太陽の塔 / 森見登美彦

太陽の塔

太陽の塔

これはダメ人間ですね。
ダメ人間を描く作家として滝本竜彦と並べて語られることの多い、森見登美彦デビュー作。日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
ダメ京大生の日常を、そんなに鮮やかに切り取らなくてもいいからと思うような鮮やかさで切り取った小説で、モテない自分を論理武装したり、妄想にふけってみたり、モテない男で集まって馴れ合ってるんだかなんだか良く分からないコミュニティを形成したり、別れた彼女が忘れられなくてぐだぐだ引きずってストーカー化したりと、もうどうしようもない感じです。でも、生活に困窮したり、コミュニケーションが完全に出来なかったりというほどの酷さではないので、まだマシと言えばマシな感じかも。でも、このレベルの比較論はあまり幸せになれません。
特徴的なのは文章。勿体つけたような、変にかしこぶったような不思議な文章で、世界が間違っているという妄念と、やっぱ自分がダメなんだという感情の、ちょっと上空でゆらゆらと揺れているような感じ。自己嫌悪とか恨み辛みとかそういったものが、直接的ではなく妙に軽妙に書かれているので、この手の文章が苦手でもあまり眉をひそめずに読めるかも。しかも笑えます。時々笑えるのだか泣けるのだかわからなくなります。滝本竜彦の直球すぎて身も蓋も無いジャンクさと比べると、ずっと上品で文学っぽい感じ。でも個人的には、この作りこんだような凝った文章が鼻につく部分があって、あまり好みではありませんでした。
話のほうは上手くいってるのだか、上手く行っていないのだか分からないまま進み、結局最後の「ええじゃないか騒動」までいっても何も解決してない気がしてなりませんが、クリスマスイヴに風穴を開けたなんだか妙な清清しさを感じるのが不思議でした。
以下の一節が印象的でした。

類は友を呼ぶというが、私の周囲に集った男たちも女性を必要としない、あるいは女性に必要とされない男たちであって、我々は男だけの妄想と思索によってさらなる高みを目指して日々精進を重ねた。あまりにも高みに上りつめすぎたために今さら下りるわけにもいかない。そもそも恐くて下りることができないと誰もが思いながらも口をつぐみ、男だけのフォークダンスを踊り狂った。

あぁ、まぁ、ねぇ。笑えない・・・・・・。
満足度:B