【ライブ感想】See-Saw LIVE ~Dream Field 2019~ 12/15 @ 東京国際フォーラム ホールA

 

Dream Field

Dream Field

  • アーティスト:See-Saw
  • 出版社/メーカー: flying DOG
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: CD
 

 何年か前にKaji Fesをやった時に、それでもSee-Sawは無かったことで、ああ見ることはできないんだなと思っていたものを今年犬フェスで見ることができて、そして17年ぶりに、アルバム発売から16年越しにそのタイトルを冠した単独ライブが開催されるって、そんなのもうね、生きてさえいれば何でもあるんだなって思いますよね。

Yuki Kajiura Liveとバンドメンバーはこれだけ被っていても確かに違う空気があって、ステージの上に梶浦由記石川智晶の関係性があって、See-Sawの音楽があった、そんなライブでした。正直ライブ中はずっと実感が無くて、See-Sawの曲が生で聞けているなあ良いなあと思うばかりで、終わってもなんの言葉も出てこなくて、今振り返ってじわじわと感慨があるみたいな、そういう感じ。そうだよな、好きだったもんなって。

またパンフレットのインタビューがかなり踏み込んだ話をしていて、本当にこの16年触れられなかったものの輪郭が感じられるのがなんというか。石川さんと梶浦さんと森さんがいて、今でもそれぞれの音楽をやっていて、交わる場所が、本当に一夜限りであった、贅沢なライブだったなと思います。だからこそ大人の遊びですという言葉に繋がるのだろうなと。

どれもこれも聞きたかった曲だし、本当に聞けて良かったし、この曲にこの歌声がSee-Sawだよなって思ったのですが。初期曲である「Swimmer」の今では無い綺羅びやかで向こう見ずな明るさも良かったし、「千夜一夜」の圧倒的な世界観は素晴らしかったし、「記憶」「Obsession」「edge」「君がいた物語」の流れの格好良さも最高でした。繰り返しになりますが、贅沢で、幸せなライブでした。

【小説感想】6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 / 大澤めぐみ

 

6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)
 

 地方都市の高校生の3年間を、4人の視点から、作者らしい饒舌な一人称で駆け抜ける物語。その語りと群像劇の構成が、高校時代を描くのにぴったりで、良き青春小説でした。

高校デビューした地味な優等生の少女に、流されるままにスター選手となったサッカー少年、家庭に問題を抱え夜の街で過ごす不良少年、華やかな笑顔と明るい性格で逆に回りをシャットアウトする少女。そんな4人はそれぞれの物語を持っていて、彼ら彼女らがお互いに見る姿と、自分自身の抱えているものが一致するとは限らなくて、それでも関係は生まれて、そして変わっていく。分かりあえないこともあるし、ふとしたことで距離が縮まることもあるし、悪いこともたくさんあれば、捨てたもんじゃないことだってある。びっくりするような大事件が起こるではなく、恋愛だとか、遊びだとか、部活だとか、受験勉強だとか、上京だとか、そんなありふれたイベントと共に連ねられるのは内省的な語り。それでも3年という時の中で、彼らの関係も、彼ら自身だってちょっとずつ変わっていく。入学時の彼ら彼女らの先に、まったく違う形で現在がある。その先にはもちろん、未来がある。

そういう、なんとも言えない微妙な青春時代のニュアンスを描くのがとても上手いなあと思ったし、そういうものを表現するのに、この勢いで押し流していくような文体はとてもハマるのだなと思いました。

個人的には、4人の中ではちょっと普通から外れているセリカの話が好きです。彼女の章を読み始めてすぐには性格悪いなと思った外面と内面のギャップ。でも、自分自身すら押し殺して、思い込もうとしていたものと、そうならざるを得なかった理由を知れば、そんな簡単なものでは無いことも分かって。他人に踏み込ませないことで自分を守っていた彼女が、踏み外せば沈んでいくギリギリで救われたのは、ルールを破って踏み込んできた香衣の存在と、望まぬままに育ての親となった正弥の意地によるものだったのが、すごく良いなと思います。何をもってちゃんとしているかは分かりませんが、セリカにはちゃんとした大人になって、報われてほしいなと思いました。

【マンガ感想】やがて君になる 8 / 仲谷鳰

 

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

  • 作者:仲谷 鳰
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: コミック
 

 最終巻。これ以上の無い大団円。

この巻に収録される最初の話である第40話で「やがて君になる」という2人の関係を描いた物語としては、タイトルの示した意味も含め完成していて、そこからの話はグランドエピローグというか、ボーナスステージという感じ。そしてもうこれが、これ以上なく純度を高めた、2人の、これまでがあったからこその時間を、その更に未来に向かって描いていて、良かったねえ、本当にねえと思うものになっています。ダダ甘とか色ボケとかバカップルとか何とでも言い様はあるのだけど、この上なく幸せで美しいものとして描かれているので、キラキラした工芸品を見ているような気分になる……。

そしてまあ最終話ね、2人が大学生になった後の話ですが、指輪ですよね。最初隠されていたものが、ごく自然にあるものとして描かれて、そしてこのラストシーンでフォーカスされるのはあまりにも美しかったです。あと呼び方もですね。全くもうね。

それから佐伯沙弥香さん、ちゃんと吹っ切って、次の自分の恋を生きていて、幸せそうで本当に良かったなって思いました。ていうか誰だ陽ちゃんって思ったけどそのための「佐伯沙弥香について」3巻か……!

【ライブ感想】H-el-ical// LIVE 2019「紡 -TSUMUGU-」12/1 @ 神奈川県民ホール 大ホール

h-el-ical.com

 

Kalafinaの解散って私の中で未だになかなか受け止めきれてない事象なのですが、それはともかくメンバーはそれぞれの道を歩みだしていて、その中でもしんがりとなったHikaruのソロプロジェクトH-el-ical//としての初ライブ。

Kalafina時代から、ハーモニーが特徴のユニットらしからぬエモーショナルで癖強めなHikaruの歌い方はソロでも聞いてみたいなあ、できればロックな曲でと思っていたのですが、やっぱりソロ、とても良かったです。ライブが始まるまでに感じていた不安も吹き飛ばして、歌い出した瞬間にやっぱこの人の歌好きだって思えたというか。ああ私はこの歌声が聞きたかったんだと思った、というか。

H-el-ical//としての新曲たちは、Hikaru本人が作詞をして、作曲も新しい人が入っていて、ジャンルレスでどこか無機質な感じ。聞きたかったロックなHikaruが聞けた「Existence」がとても良かったです。Kalafinaの最後の方はとにかく完成度の高いライブをしていた印象が強いのですが、今回のライブは全体的に若く、青く、等身大で、そしてこれからだという空気に満ちていたのがすごく新鮮でした。

それからやっぱりKalafinaの曲を、キーボードの櫻田さんとアコースティックバージョンでやったというのが、特別だったなと思います。「ARIA」「blaze」「sprinter」と歌い上げた3曲。シンプルな伴奏と、自分のパートだけを歌うHikaruに、逆に不在が際立ってくるような、ようやくもう聞けないってことが身にしみたような、そういうパフォーマンスでした。

あとは相変わらずだったMCの様子とかグッズ紹介コーナーとか、アニメ好きなんですよと言いながらアニソンカバーコーナーでYOI、喰霊零、BLOOD+を歌って趣味ダダ漏れやなと思ったりだとか。

ずっとこのライブにどういう気持ちを持っていけばいいのかわからずにいたのですが、本当に行って良かったし、来年のメジャーデビューも決まって、ここから新しく進んでいけるなと思えたライブでした。とても良かったなと思います。

【小説感想】蜜蜂と遠雷 上・下 / 恩田陸

 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

 
蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

 

 芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む天才たち。彼ら自身の、そして彼らを支えた友人や家族、審査員たちの視点を交えて、1次予選から本戦までを、広く、深く、真っ向から描ききった大作。

これまでのコンクール参加歴なし、自宅に楽器を持たない養蜂家の息子で、偉大なる音楽家の残したギフト、風間塵。かつて天才少女と称されながら、母の死と共に表舞台から姿を消した栄伝亜夜。華やかなスター性と抜群の技術を併せ持った優勝候補、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。サラリーマンを続けながら、生活者の音楽を掲げ最後のコンクールに挑んだ高島明石。

彼ら彼女らがどう音楽に、そしてこのコンクールに向き合ったのか。コンテスタント同士がお互いに与え合う影響、関係性。周りの人たちとの関わり、向けられる視線、彼らに触れた審査員たちの反応。それらを余すところなく描きながら、中心にあるのは演奏シーン。全ての答えは、何よりも雄弁に演奏において語られ、それがまた新しい波紋を広げながら、コンクールは佳境に向かっていく。そんな話、面白くない訳がないです。ただ、そんな小説を書き上げるのがどんなに大変かなんて素人目にも明らかで、それを真正面から描ききっているのだから、すごい小説を読んだなと思います。それはもう、当然面白かったです。

音楽の、特に演奏シーンを文字媒体で描くというのは、なかなか難しいのではないかと思ってしまうのですが、小説だから書ける、小説でしか書けないものとして、これほど多くのコンテスタントたちの演奏が描かれていたのが印象的でした。鳴っている音を書くのではなくて、演奏が喚起するイメージや心の動き、その演奏があった、その時間、その場所の瞬間を鮮やかに切り取るかのような描写。きっとこの作品の演奏をそのまま再現しようとしたって、同じものは決して生まれない、そこにしかなかったものを描くために注ぎ込まれた熱量が、読んでいて伝わってくる感覚、興奮が凄かったです。

登場人物の設定も関係性もこんなもの好きに決まってるじゃんの特盛って感じなのですが、個人的には栄伝亜夜の復活劇が好きです。自分は普通みたいな顔をしながら圧倒的に特別なの、本当に、才能ってやつはね。あと亜夜とマサルとの関係もそんなのズルくないって感じだし、風間塵の天衣無縫の天才っぷりも、持たざるものがそのステージに手をかける明石の挑戦も熱かった。この辺り、なんだかもう少年漫画のバトルトーナメント編を読んでいるような感じすらあります。あと、先達たる審査員たちには審査員の見ている世界があるのも良かったです。

コンテスタント同士も、当然審査員たちにも、演奏を評価、分析するような視点があるのもこの作品の特徴だと思うのですが、読んでいると引っ張られて、魅力的だけれど高難易度の題材に挑んだ作者の発表を見ているような、メタ的な感覚になってくるのが不思議。そういう意味で、直木賞本屋大賞ダブル受賞の実績は、まさしくこの作品自体がコンクールを制したみたいなもので、ちょっと考えすぎかもしれないけれど、それはなんだか粋な結果だなと思ったり。

【感想】大人のための「世界史」ゼミ / 鈴木董

 

大人のための「世界史」ゼミ

大人のための「世界史」ゼミ

 

 FGOのアニメを見ながら、バビロニアっていつの時代のどこだ……? となる己の無知が突きつけられたので、とっつきやすくて世界史の大きな流れがわかりそうな本をと読んでみました。

世界史というか歴史地理全般を学生時代ずっと避けていて、何が嫌いって細かい地名人名年代を覚えるのが大嫌いだったのですが、この本は帯にもある通り細かい知識を覚えるためではなく、大きな流れを考えるためのもので読みやすいです。そして人類史面白いなあと。「文字」を切り口に、人類の誕生から現代までを駆け抜けるのですが、次々を現れる文明やその背景、広がりや衰退を追いかけていくと本当にダイナミックなのだなと思います。

歴史、特に世界史に関しては選択科目で選ばなかったのもあって勉強した記憶がほぼなくて、完全にLv1なので何を読んでも新しく、そんなことも知らなかったのかということばかり。え、メソポタミアってアジアにあったの?? とかモンゴル帝国そんなでかかったの?? とか、「聖戦のイベリア」を聞いてなんでイベリア半島イスラムがいたのだろうと思ってた謎とか、ボードゲーム「ヒストリー・オブ・ザ・ワールド」が何を模したものだったのかとか、読むほど自分の無知と、歴史というものが創作物の下敷きになってきたかを痛感する一冊。面白かったです。

【小説感想】アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー

 

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)

 

 伴名練「なめらかな世界と、その敵」があんまり素晴らしく、他の作品も読んでみたいと思って手にとった百合でSFなアンソロジー。その伴名練「彼岸花」ですが、これがもう期待を裏切らない素晴らしさでした。本当になんなんだこの人。

大正時代を舞台に、お姉様との交換日記の形で綴られていく物語。お互いへの手紙となっているそれを重ねるごとに、この女学校のことが、死妖たちのことが、そしてその姫様のことが、更には世界のことが見えてくるという形式なのですが、その背景で死妖の姫と最後の人間を取り巻く世界がぶわっと広がっていって、それでも最初から最後まで描かれるのは二人の閉じた関係性で、それが二人だけの交換日記という形に封じられるのが大変に美しく素晴らしかったです。話は要するに人を滅ぼした吸血鬼の姫と最後の人間である少女の破滅と紙一重の関係性で、そんなの好きに決まってるじゃんというやつなのですが、それを本当に美しく描く人だなと思います。好き。あとやっぱり姉妹百合の人なのだというのをここでも感じたり。

あとはソ連を舞台に超能力研究の被検体とされた姉妹の生涯を描いた南木義隆「月と怪物」が良かったです。強気で聡明な姉が、知恵遅れの妹を守るように生きた後に、非人道的な実験で廃人となった姉を世話ながら妹が普通の生活を最後まで全うする、こういうの好きなんですよね……。実験施設での姉と軍人の関係、そして遥か宇宙での再会まで、これも美しさのある物語でした。

それから小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」も好き。これは許されざる関係と逃避行をもっとポップに仕立てたみたいな、オールドスクールな百合で、男女の夫婦二人一組でやるものだとされているガス惑星での漁に挑む二人の変わり者の少女の物語。おっとりとしていながら懐の深いテラと強気で勝ち気でちょっと脆さのあるダイの組み合わせは魅力的で、独特のリズムの掛け合いがとても良かったです。