フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人 / 佐藤友哉

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)

文庫化に伴って再読。
始めて読んだ時ほどではありませんでしたが、それでも読んでいると薄暗い興奮が内側から沸いてきてテンションが上がります。読んでいて全く気持ちのいいものでは無いですし、幸せな物語でもなく、かといって不幸なのかも良くわからない話なのですが、それでもなぜか面白いという不思議。とりあえず徹頭徹尾狂ってるとしか言い様が無いと言うか、何かが欠けているような印象を受けます。
ストーリーは、妹がレイプされて自殺するというところからスタート。サブカル、オタク的なネタを大量にばら撒きながら、物語は主人公の公彦が妹をレイプしたやつらの娘を捕獲して監禁するという、何がなんだかわからない展開を見せます。そしてもう一つ、連続殺人鬼突き刺しジャックと、彼と視界が繋がるという君矛の幼なじみの少女明日美の物語。さらに暗躍する人物に、予想外の結末と面白くはありますが、タガの外れた感じでかなり人は選びそうな展開。ただ、クライマックスはさすがにグダグダな気がします。
むしろ、この小説の楽しみどころは物語やキャラクターではなく、作者から滲み出て作品の根底に流れている思考というか感覚というか、そういう類のもの。世の中に唾を吐くようで、諦めているようで、でもどこか真面目な、そんな不思議な感じ。自分は最低だという意識と、自分は特別だという意識が混ざったようなハイともローともつかない感覚。共感しそうだけど、共感したらいけないと思うような、この感触がクセになります。
おそらく最低な気分にはなりますし、どれだけの人がこれを楽しめるか極めて怪しい部分はありますが、個人的にはやっぱり好きな小説だと思いました。
満足度:A