キャラクターズ / 東浩紀+桜坂洋 (新潮10月号掲載)

新潮 2007年 10月号 [雑誌]

新潮 2007年 10月号 [雑誌]

これを真正面から読むだけの知識が私にはないのでした。
東浩紀初小説。桜坂洋「新潮」に初登場。共作。しかも巻頭200枚。テーマは「批評のキャラクター小説化」。ごく限られたエリアに対してかもしれませんが、前提条件だけでこれだけの話題性を振りまく小説も珍しいくらいかと。
内容は、東浩紀を主人公として語られる、批評と小説が入り混じり、メタとメタが絡み合い、叫びだか嫉みだかよく分からないものが溢れ、ネタなのかマジなのかも判然としない、不思議な小説でした。「私」を語らなければ文学たりえないという今の状況に、キャラクターなるものと虚構の物語を武器に立ち向かってるような印象を受けたのですが、実のところはどうなのか。
東浩紀桜坂洋とそれを取り巻く環境を、たくさんの実在の人物や身の回りにあるもの、あるいはありそうなものを描いて私小説っぽさを見せながら、東浩紀を存在次元の違うRとS,Iに分裂させて物語の外側にあるメタレベルを意識させることで虚構の物語であることを強調して見せたり。文学を定義して目指してみたり、やっぱりやめてみたり。いかにもそれっぽい展開が皮肉なのか本気なのか分からない部分もあったり。
何をどうしたいのか、どこからどこまでが本気なのか、すべてが計算づくのことなのか、ただ思いの丈をぶつけたものなのか、その度合がよく分からないのは、たぶん私が文学に疎くて、いったいこの二人がどんな立場から何に対して喧嘩を売ろうとしてるかがいまいち分からなかったから。そして、何かの主張が次の章ではメタレベルからひっくり返されてもおかしくないような話だったから。それでも、何かをやろうとしていることと、衝動的であれ打算的であれ割と過激で滅茶苦茶なことをやっているのであろうということは感じました。
むしろこれはこの小説の中での主張がどうこうという話よりも、この小説を元にして何かを語るというレベルにおいて機能する小説なのかもしれません。だとしたら、この渦を巻いた虚構が何かの意味を持つのはこれからかも。
まぁ、難しいことを考えなくても、現実と虚構が入り混じり、データベース的に一部の人しか知らない的知識が溢れ、荒唐無稽なストーリーが勢いよく展開する面白い小説でした。なんだかんだで単純に面白いということは大事なんだと思います。
あと個人的には、佐藤友哉の小説は最初からずっと佐藤友哉本人とは切り離せないような類のものだと思うし、逆に桜庭一樹の小説に桜庭一樹本人を見るようなことはない気がします。
満足度:A−