいな。関わっている人たちは真剣で、でも与太話的な、どことなく脱力するようなくだらなさがあって、これもまた人間だなあと思います。

超常的なものの種明かしをしたりとか、謎を解くという方向には行かず、それがあることによって人はどうなるのか、人が何をするのかというのを掘り下げに行くような作品。そしてそれによって、映し出されたものが、やっぱり私にはわからないのだけど、凄いと思わせるに十分すぎるものであったのだと思います。いや、凄い小説でした。

虚構推理 8 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理 特装版(8) (月刊少年マガジンコミックス)
 

 ここまでの虚構推理はミステリのルールを逆手に取るようなトリッキーな作品だったのですが、今回収録された「電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを」はあとがきでも触れられていますがかなりオーソドックス。電撃を放つ人形という怪異が何故生み出されたのか、そして真の目的は何であるのかに、琴子と九郎が挑むという伝奇アクションミステリになっています。普通はこれを1巻で導入エピソードとしてやるのでは、と思ったりもしますが、ただここまでにキャラクターが確立しているからこその面白さは当然ある訳で。

そんな感じに、相変わらず強烈な琴子のキャラクターと2人の関係性。そしてこちらもなかなかのキャラクターを持った多恵婆さんに、そんなんありかよな怪異の存在、そしていつものように九郎先輩が死ぬアクションシーンからの、なるほどと思わされる事態の真相まで、バランスよくこの作品らしい一冊です。面白かった。

あぶない叔父さん / 麻耶雄嵩

 

あぶない叔父さん (新潮文庫)

あぶない叔父さん (新潮文庫)

 

 麻耶雄嵩の作品世界において、「探偵」というのは真実を規定する絶対の機能であって、解説でも書かれている通り、その真実とそれを導くロジックが正であるが故に、探偵自身、探偵周りの人物、その関係、そして世界そのものが歪むというのが麻耶作品の構造だと思います。

それで、ここ10年位はその構造を突き詰めるかのように極端から極端へ探偵のバリエーションが提示され、ロジック自体を切り離して使用人に任せる貴族だったり、むしろ全てをすっ飛ばしてまず真実を規定する神様だったりが登場してびっくり探偵大博覧会の様相を呈してきた訳ですが、この作品もまたとんでもない探偵のかたちを提示してきたなという感じでなんともはや。

そしてこれ以上語りようが無いので、以下ネタバレありで。

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに真実を明らかにする機能として叔父さんと語り手である優斗は成立している訳ですが、いやでもそりゃあお前がやったんだから分かるだろっていう。事件に巻き込まれた叔父さんが不運やいらぬお節介で事件を複雑にしたり隠蔽したり自ら手を出しちゃったりして、叔父さんに憧れる優斗はそれを叔父さんは優しいからで流してしまうという、歪な二人だけの解決編。

犯人は別に居たりするので叔父さんは捕まることもなく、連作短編の中で探偵の役割を担い続けますし、叔父さんの自白(?)前のワトソン役の優斗が集めた情報からミステリとしての理屈は通るのですが、なんだろうこのもやっと感。確かに麻耶世界における探偵の試みとしてはよく分かるし、構造を楽しむ作品であるのだろうとは思いますが、それにしても人には勧められない一冊だなと思いました。この辺り「化石少女」とよく似ているというか、なんというか。