少女七竈と七人の可愛そうな大人 / 桜庭一樹

少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人

桜庭一樹の今のところの集大成と言っても良いのではないでしょうか。満足。
少女を描く小説という基本の上に、ミステリだったりSFだったり少女小説だったりと切り口を変えきた桜庭一樹の今回の切り口は恋愛小説。しかもライトノベルの枠を外れたことで、大人というものをかなり前面に出して書いてきました。雰囲気的には荒野の恋の系譜だと思うのですが、ああいうフワフワした感じとはまた違う静謐な感じです。そして荒野の恋でもチラッと垣間見えた大人の世界が前面に出てきます。しかしながら、砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないだとかGOSICKだとか推定少女で描いてきた、少女とそれを取り巻く世界や人々との関係性というものが随所にうかがえて、今まで描いてきた少女という概念の結集となってるのだと思いました。
それから、とにかく文章が雰囲気があって良いです。繊細にして濃密。ゆっくりと噛み締めるように読みたくなる、匂い立つような文章。大好き。溜息が出ます。
話としては、いんらんの母から生まれた、異形のかんばせを持つ川村七竈という少女の物語。でも、語り手は母、犬、少年など様々に入れ替わりながら進みます。その中で旭川という狭い狭い地方都市の中で絡み合う大人たちの感情や子供達の世界が本当に濃密。そして少女と少年、大人になった少女、大人たちの間で流れる愛憎、地方と都会、母と娘、様々な関係性と舞台の中で、少女の世界は少しずつ色を変えていきます。そのあたりはいろぴろなものが複雑に絡み合っているので、読んで見たほうがわかりやすいかと。
雪風鉄道模型という世界の中で止まっていようとする序盤は確かに魅惑的ですが、それでもそのままではいられない世界と対峙していく過程が素晴らしいです。大人たちの苦しみも散々描いた上で、その上で砂糖菓子の世界にいる少年少女をその舞台に引っ張り出すという、一軒酷いながら当たり前の過程。こうして人は大人になるのだなぁという感じ。この点は恋愛小説というよりも青春小説です。ただ、この小説は少女には向かない職業のように失敗したり、砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないみたいに現実に負けてしまったりしないので、かなり前向きなのですが。
ハードカバーは高いなぁと思ったのですが、これは素晴らしい小説だったと思います。この文章、この会話、この話、この余韻。溜息。
満足度:A