円環少女⑦ 夢のように夜明けのように / 長谷敏司

近寄るな、変態っ!
円環少女7巻目は短編集。重くシリアスな長編とは打って変ってバカらしい騒ぎの話が中心となっていますが、それだけに作者の幅の広さと、その中でも芯の部分はぶれない物語としての強さを感じさせられました。
パターン的には、仁やメイゼル、きづな、寒川さんの日常描写をメインとしながら、そこに<地獄>の一般常識からはかけ離れた常識を持った魔法使いが関わってくることで、平穏なはずの日常が爆笑の大惨事へと変質する様子を描いています。そしてこれがまた想像の一枚も二枚も上を行くぶっ飛び具合で、開いた口が塞がりません。頭がお花畑な電波巫女が愛を召喚しようとする話で驚いていたら、メイゼルの生徒会長立候補騒動にマゾ犬魔法使いが関わってきてドン引きし、仁が家庭訪問に向かった平均的な一般家庭であるはずの寒川家に何故か全裸の女魔法使いが居るあたりで言葉を失いました。予想を上回る暴走ぶりがいっそ清々しいくらい。
それにしても、なんだか変態が多いなぁと思っていた魔法使いがいつの間にか作中でも「魔法使い=変態」扱いされていたり、サドっぽいなぁと思っていたメイゼルが小学生にして本気と書いてマジと読む真正サディストだと改めて確認させられたりと、やりすぎ感すら漂っていて、この先シリアスな話を書くにあたって大丈夫なのかと心配になったりも……。
ただ、そんな話の中でも次の展開への伏線はきっちりと張られて、この時間が一時のものにすぎないことを感じさせています。そんな中で見えるメイゼルの少しずつの変化が、この先何をもたらすのかに注目したいところ。
そして、シリアスだった「しあわせの刻印」でも、バカ話だった残りの話でも、矛盾と欺瞞に溢れた世界の中で、人と人とがどうやって生きていくかという軸の部分がぶれないことがすごいと思いました。魔法という非日常を描きながら、ちょっとした日常描写が強烈な生活の匂いを感じさせるような所がありますし、どんなにファンタジー的な要素があっても、この小説は人が生きることを描いた物語なのだと思います。
あとは、巻末の設定の作りこみ具合に驚きました。この想像力には感嘆。