やがて君になる 6 / 仲谷鳰

 

やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

 

 先輩と侑の関係は、一見すると普通に好きあっているように見えて、実のところ一筋縄ではいかないとても特殊な関係だなと思います。「やがて君になる」の序盤は、さらさらと描かれる物語の中で、その特殊さに踏み込む瞬間があって、少しずつこの二人がどういう人で、どういう関係を作っていくのかが明らかになる度に、うわああとかひえええみたいな気持ちになっていました。

それがだいぶ落ち着いてきたというか、ようやくある意味安定した関係性になっていたここ数巻だったように思うのですが、久しぶりにひえええってなりましたね、今回。

いや、ここまで読んできて分かっていたつもりなのです。この劇が先輩にとってどういう意味を持っていて、そこに侑が何かをしたことで、きっと先輩には何かが起きるかというのは。そして、侑が抱く気持ちが少しずつ形になっていることも。それが二人の関係を今までどおりではいさせないだろうことも。でもこんな、落ち着いてるかなと思っていた関係が鮮やかに反転するような最後のシーンは、ちょっと鮮烈に過ぎました。

美しくさらさらと流れていく話の中で、瞬間描かれる言葉、表情。突然水面からぐっと深いところに潜るような、その一瞬の切れ味こそがこの作品の凄みであり、エグみなんだと、改めて感じる一冊でした。

9月のライブ/イベント感想

9/8・9 THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS SS3A Live Sound Booth


9/15 ZAQ LIVE TOUR 2018「Z-ONE」 @ 新木場STUDIO COAST

Z-ONE(通常盤)

Z-ONE(通常盤)

 

 アルバム「Z-ONE」のツアー東京公演。アルバムがそこまで好みじゃなかったからなあと思っていたのですが、やっぱZAQのライブ最高に楽しいな! と思いました。ライブで聞く「Zone」がとても良い。あと、やっぱり「hopeness」は特別な曲になったのだなと思いました。

次のライブは盛り上がる曲だけでセトリを組むというKURUIZAQ 2018ということで超楽しみです。

 

9/17 Roselia Fan Meeting 2018 

R(Blu-ray付生産限定盤)

R(Blu-ray付生産限定盤)

 

 LVだからと油断していたらバルト9は中継を繋がれてびっくりしました。

トーク&ミニライブイベントして、明坂聡美の白金燐子としてのラスト公演。ポピパ以上に短い時間で突き進んでいるだけに、メンバーがどんどん変わっていくのは仕方ないような、それでも釈然としないような。ただ、それも全部飲み込んで声優バンドプロジェクトとして今行けるところまで前のめりに進んでいくのは、追いかけていてライブ感って感じではあるのですが。

しかしまあ初披露された「R」のびっくりするほどカッコいいこと。4人でライブをやりますという宣言もままならない流れの中で闘っている感じがして良かったです。

あと、遠藤ゆりか不在の影響は、どちらかというとトーク部分で感じました。

 

9/24 大橋彩香バースデーイベント ~はっしーバースデー2018~ @ メルパルクホール東京

 もう何年か続けて見に来ているバースデーイベントなのですが、本当に前向きに自信を持って話すようになったなあと感慨深いものがあります。本質は変わってないけれど、ベクトルが変わったというか。そしてほぼFCイベントのようなイベントということで、安心して喋っている結果、何を言っているんだ? みたいなのが増えるのもまたご愛嬌かと。

2年ぶりの料理挑戦企画で餅を焦がしてホール中に焦げた匂いを充満させたのは、司会の方のドン引き具合も相まって爆笑でした。

あと、PROGRESSライブのBD化は本当に良かった。あのライブが映像に残らないのは損失。

 

9/29 Shiena Nishizawa LIVE TOUR 2018 ”Naked Soul” @ yokohama 7th AVENUE

Meteor/New Generation

Meteor/New Generation

 

 イベントや仕事被りでなかなか足を運べなかった幸奏ライブ、狭い箱でということもあってか、以前よりさらにゴリゴリで熱量の高いライブになっていました。なんというか、完全にロック方面に舵を切って、なかなか上手く行かないこともあるけど、スタッフ一丸で試行錯誤しながら前に進もうとしている感じが良いなと。

ライブの方は煽りもパフォーマンスも1stでみた時に比べるとめっちゃ進化していて、武者修行ツアーをしてきたこと、間違っていなかったんだろうなと。バンド編成にできない分も本人の熱量で補うみたいな、とにかくパワフルで格好いいライブでした。

あと、あそこまで激しいモッシュだと体格的に私は前には行けないので、エリア分けは今後も継続してくれると嬉しいなと思いました。

転生! 太宰治 転生して、すみません / 佐藤友哉

 

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

 

心中しようとした太宰が現在に転生! 即日心中未遂! その後自分が歴史に残る作家になってることを知ったり、なろう転生ものを読んだり、芥川賞のパーティーでつまみ出されたり、メイドカフェに通ったり、最終的に地下アイドルをプロデュースしたりするという、あらすじを説明するとお前は何言ってるんだみたいな感じになる作品なのですが、これがまた面白かったです。

私は太宰治は「走れメロス」「人間失格」くらいしか読んでいませんし、あとは教科書の知識くらいしか無いのですが、それでもめっちゃ太宰っぽい……! みたいな感じがするのです。むしろあんまり良く知らなくてもそう思わせられるくらいに、イタコとして完成度が高いというか。文体ももちろん、現代で色々なものを見たり聞いたり、自分と関わった人の未来を知ったり、人と出会ったり、そういうことに対する反応が総じて太宰っぽく感じさせます。ああ、そういうこと言いそう、そういうことやりそう、みたいな。2作しか読んでいないお前が何を知っているんだという感じではありますが。

それでもって、その太宰が繰り広げる話が単純にトンチキ大暴走みたいな方面でも大変面白いものでした。ただ、太宰という人が道化として生きた人間だとするならば、そのおかしさすらも正しいような気がするというのが凄いところなのかなと。純粋さと生真面目さの上で捻じくれた繊細な自意識を覆うように、掴みどころはないのに隙はある道化として生きる感じが、作品自体のふざけているのか切実なのか分からないテンションにマッチして、なおかつ佐藤友哉という人のがこれまでに書いてきたものともマッチして、これでしかあり得ない奇跡のコラボレーションになっているような。後半の方なんて、確かに太宰っぽいんだけどめちゃくちゃユヤタンっぽいというこの不思議な感覚。

総じて、配役の勝利! 太宰治佐藤友哉にとって最高のはまり役だった! みたいな感想になる一冊でした。

はるかなレシーブ 1-6 / 如意自在

 

 アニメの出来が大変に素晴らしかったので原作も。

沖縄の空! 青い海! 白い砂浜! 水着! みたいな爽やかさと華やかさときらら作品らしい可愛らしさはあるのですが、そこに惹かれて読み始めればビーチバレーを題材にしたスポ根っぷりにぐいぐいと引っ張られていく感じの作品。

主人公ペアにも、仲間にも、試合相手にもそれぞれの過去があって、それぞれの現在があって、絶対負けられない闘いをしているという中で、お互いの気持ちと技がぶつかりあうのがめっちゃ熱いです。きらら作品というと日常系というイメージがあるのですが、初心者から積み重ねた努力、巡り合った仲間たちとの絆、回想を交えた試合描写と全部入りの王道を行くスポーツものになっていて、いい意味で予想を裏切られます。はるかの素直さ前向きさと適度なアホさ、吸収の速さと恵まれた体格、運動神経はまさに主人公という感じで、それを支えるかなたが身長が伸びずにかつて挫折した経験者というのも、非常に良いなと。

そしてきららといえば百合ということで、活きてくるのがペアでやるスポーツだということ。複数人のチームでもなければ、一人での勝負でもない、コートにたった二人だけの味方。だから彼女たちはお互いが最高に信頼できるただ一人のパートナーでなければいけない。その関係をあからさまに百合で読み替えているような、信頼関係として描いているようなギリギリのラインを攻めながら、裏切ってしまった元カノとの関係だとかかつて破れたライバルだとか重い感情が交錯して、それがまたお互いの譲れない気持ちとして試合で爆発するのがこう、たまらないものがね、ありますよね。

アニメのクライマックスにもなった5巻の沖縄地区予選決勝、はるかなvsエクレアが最後の最後にそれで決まるのって感じで本当に最高だったのですが、6巻の全国大会編に入っても勢いも感情の重さも全く落ちないまま進んでいきそうで、この先も楽しみになる作品でした。

あと、ビーチバレーって本当にこんな水着着てるの? と思って調べたら割と着ていたので、ちょっと汚れていたのは私の心でしたね……。

ボクらは魔法少年 1 / 福島鉄平

 

ボクらは魔法少年 1 (ヤングジャンプコミックス)

ボクらは魔法少年 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

 ヒーローに憧れる少年がファンシーな少女姿の「魔法少年」に変身し、羞恥で涙目になり、嫌がりながら自分の可愛さに道を踏み外し、その様子を見て読者も何かの道を踏み外す。そういう業を形にしたような作品、だと思ってたんです。1話を読んで。

確かにそれはそれで間違っていないのですが、1巻読み終えると、踏み外したと思っていた「道」ってなんだ? という疑問がですね、大きくなっていくというか。自明のように捉えていた固定観念を確実にずらされて、改めて自分自身に突きつけられたような、そんな感覚が残るのです。

カッコいいヒーローに憧れた少年が、可愛い魔法少女の格好になってしまう。けれどその導入の先に待っているのは超王道の物語。自分自身と向き合って、その心に素直になって、己を認め、信じること。少年の力の源は自信と誇り。そして信じたものを胸に、正義を貫き人を助けるなら、それはまさしくヒーローに他ならず。じゃあ、なれなかったはずのカッコいいヒーローって何だ? という。

なってしまったものなんて無く、踏み外した道なんて無く、少年は少年らしくあることで、彼自身の歩むべき道を歩んでいる。そこに何の間違いがあるのか。可愛い魔法少年をおかしなことだと思ったのは読者である私が囚われた既成概念に過ぎず、それは紛い物なんかではなく、本物なんじゃないだろうかと。だってこの作品、「魔法少年」は「魔法少年」なんだと、「魔法少女の格好をしている少年」だなんて一度も言ってないですから。

腐男子先生!!!!! 2 / 瀧ことは

 

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

腐男子先生!!!!!2 (ビーズログ文庫アリス)

 

 生徒と教師、神絵師と信者、腐女子腐男子な二人が繰り広げるオタクラブ(?)コメは、相変わらず妄想する人たちを見てこっちが妄想する多重構造。2巻に入ってもこれっぽっちも勢いが落ちること無く、新キャラが現れたり2人の関係の微妙な変化があったり、そして合間を埋め尽くすように心当たりのあるオタクエピソードや明記されずともあの作品ねと思い至れるオタクネタがこれでもかと詰め込まれて大変楽しいです。

とにかく前のめりで圧が強いというか、ブレーキがぶっ壊れてる感じに熱量高くかっ飛ばした作品なのですが、じゃあ一から十まで全肯定なのかというとそういう訳ではないように思います。神さまと信者の関係とか、先生と生徒の関係とか、一歩踏み外せばというか、もうこれ踏み外してんじゃないのという部分も内包しながら、なお爆発的な推進力と神がかったアクセルワークで駆け抜けていく感じが凄いです。

そういうところを含め作品全体が、いつだって今の輝きに全力で、だから「好き」は楽しい、楽しくなくちゃいけない、「好き」は間違ってないという信念めいたものに貫かれているように感じて、お話やネタの面白さはもちろんですが、私はそこに一番惹かれているんだろうなと思いました。

あと、コミック連動特典のオーディオドラマが「(イケボ+オタク特有の早口)×乱れ飛ぶパワーワード」で勢いが半端ないものになっていて凄いです。たった10分弱でオタク最高に楽しそうだな! ってなる。

ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語 / 定金伸治

 

 これは絶対自分好きだろうと思って買った本って、逆に安心して積んでしまうって事があるのですが、まともに考えれば読めば楽しいんだからはよ読めよという感じですよね。何が言いたいかといえば、10年積みましたがめっちゃ好きでした。超好み。

猪突猛進喜怒哀楽ジェットコースターな王女が、イギリスをモデルにした国の王立技術院で「水気」という技術を活用して花火の研究に打ち込む物語。人種差別や女性差別の色が濃い時代に、東洋人のネリの研究室にほとんど無理やりに押しいってきたエルフェールが、様々な蔑視や妨害にも挫けずに持ち前の根性と才能で研究に邁進するのですが、ちょっとこのエルフェールさん普通ではありません。

女性は技術者になれないという時代を打ち破るにはこれくらいじゃないと勝てないとはいえ、まあ怒る怒る泣く怒るで隙あらば大暴走。すぐに手が出て瞬時に土下座する落差で周りを翻弄すれば、失敗して地の底まで落ち込んだり、かと思えば怒りでどこまでもブーストが掛かったりと大層な性格をしています。でも、このくらいの強烈さを持っているからこそ、散々見下され馬鹿にされ邪魔されてなお、睡眠時間を削り家にも帰れず答えの見えない試行錯誤と肉体労働にまみれながら、誰も見たことのない花火を生み出そうとするプロジェクトXっぷりのカタルシスが素晴らしいです。恋愛的なものは……無くはないけどまあちょっと横にどけておいて、この技術への憧憬と反骨精神、辛く苦しくも楽しい研究生活、エンジニアズ・ハイな高揚感、文系の人間としては憧れるものがあります。

邪魔をしてきた鼻持ちならない貴族に人格者の老教授、切れ者の政敵に研究者に憧れる病床の少女。成功と失敗、激怒と消沈を勢いよく繰り返しながらも物語はイエス王道ノーバッドエンドでラストまで駆け抜け、読み終えればスカッと良いものを読んだと思わせてくれる一冊。良いものを読みました。