レジンキャストミルク8 / 藤原祐

レジンキャストミルク〈8〉 (電撃文庫)

レジンキャストミルク〈8〉 (電撃文庫)

大好きだったシリーズがまた一つ終わったんだという一抹の寂しさと、このシリーズに巡り合えたことへのを目一杯の感謝こめて。レジンキャストミルク完結。
無限回廊、樹、鏡という敵と晶、硝子、理緒、蜜、ネアの見方に分かれてのラストバトル。欠落を抱えた者たちの織りなす、捻くれた物語というイメージ事態はずっと残っていたものの、この作品は実はとても真っすぐで、王道な作品なんじゃないかという感じがしました。武器と少女、異能バトル、日常/非日常の対比、世界との戦い、父親との戦いといった今っぽさをパッチワークしたような設定と、幸せそうな虚飾の日常を描いておいて落とすダークでもはや悪趣味とも言える展開による、歪な過剰さの上に広がったのは、仲間との絆を信じ、幸せを願って力の限り闘うという、極めてエンターテイメント的で真っ直ぐな物語でした。こういう、悪趣味を土台に広がっていく馬鹿正直なほどの素直さというものは個人的に大好きなのです。
話の方は、冒頭のカラーマンガですでにうるっとくるものが。7巻があれだけ強力だっただけに、あの人の話がちらっと出てくるだけでかなり強烈。追い詰められた中からの展開は、守るべき(非)日常とその中にある幸せ、そこで交錯するキャラクター達の想いというものが積み重なって切ないものがありました。ラストのバトルまでしっかりと読ませてくれましたが、それぞれに見せ場を作りすぎてちょっと冗長な感も。というよりも、物語全体を畳みに来ているという感触が強かったのが少し不満の残るところではありました。それだけに奇麗にまとまったという面もあるのでしょうけど。硝子のラストのつぶやきは、あとがきのイラストを合わせてみるとグッと来るものがあります。
テーマ的や虚軸周りの設定は、こんなに好きな作品と言いながら最後までいまいちよく分からなかったのですが、非日常/日常の対立軸を作った上で、取り繕った日常ではなく、非日常で偽物の世界たる虚軸たちの中に本来日常として描かれるような仲間との生活や信頼、守りたい幸せというものを込めていたのが印象的でした。
ということで、本当に大好きなシリーズでした。キャラクターも、ストーリーも、設定も、イラストも、文体も。イラストレーターの椋本夏夜が設定段階から深くかかわっているということで、巻頭のマンガといいイラストといい、完璧に作品世界にマッチしていたのも、イラストと小説がセットになっているというライトノベルの在り方としては最上のものだったのではないかと思います。客観的に見れば特別完成度が高い小説だとは思いませんが、好きだと思えるものに対してそれは些細なこと。冬にもう一巻レジンのシリーズが、そして新シリーズの構想もあるそうで、楽しみに待っています。
満足度:A