夜は短し歩けよ乙女 / 森見登美彦

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

京都の街を駆けぬけるイマジネーションの奔流に、すっかりやられてしまいました。
ある時は夜の街で、ある時は古本市で、またある時は学園祭で、そしてまたある時は冬の街で。現実と幻想が境界なく自在にまじり合うような想像力に満ちた活き活きとした世界の中で、まるで何の脈絡もないかのような阿呆な出来事がリズムよく流れていき、けれど最後には一つ一つの出来事が絡み合って素敵な結末を迎える。そんな話が4編も読めるならば、もう満足というしかないじゃないかという。
自称天狗の空飛ぶ男に、3階建ての電車のような乗り物住む謎の李白老人。学園祭に出没する韋駄天コタツにプリンセス・ダルマが主役のゲリラ演劇「偏屈王」。古本市の謎の少年に火鍋に詭弁論部に像の尻にパンツ総番長。息つく暇も与えないめくるめく不思議議世界は、読んでいて飽きさせません。日常のすぐ隣に神様の世界があるような感覚は、なんとなくジブリちっくな印象もあったり。
そんな中で進むのは、二足歩行ロボットのステップが得意だったり、緋鯉を背負い達磨を抱えて学園祭を歩いたりするちょっと世間ずれした彼女と、その彼女になんとか近づこうとしながらもいま一つ届かず、いつまでたっても外堀を埋め続けるばかりの彼の視点を交互に行き来する恋愛話。噛み合いそうで全く噛み合わない2人の物語は、すれ違いというよりももはや並行なイメージでなのですが、そこから直球ではない妙な形で近づいていく距離感がいい感じです。意外に似た者同士だったりするのがまた。
過剰装飾気味な文章は、このキャラクターの語りとしてはマッチしているとは思うのですが、少しくどく感じる部分もあったり。でも、こねくり回したような文章が不意に崩れる辺りは、読んでいて面白かったです。
そんな感じで楽しく可愛らしい小説でした。評価の高さも納得。