虚構推理 9 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理(9) (月刊少年マガジンコミックス)

虚構推理(9) (月刊少年マガジンコミックス)

 

 「岩永琴子は高校生だった」と「ギロチン三四郎」の二編を収録。

鋼人七瀬以降のシリーズは、岩永琴子という探偵の存在というか、立ち位置の特殊性が軸になっているように思うのですが、「ギロチン三四郎」は分かりやすくそれを描いた話という感じでした。

岩永琴子は人間の法律や倫理で裁かれるべき事件を解決する探偵ではないし、情報の入手ルートも怪異から直接聞いているという探偵としてみればチートであって、目的も怪異たちのお悩み解決。そんな存在に、過去に罪を犯した人間が、その共犯者が今になって関係する事件が起きた時に、出会ってしまったら。

ギロチンの付喪神三四郎から情報を得てその悩みの解決に動く琴子と、かつての罪が明らかになることを恐れる女性では、そもそもからして何も噛み合っておらず、それがはじめに九郎が首を突っ込んだことで変に拗れるという展開が面白かったです。こういう妙な話運びをしっかり理屈で着地させてくるのは、城平作品の真骨頂であるなと思いました。この巻も大変面白かったです。

そして、12月についに小説2冊目が出るということで死ぬほど楽しみだ……!

10月のライブ/イベント感想

10/13 シン・ゴジラからの脱出

mysterycircus.jp

初めて参加してきた脱出ゲームでしたが、パズルゲーム的な要素と巨災対としてタイムリミットの中でゴジラへの対抗策を考える雰囲気作りが噛み合って、確かにこれは面白いなあと。友人に誘われていったのですが、その友人が優秀だったのでゴジラ倒せた!

 

10/16 少女☆歌劇 レヴュースタァライト -THE LIVE-#2 Trasnsition @ 天王洲銀河劇場


10/20 CINDERELLA REAL PARTY 05〜このときをまっていた!うきうきようきなうんどうかい〜 @ 市川市文化会館

CINDERELLA PARTY!  でれぱ音頭  \ドンドンカッ/

CINDERELLA PARTY! でれぱ音頭 \ドンドンカッ/

 

 ラジオ公録ということを忘れさせる視覚的にフリーダムな運動会を模したイベントパートとライブパートの組み合わせなのですが、流石デレパの二人の安定感という感じで大変楽しかったです。二人がいるからか、黒沢ともよが安心して自由すぎる振る舞いをしているのが最高でした。うちの推しの声帯こと小市さんも自由にしてて良かったです。

 

10/22 Anison Days Festival ~アニメフィルムフェスティバル東京2018×Anison Days~ @ 新宿BLAZE

www.bs11.jp

Anison Days、アニソンの歴史を振り返りながらゲストとトークして、ライブパートもあるすごく良い番組だと思います。そのイベントということで、温かい、ちょっと年齢層の高い落ち着いた雰囲気で、音楽を楽しもうという空気感がある大変居心地の良い素敵なイベントでした。選曲もこれは!! というところが来るので非常に良いです。また、第2回のイベントもやってほしいなと思います。

私が大好きな小説家を殺すまで / 斜線堂有紀

 

私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

 

 オタクをやっていると、音楽にしても小説にしても演劇にしても、その人を好きになるのではなくて才能を好きになるということが、ままあるように思います。ファンとして、その人が創るもの、表現するものが好きで好きで、じゃあそれを生み出す人を表す言葉を探すとしたら、神さまになる。

これは、ただの人間を神さまにしてしまった時に何が壊れていくのか、信仰は如何にして、誰を殺すのかを、神さまに救われた一人の少女の語りで淡々と描いていく作品。ありえないような設定で、でもその気持だけは分かるからこそ、崩壊へと向かう中で、心臓を掴まれたような、血の気が引いていくような感覚が、読み進めるほどに大きくなってくる一冊でした。

人気の若手小説家と、彼の小説に希望を見たネグレクトされた少女。死のうとしていた踏切で少女と彼が出会い、そして連れ帰ったことで奇妙な関係が始まります。誰よりも神さまの近くにいることになった子どもと、才能の限界に突き当たった小説家。いつしか彼女が彼を真似て書いた小説を、自身の作品として発表した時に、その関係は後戻りのできないものとなって。壊れていく神さまを前にして、彼女の信仰はどこへ向かうのか。その想いを浴び続けて、彼女の才能を見せつけられて、彼は何を想うのか。

この小説は小学生時代から結末まで、彼女によって先生との関係が語られていくのですが、明らかに狂っているのに、そうとは思わせないほど落ち着いているように感じます。たぶんそれは、彼女が先生の、彼女の神さまの才能にしか興味がないからで、それこそがこの作品の色を決めているもの。

自分自身にも、先生自身にも興味がない、遥川悠真という神さまを成立させ続けることだけに向けられた信仰。そのために正しい選択をし続けたとして、それは最初から成り立つはずがないもので、つかの間の幸せの先に待っているものは破滅への道でしか無く。自分の夢も恋心も無い訳ではない、それは読んでいれば分かるのに、徹底的にそれを自身で排除していく。その狂気はけれど、どこか美しく、羨ましく感じるものだったように思います。

偶然の出会い、仮初の幸せ、当然の崩壊、そして必然のように訪れた結末。どこか寓話のようで、最後まで美しく、鋭い物語だったと思います。凄いものを読んだと思いました。素晴らしかったです。

東京レイヴンズ 16 [RE]incarnation / あざの耕平

 

神は偏在する、等しくどんな時空にも、ならば魂は。斯くして輪廻は輪を成して、因果は巡り、宿業となる。

『幾瀬、幾歳の彼方で 』

時を超え、姿形を変えながら、二人の魂を決して引き離させはしなかったこの言葉こそが、この作品で一番強い「呪」であったのかなと、そんなことを思った16巻でした。

1巻から16巻までの積み重ねが全て伏線となって、土御門という家と陰陽道が紡いできた戦争から現代までの歴史の重み、そして夜光と飛車丸、春虎と夏目の時を超える魂の物語の重みでぶん殴られるような読書でした。いや凄かった。こんなの語彙力を失うしか無いでしょう。もうね、本当に。

幾度の転生を超えて惹かれ合う二人の物語というのは、まさに王道であると思いますが、このシリーズの肝は夏目が飛車丸に転生したという、過去に向かった時間の流れにあるのかなと思います。夜光は春虎に生まれ変わっている訳で、二人の時間は逆向きに進み、そして戻ってくる。ある意味、夏目は待ち続けるという厳しい選択をしたタイムトラベラーでもあって、それでも救うために送り出した夜光=春虎の苦悩、そして生まれ変わってもなおその道を選んだ夏目=飛車丸の思いが、輪廻の大きな輪の中で彼ら彼女らの物語を一つに結んでいく。そしてその始まりにして行き着く先が、あの14巻の最大のクライマックスに集約されていくこの感じ。

その中に、春虎や夏目が通っていた陰陽塾での出来事があり、東京に霊災が起きる理由があり、相馬が求める神降ろしの理由があり、土御門の歴史が、倉橋の歴史が包含されていく。これはすごいし、面白いのはもちろんなのですが、素直に美しいなと思いました。そして歴史の中にそれぞれの人生がある感じが本当に良くて、夜光亡き後、批判の矢面に立つ当主として先へと土御門を繋いだ小翳の生きた道とかもう泣くでしょ。塾長がどんな想いで陰陽塾を支えてきたかと思うとやっぱり泣くでしょ。

そしてまあなんというか、あの二つの魂は、これ以上の幼馴染ストーリーあるかという感じで、強いなと思います。だって、飛車丸、そんな、ねえ。全ての因果がこうして一点に集約されると、あまりに、あまりに感情の濃度が濃すぎる……。

86 ―エイティシックス― Ep.5 死よ、驕るなかれ / 安里アサト

 

 第八十六機動打撃群の次の戦場は北方戦線での連合王国との共同戦線。極寒の国でのレギオンとの激しい闘いの中でも、この作品が彼らに突きつけ続けるのは生きるということなのだなと思う第5巻でした。

戦場で失われる命も、向けられる差別も、どんな不条理も理不尽も、仕方ないと割り切ってしまえば楽になれるその全てを捨てられず、抱えたまま極限の環境でもがく少年少女たちの物語。割り切っているように見えるシンだって、それは割り切りなんかじゃなく、忘れたくて封じ込めているだけで。それを突きつける存在が、連合王国の王子、ヴィーカが死者の脳を複製して作り出した人形であるシリンの存在だというのがまた、こう、容赦のない物語だと思いました。

薄い装甲のアルカノストを狩って、誰かのために闘い死ぬことのみを存在意義とする、意思を持った人形であるシリンたち。もう選べない死者である彼女たちの姿に、その言葉に、生きながら闘い続けることを選んだエイティシックスたちの抱える歪みが浮かび上がり、それを指揮し、使い潰し、屍の王と呼ばれるヴィーカの抱える異様さに、多くのエイティシックスたちの死の上を歩み、尚も理想を掲げ続けるレーナの異様さも対比されるような。

状況が状況だけに誰も彼も十字架を背負いすぎだとは思うのですが、少年少女たちの物語だからこそ、そんなに簡単には整理できず、それぞれが、時にお互いが真正面からぶつかるその葛藤と闘いに逃げ道がないことが、この作品の魅力でもあるのだなと思いました。

キャラクター的にはヴィーカとレルヒェの関係が好きです。取り返しがつかなくなった後の、シリンは彼女ではないと誰よりわかっている上での、執着。もう選べないものがあって、まだ守りたい約束がある、その欺瞞と切実さは、彼の異能が導いてしまった地獄であっても、どこか美しさを感じるものだと思います。

少女☆歌劇 レヴュースタァライト -THE LIVE-#2 Trasnsition

 

99 ILLUSION!

99 ILLUSION!

 

 アニサマで転び、アニメで嵌り、そして舞台へという流れで見に行ってきましたスタァライト。10/16のソワレ。いや凄かった。

途中までは、なるほど2.5次元ミュージカルと思って観ていたんですが、中盤以降で完全に持っていかれた感じ、そして衝撃冷めやらぬ中で始まる第2部(ライブ)。最高でした。めっちゃ多幸感があった。

オーディション開始からの展開が高密度&ハイスパートで全てを押し流していく感覚、確かにアニメと同じでスタァライトされてるって感じなのですが、この途切れない高速展開でずっとアクションが続いていく流れをよく舞台でという驚きがあり。

14人のキャストが入れ代わり立ち代わる殺陣に、セパレート型の小型透過スクリーンを自在に組み合わせながら目まぐるしい視覚的演出。アタシ再生産のバンク映像を使っての早着替え。そして1時間ちょっとの時間の中に限界まで濃縮された重い感情と関係性の物語。それを、アニメと部隊で同じキャストが演じていることで、アニメから入った人間から観ても物凄く「レヴュースタァライト」を感じる舞台だったと思います。

そしてアニメ最終回で明らかになった視聴者=キリンとしてもね、舞台を演じることを描く舞台の中で、どんな展開であってもキリンが喜ぶならそれは正しいとあそこまで断言されてしまったら、「予想もつかないレビュー!! これが舞台少女の煌めき!!!」ってなりますよね。この、一度きりの舞台で常にその瞬間を最大にすることだけを考える刹那的快楽主義、スタンスとして大好きです。

 

このプロジェクトの肝はアニメとミュージカルを同じキャストがやることなのですが、正直別の人がやれば良いのではと思っていたのです。ただ、このアニメの続きでもある(舞台#1の続きでもある?)物語を演じる上で、完璧に同じ世界、同じキャラクターであるという説得力を与えていたように思います。声が同じというのはもちろんなのですが、それ以上に全てがそのキャラクターに見えるというか、演じているんじゃなくて魂が同じというふうに見える、というのが強い。その上で舞台にかける想いとキャラクター同士の関係を示すやり取りや動き、仕草、エピソード、歌がマシンガンのように叩き込まれるのでなんかもう死ぬよねって。

そして今回は青嵐という学校の舞台少女+先生たちとの闘いという形になるのですが、この青嵐の中の2人がまひる、ななに過去関係している人物。アニメで重い女としての立ち位置を確固たるものとしたまひるちゃんに過去からの重い感情が向けられるのやばいな? っていう。あとそこに空気を全く読まずに割り込んでくるひかりもやばいな? って。そしてアニメでループを断ち切り未来へと踏み出したばななが、過去からの声を断ち切って未来を語るとかそういうのはね、もうね、やばいですよね。

あと真矢クロお前ら本当にお互い大好きだよなって。クロちゃんが真矢様大好きなのはよく知ってたけど、真矢様もクロディーヌ本当に大好きだなって。

ふたかおはアニメでヤケになった香子を双葉が引き止める話をやった上で、今回実力不足に焦って裏切ろうとした双葉を、香子が引き止める話になっているのズルいなあと思いました。あとだいたい常にイチャイチャしてた。

青嵐の3人は演技、歌、アクションと実力者をキャスティングしたという感じで素晴らしかったのですが、その先生である八雲先生が最高でした。圧倒的な強者としての揺るがぬ実力と舞台へと向けるエゴ、アクロバティックなアクションに、聖翔OBとして届かなかったもの、走駝先生へと向けるコンプレックスと指導者としての立場が共存している感じ、舞台上で輝いているなと思いました。

あと、100回目のスタァライトを終えて腑抜けていた華恋のアタシ再生産が、この舞台でもまたキーポイントとなる辺り、主人公だよなあと思ったり。やっぱり、名乗り口上で流れを変えられるキャラクターという感じがします。

そんな第1部の衝撃冷めやらぬままに始まる第2部は、これまた完全にキャラクターとして演じられるライブパート。MC無しで立て続けに披露される楽曲の中で、ちょっとした動きでキャラクターを表現してくると目がいくつあっても足りない感じ。そして、このキャラとこのキャラがこの曲を一緒に!? みたいな高まる構図を、物語を観てからたった15分のインターバルで叩き込んでくるの、高圧縮ここに極まれりって感じでした。青嵐との「Star Divine」、やばかった。

序盤はなるほどねと思いながら観ていて、第一部の途中から舞台から目が離せなくなり、終わる頃にはテンション爆上げしていて、第二部ではただ幸せな気持ちだけが残り、最後のカーテンコールでまた次の舞台を見に来ようと思える、そんな素敵な公演だったと思います。

これはいけない沼だとは思っていたけど、思ってたより深い。

やがて君になる 6 / 仲谷鳰

 

やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

 

 先輩と侑の関係は、一見すると普通に好きあっているように見えて、実のところ一筋縄ではいかないとても特殊な関係だなと思います。「やがて君になる」の序盤は、さらさらと描かれる物語の中で、その特殊さに踏み込む瞬間があって、少しずつこの二人がどういう人で、どういう関係を作っていくのかが明らかになる度に、うわああとかひえええみたいな気持ちになっていました。

それがだいぶ落ち着いてきたというか、ようやくある意味安定した関係性になっていたここ数巻だったように思うのですが、久しぶりにひえええってなりましたね、今回。

いや、ここまで読んできて分かっていたつもりなのです。この劇が先輩にとってどういう意味を持っていて、そこに侑が何かをしたことで、きっと先輩には何かが起きるかというのは。そして、侑が抱く気持ちが少しずつ形になっていることも。それが二人の関係を今までどおりではいさせないだろうことも。でもこんな、落ち着いてるかなと思っていた関係が鮮やかに反転するような最後のシーンは、ちょっと鮮烈に過ぎました。

美しくさらさらと流れていく話の中で、瞬間描かれる言葉、表情。突然水面からぐっと深いところに潜るような、その一瞬の切れ味こそがこの作品の凄みであり、エグみなんだと、改めて感じる一冊でした。