人間失格・桜桃 / 太宰治

人間失格;桜桃 (角川文庫)

人間失格;桜桃 (角川文庫)

分からん! お前の話は分からん!
高校生の頃30ページで投げだした太宰の人間失格。一応全部読みましたが、うーむ。この種の痛々しい心情吐露小説はどこまでその吐き出したものをこちらが受け止められるかがポイントだと思うのですが、これがまたさっぱりわからないのです。最近の滝本竜彦とか佐藤友哉みたいなひきこもり系小説とかはわかるんだけどなぁ。ジェネレーションギャップ?
という訳で、手記の形で綴られるある人間の生き様。道化として生きた少年時代から、女と酒に溺れ、心中未遂をして自分だけ生き残り、さらにグダグダな人間関係を築いた上にクスリに溺れて、すっかり廃人になったところまでの話。書いただけでも相当なダメ人間なのですが、どうもこの人がどこまで分かってこういう風に生きていたのかが測りかねます。わからないわからないと言い続けているのですが、全部わかった上で本当はどうしたら良いかもわかりながら、こうしかできなかったような印象もあります。自分の何からでも逃げ出す臆病さを嘆いているのですが、むしろ自らそういう生き方を進んで選択しているようにも見えます。ただ純粋な破滅願望を忠実に行動に移して、そういうコアな部分は自分がダメだとか世間がわからないとかそういう言い訳の形で全てを覆い尽くしているような感じもするのです。切実な手記のはずなのに、読んでいて気分の悪くなるようなぐにゃぐにゃした逃げ口上でどこか本心を隠しているという印象が付きまとうのが不思議。
もうひとつ気になったのは、この人は本当にそんなにダメなのかということでした。お金持ち、勉強できる、女にはもてる、おまけに意外と世渡り上手でしかも集団に溶け込むのも得意。「神様みたいないい子」と言われるのもわかるような感じです。何かどこか偽悪的。自分が悪いと信じ込もうとしているような。むしろ純粋で繊細すぎるが故にどこか壊れちゃったみたいな。でも、内にこもって考えすぎかというと、ちゃんと行動もしてるし、やっぱり良くわからない。
そんな何重にも霞がかかったような気持ちの悪さだけが残った小説でした。
満足度:C-