重力ピエロ / 伊坂幸太郎

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

すごく出来が良いのはわかるし、実際面白かったしで、感想を書いたら多分褒めるところしかないような気がするのですが、合わなかったの一言で「満足しましたか?」と聞かれると首を縦に振れない。読者って本当にワガママなものです。
話は、兄と弟、親と子、そして遺伝子と放火と落書きの話。全く無秩序に並んでいるような出来事がラストで一つにまとまっていく様は見事です。ラッシュライフの方が綺麗にハマった感じはしますが、こちらの方がそれぞれの要素がストーリーとしっかり絡んでいる印象。私とレイプによって生まれた春という弟、そして病床の父親による、遺伝子は超えられるかという一本通ったテーマがあるのが大きいかなと思います。
そして相変わらずスタイリッシュ。軽妙なテンポで進む物語に、洒脱な会話、奇人変人なのにさらっと描かれるキャラクター達。本当にセンスが良いとしか言い様が無いのですが、そのセンスを楽しめこそすれ好きにはなれないのが悔やまれます。ラッシュライフにも登場した泥棒黒澤や、ガンと闘う父親とか本当に良いキャラクターだとは思うのですが。あと、オーデュボンとのリンクもあったりしてちょっとファンサービス的な部分も覗かせています。解説を読んで、このスタイリッシュさの秘訣は感情描写を排してることだとあってなるほどと思いました。そういえばウダウダした内面吐露とかはほとんど無いです。もしかしたらそういった部分が無機質な印象で受け付けないのかもしれません。
満足度:B+