零崎曲識の人間人間 / 西尾維新

零崎曲識の人間人間 (講談社ノベルス)

零崎曲識の人間人間 (講談社ノベルス)

殺人鬼を主役に人間を描く、ということがこのシリーズのテーマなんだろうなと。
人間シリーズ3作目は〈少女趣味〉零埼曲識の物語。無差別殺人鬼である零崎一賊でありながら、自らの殺人に制限をかけていて、感情をほとんど表に出さず、偏屈な性格の音楽家、そして音によって人の心体を掌握する音使い。
特定のターゲットしか殺さないという殺人の制限が逆に禍々しく思え、そのミステリアスさが人に在らざるもののように感じさせる「ランドセルランドの戦い」から始まったのに、ラストまで読み終えたときにはこれは家族と愛を巡る零崎曲識という人間の物語であったと感じさせる構成は、何重にも捻じれが効いていてまさに作者らしい面白さでした。哀川潤という存在が、一体どれだけの大きさを持って、曲識のなかに存在していたのだろうかと。出会いのシーン、そしてラストのシーンには痺れるものが。
そんな曲識の物語を描きながら、狐vs鷹の大戦争や策士による小さな戦争、そして無桐伊織と零崎人識のその後、さらに橙による零崎一賊の壊滅まで、戯言シリーズで触れられながら描かれなかった出来事が、あくまで一部分ながら語られるのがシリーズのファンとしては嬉しかったです。
そして曲識の話からは外れますが、「クラッシュクラシックの面会」の人識と伊織の二人が良すぎでした。生意気な男の子とちょっとお姉さんな女の子の逃避行とか、一体どこまで私のツボなのかと。なんだかんだ言いながら伊織を気にかけるツンデレな人識と、辛い状況に置かれながらも余裕の態度で人識をからかってみせる伊織の関係にニヤニヤ。伊織のラストでのつぶやきにはもう悶えるしか。次は人識の物語となるという人間シリーズ最終作で、この二人がこの後どうなったのか、ぜひ描いてほしいと思います。