ミミズクと夜の王 / 紅玉いづき

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

「でも、あなたがいない」

真っ直ぐで力強い、ミミズクと夜の王の物語。
物語を書く人には設定や構成を少しずつ組み上げていくタイプの人と、細かいことは決めずに流れのままに書いていく人がいるのかなという印象があるのですが、その区分けでいくとこの作者の人は多分後者なのでしょう。物語を創造しているというよりも、物語に選ばれたという感じ。多すぎもせず少なすぎもしないキャラクターに設定、そして澱みのないストーリー。読んでいて、なんだか凄いなと思わせます。
話としては表紙の雰囲気からも分かるように、所謂ライトノベル的な話ではなく、童話風の物語。奴隷として虐げられてきた少女ミミズクが、森に入って魔物の王である夜の王と出会う所から話が始まります。最初はもはや痛みすらも忘れていたミミズクが、夜の王やクロ、さらにその後では王国の人々の中で少しずつ笑顔や涙のような人間らしさを取り戻していく過程が素敵です。このミミズク、何か特別な感じがするというか、読んでいて光を放っている印象を受けました。それ故に、周りの人々がミミズクに優しくすることも、触れることで変わっていくことも自然に感じられます。それから、夜の森や城といったシーンごとのイメージ喚起力が凄いと思いました。
話としてはミミズクがある決意をしてからの展開が勢いというか、感情の流れがあってよかったです。たくさんの気持ちを知ったからこその、ミミズクの強い想い。そしてそれに答えた多くの人々。どこまでも真っ直ぐな物語は捻りなく大円団を迎えたのですが、ありきたりさを感じないだけの力がありました。だからこそこの想いの真っ直ぐさも純粋な愛の形も胸に響くものがあるのだと思います。まさしく、物語が強いという感じでした。
正直、こういう童話風の物語は好みからは外れているのですが、それでも十分に読んでよかったと思える小説です。
満足度:A-