スカートのなかのひみつ。 / 宮入裕昂

 

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

 

 圧倒的な熱量と疾走感が吹き抜けていく青春模様。独特のセンスとリズムに乗って語られる物語は、粗っぽいといえばそうなのですが、洗練されていないからこそこの無秩序な熱量が生まれるのかなと思います。

女装趣味を隠していた天野の前に現れた、行動力が肉塊の形をしたような男、八坂幸喜真。女装アイドル、メアリー、病院の怪獣、タイヤ泥棒、白蛇祭。ばらばらに語られる少年少女たちの物語はいつしか一つの流れになって、ただ前へ進め、諦めるな、自分を貫けと謳い上げます。

これは、コンプレックスと理不尽さと困難と己に降りかかる全てを大向うに回して、夢と希望と自分自身を叫べ! 跳べ! 一歩ずつでも進め!! と訴える物語です。それは言葉にしてしまえばどこかチープに感じられるような青臭さであって、けれどやっぱり物語という形で描かれると、それが普遍的で、なおかつ特別なものなんだと思えます。そう信じさせてくれるだけのパワーがある一冊でした。

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 3 / バンダイナムコエンターテインメント・廾之

 

 U149はシンデレラガールズの小さい子たちが中心の作品なのですが、年少組が中心ということで何が特徴的かというと、全てがシンプルになることなんじゃないかと思います。次々に起きる出来事に、驚いて、喜んで、悩んで、泣いて、笑って、助け合って。もっと上の世代のアイドルたちを中心にしたら、なかなか出てこないようなプラスにもマイナスにもストレートな反応が重なって、彼女たちの時間を作っていく。大人の事情に振り回されることがあっても、チビPがなんとか踏ん張って、彼女たちの世界を複雑にはさせないように、いつも同じ目線で彼なりに考えて行動してくれる。だからこそ生まれてくる関係だったり、輝きだったりがあって、それを前にすると、ああ、これが尊いということか以外の語彙力を失います。

そんな訳でこの巻も素晴らしかったんですけど、特に佐々木千枝回、本当に素晴らしいと思います。リーダーを任されたことで彼女なりのコンプレックスと気負いがあって、背負い込んで崩れそうな時に手を伸ばしてくれる大人と仲間がいるということ。人見知りな子が一歩踏み出すための物語は、同時に第三芸能科の絆とPの成長にも繋がっていて、なんて素敵なお話なのだろうと。

これだけ多くのキャラクターが登場するのにそれぞれの特徴を掴んで、愛を感じる描写と丁寧な物語をいつも読ませてくれるのは、本当に有り難いことだと思いました。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室 / 木元哉多

 

閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室 (講談社タイガ)

 

 相変わらず読みやすく面白くて、新人の初シリーズ作品とは思えない安定感。話の中に因果応報の大原則が揺るぎないものとして存在しているので、非常に安心して読めるというのも高ポイント。あと沙羅が可愛いしな!

この巻も未練を残して死んだ者が閻魔大王の娘の前で、生き返りを賭けて、自分が誰に、何故、どうやって殺されたを推理する短編集という形式はそのままに、少しバリエーションを付けてきて飽きさせない感じ。一度死んだ人たちが、自分が殺されるに至った経緯や自分がどう生きてきたのかを振り返って、ちょっとだけ良い方に変わって生き返っていくのというのはこのシリーズのパターンですが、そこも捻ってきた2話目が良かったです。

あと1話目と3話目も、悪い人じゃないんだけどちょっと横暴で周りが見えないというか、自分が正しいという思いが強すぎた人たちが、少しだけ変わっていくその匙加減がまた絶妙で上手いなあと。その中心にこの世ならざる存在として沙羅がいるというのも、構図が決まっているというか、画になるというか、全体的にあるべきものがあるべきところにちゃんとある上に、一本筋の通った話になていて、本当によく出来ているなあと思います。そしてちゃんと面白くて読後感も良いという。次の巻もとても楽しみです。

5月のライブ/イベント感想

4/4 THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆ @ DMM VR THEATER

idolmaster.jp

日替わり主演アイドルは真。DMMシアターは透過スクリーンなんですけど、奥行き感があって本当にステージ上にいるような感じ。映像+録音よりも、生の声を当てたり、リアルのダンサーさんと一緒に踊ったほうが本当にそこにいるように感じられるのが人間の感覚って面白いなと思いました。そして一番やばいのは曲よりもリアルタイムで観客にキャラクターが反応を返してくるMC。前にいた真Pが指名されて泣き崩れた。

通常のアイマスライブは半々より重めに中の人コンテンツなので、このキャラクター純度100%のあり方は面白いなあと思います。今回は担当では無かったから興味深いなあと思ったけど、推しでやられたら私も崩れ落ちるかもしれない。

 

5/5 岸田教団&THE明星ロケッツ presents “ガチです(ФωФ)!” @ ディファ有明

ストレイ

ストレイ

 

 ディファでセンターステージでガチですって絶対岸田さんがノア好きだったからでしょって思ったけど、まさか入場したらリングがあるとは思わなかったし、2階に横断幕かかってて芸が細かくて笑いました。

まあそんなノリで、はやぴ~さんがサホーレバーフバリで入場してきた時点でもうダメだったんですけど、茶番含めて最高に楽しいイベントでした。岸田教団+西沢幸奏とか、岸田教団+Geroとか、そんなのゴリゴリのステージになるに決まってるし、リングからガンガン煽られたらそれはもう楽しい以外にないじゃないですか。本当に楽しいイベントで、是非次回もやってほしいです。ディファは閉館しちゃうので、じゃあいっそ次は後楽園ホールかな……。

 

5/12 BanG Dream! 5th☆LIVE Day1:Poppin’Party HAPPY PARTY 2018! @幕張メッセ展示場

CiRCLING

CiRCLING

 

 なんかもうすっかりバンドだなあと毎度謎の感慨に包まれたポピパ。大体見るたびに少しずつうまくなるので追いかけている感があって良いです。ただ、もう少しフルバンドの曲がね、聞きたいんですよ。へごが前に出てきて歌うのもそれは求められてるのだろうし、声優コンテンツとしての正しい在り方が今の路線なのも分かってはいて、それはもちろん楽しいのですが、もっとがっつりバンドとしてライブをするところも見たいんです、と思ってしまうのも毎度なのでなんとも。

ついに初披露された「夏のドーン」は最高に楽しかったし、「CiRCLING」も大団円感半端なかったし、なにより「Light Delight」があまりにエモくて震えました。あの照明の中で、あの曲を、ああいうふうに演奏できるのか……っていうのも。

 

5/13 BanG Dream! 5th☆LIVE Day2:Roselia -Ewigkeit- @幕張メッセ展示場

Anfang

Anfang

 

 これはもうほんとべらぼうに凄かった。

 

5/19 LAWSON presents TrySail Second Live Tour “The Travels of TrySail” @幕張メッセイベントホール

TAILWIND

TAILWIND

 

 若さ、明るさ、勢いというか、すごい陽のパワーを感じるライブでした。めっちゃ上がって、みんなで元気になる! みたいな。歌って踊って可愛くて、アイドルとしても正しくて、そりゃあもう人気もでるだろうと。あとTrySailのもちょはMCめっちゃしっかりしてるな!! そして天ちゃんはめっちゃクソガキみたいな動きしてた。

楽しかったんですが、しかしあまりにも真っ当で眩くて、もう少し闇が滲んでないと私には眩しすぎてですね……というのもあったりも。


5/20 あどりぶグランプリ2017 @ 中野サンプラザ

seaside-c.jp

いつも通りのあどりぶで心が落ち着きます。あとゆっこさんがいつも通りやばい。

へごはステージ上で火傷をすることにも何をするにも、吹っ切れたかのように恥ずかしがったり躊躇う様子がなくなってて、あどりぶだからの安心感なのか、ちょっと何か変化があったのかなあとか。

 

5/27 大橋彩香 Special Live 2018 ~ PROGRESS ~ 5/27 @ パシフィコ横浜

PROGRESS (初回限定盤) (特典なし)

PROGRESS (初回限定盤) (特典なし)

 

 大橋彩香のファンになったことは正解だったと胸を張って言えるライブでした。

大橋彩香 Special Live 2018 ~ PROGRESS ~ 5/27 @ パシフィコ横浜

 

PROGRESS (初回限定盤) (特典なし)

PROGRESS (初回限定盤) (特典なし)

 

1stライブから2ndへの進化もまあ大概にびっくりした訳ですが、その線上よりも、アルバムの出来が良かったこととファンの贔屓目で高めに見積もっていたものより更に上空を撃ち抜かれたのでちょっと唖然としました。本当に。

大橋彩香初めてのホールライブは、これでもかというくらい様々な演出とチャレンジと、そしてそれを支える歌やステージングの積み上げが半端ない、まさに進化のライブでした。いきなりドラムソロから始まって、バラードからカッコいい曲に可愛い曲、アッパーな曲まで歌って、ダンス曲ではダンサーのやるようなダンスに挑戦して。

理想に向かってやりたいことはもう全部突っ込むし挑戦するという気概を、不安で仕方ないから石橋を叩くと本人が語る性分が邪魔するんじゃなくて、一定のクオリティまで全部を引き上げるんだという方向に働いているの、ちょっと凄いです。やたらストイックに体を鍛えたり、色々なアーティストのライブBDばかり見ていますと語っていたの、そりゃあこれを実現するためには必要だったろうけれど、様々なコンテンツのライブに参加して、もちろん声優としての活動もありながらこれって、いや本当に、凄いとしか。

あと、2ndライブで見えた演じるように歌うという部分が完全に歌としての表現に昇華された結果、声量があって踊ってもぶれないくらい安定した歌に表現力が加わってえらいことになっていました。「バカだなあ」からの「Sentimen-Truth」の感情の入りっぷり、アコースティックで激しい曲を演るという「勇気のツバサ」で感じる声の力。それから、私はこの人の声の伸びが凄く好きなんですけど、高音のロングトーンがほんとすごいなと。あとあと、ステージでの立ち居振る舞いも、すっかり堂々としたものになって、「ステージで歌が上手い子が歌っている感じ」から、「ステージから会場を掌握している」くらいまで進化していたので、本当に、何を見せられているんだろうかと。ファンだから応援するだとか成長を見届けるだとか、そういう段階から、ショーとして形を為したひとつ上のレベルに手がかかっている感じがあって、お前ちょっと嘘だろそれはもう数年後の話だろって。

それでいながら、まだまだ伸びしろがあるというか、足りないものがあるんだっていうのを、やっている方も見ている方も感じるようなライブだったと思います。異様に高い理想が目指すべきライブとして明確にセットされて、まだそこに向かいはじめたばかりというか。だから、現時点で凄い物を見せられても、これはあと5年、10年したら、もしかしたらとんでもないものが見れるのじゃないか、本当に上まで行けちゃうんじゃないかとワクワクするような、そんなライブでした。

 

そしてその「理想」だとか「進化」というものは 2ndアルバムからライブまでを貫いたテーマなのですが、「進化した」じゃなくて「進化途上」なんだなと思います。

だから、2ndアルバムを聞いた時は、まだ見ぬ未来に向かおうと歌う「シンガロン進化論」で始まって、届かない理想との乖離とそこへ向けて歩き続ける覚悟を歌う「Sentimen-Truth」で終わっていたのだろうと思っていたのです。なのでライブもてっきりそういう構成なんだと思っていたのですが、「Sentimen-Truth」が前半に持ってこられたことでこれはヤバいと。

だってあんなに進化と進化と言い続けた上であの曲がここに来るのなら、そこから先は歩き初めた第一歩目で、まさに「進化してきた今まで」と「まだ届かぬ理想に向けて進化するこれから」の境界線がライブのど真ん中に置かれた訳で、いやそれはもう、ねえ。

その上で、ライブ最終盤、最大の盛り上がり曲である「ワガママ MIRROR HEART」の後に、以前より格段にレベルが上った「ABSOLUTE YELL」「流星タンバリン」と続いていくのは、これが大橋彩香なんだと改めて宣言されるみたいで。

歌うことで精一杯に見えた1stライブの最後に憑き物が落ちたみたいに楽しそうに歌っていた「流星タンバリン」と、もう一曲歌いたいとワガママを言った「ABSOLUTE YELL」から、ステージを楽しんでいる空気が伝わってきた2ndライブを経て、確かにここに繋がってきた線が見えるんですよね。多幸感のライブ。これが大橋彩香の表現したいライブ。それはちょっと追いかけてきた身としては泣くよね、本当に。

そして最後に「シンガロン進化論」で一緒にもっと進化していこうって歌われるセットリスト、ちょっとヤバいですね。軽く死にますよね……。

 

様々なことに挑戦してこれからも進化していく姿を見せる一方で、これが揺るがない芯だというものを提示しながら、今時点で受ける衝撃の大きさと、想像を超えて高い理想と、もしかしたらそこに届くのかもしれないという期待感をいっぺんに抱かせる、そんなライブだったと思います。いや、ほんと、うちの推し半端なかったんだって。

武道館 / 朝井リョウ

 

武道館 (文春文庫)

武道館 (文春文庫)

 

今、アイドルって言われると何を思い出すだろうと考えてみると、10代の女の子たちが数人でグループになって、歌って、踊って、ライブをしたり、CD封入券で握手会をしたり。更にはバラエティに出たり、俳優に挑戦したり、太っただ何だで叩かれたり、ネットでプチ炎上したり、恋愛でフライデーされたり、卒業したり、解散したり。

アイドルってそういうものだし、そうなんだろうというイメージがあって、この作品はそういうまさに今のアイドルを扱ったものです。NEXT YOUというグループのメンバーを中心にしながら、ネットでの炎上とか、TOの居る現場の様子とかまで含めてそのままに描くような、もう全部入りっていう感じの。でも、アイドルってこういうものだよねという、決まった枠で理解したつもりになって納得して終わり、という訳では無いのが、この小説の凄いところかなと思います。

「アイドル」というイメージというか、今の時代に皆がそう思っているフレームがあって、その中に女の子たちが居て、それを推すファンたちが居る、ちょっとでもズレたらもうお互いに興味すら無くすような構造の中で、重なったその刹那にアイドルって呼ばれるものが浮かび上がるような。それは強固な概念のようで、決してそうじゃない。だってその中にいるのは人間で、10代の大きく変わっていく時間を駆け抜けたる少女たちな訳で。

これは、そこで何かを言われ、誰かに見られ、何かを夢見て、何かを選んでいった、その全てを、一人一人が何を考え、感じて、どう進んでいったのかをそのまま描こうとした作品なのだと思いました。リーダビリティの高さと、心理描写の上手さから本当に生っぽくて、でもわざとらしくない線で、「アイドル」としての当たり前ではなくて、移ろい変わっていく人としての当たり前を重ねていった時に、そこにアイドルという枠組みがあったら、どうなるのか、みたいな。だからもう、読み終えて「せやな」としか言いようがないというか。

彼女たち一人一人が選んでいったものに、何が正しいとか正しくないとか、そういうことを言うのではなく、ただそうあるものとして描く。今ある枠組みすら、変わっていくものの一つでしかないから。そしてその選択だけが、正しかったことにできる未来へと繋がっていくから。

それと同時に、読者はそこにいくらでも物語を見出すことができるし、怒ることもできるし、それでいいって思うこともできる。誰の選択こそが正しいんだと言うこともできるし、それは欺瞞だと誰かを断罪することだって、やろうと思えばできる。なんだかこれは、読者がアイドルに求めているものを映し出す鏡なのかなと思います。あるがままを、材料のまま提示された時に、あなたはどう感じますか? と問われているみたいな。

そう思うと、つんく♂があとがきで、ファンにとってのアイドルを「自分の代弁者。なれなかった自分の成り代わり」と言っているのが重いなあと。

86 ―エイティシックス― Ep.4 アンダー・プレッシャー / 安里アサト

 

 相変わらず面白いです。何をしてても読んでるだけで面白い辺りに、世界観もキャラクターも出来上がってる、シリーズものとしての貫禄みたいなものすら既に感じる。

レーナとシンが出会い、彼女と彼の物語としてはこの上なく美しいハッピーエンドを迎えたからといって、レギオンとの戦争が終わった訳ではなく。大きすぎる犠牲を払いながら、共和国の奪還という目標に向けて、レーナたちの闘いは休む間もなく続いていく。その戦況は相変わらず人類にとって絶望的で、闘えど闘えど先が見えずすり減らされていくようで。

一方で助けられたはずの共和国に色濃く残る有色人種への差別感情と選民意識。連邦からの悲劇の子どもたちというレッテル。身勝手に一方的に求められる贖罪。そしてそれと対比されるように描かれるのはエイティシックスたちの、人間に対する不信頼という裏側からの断絶。そして、祖国も人の優しさも捨てていく彼らと対比されるのは、人の脳構造を記憶だけ切り落として使用し始めたレギオンという戦闘機械の存在。

いくつもの対比構造を作りながらこの作品が描こうとしているのは、人間が人間足り得るためにあるものは何かということと、愚かさを抱えたそれを肯定し得るのかということなのだと思います。レーナだけが信頼されるのでは足りないから、人間の共和国の一員だという意識のあるレーナと、人を信じないエイティシックスの間は、埋まったようで埋まっていない。それが明確にされて、どこまでも続く絶望的な闘いの中で、この先の物語はそれを探す道のりとなるのだろうなと思いました。

それは置いておいて、序盤のいちゃいちゃっぷりが何というかこう! お前ら! お前らさあ! みたいな感じがして非常によろしかったです。あの感じから、後半の地下道での闘いまでの緩急の効き方は凄いなあと。ここでこれ! そう!! 好き!!! みたいな展開を的確に刺してくるのもあって、人気なのも頷けるし、やっぱりいつかアニメで見たい作品だなあと思います。