塩の街 / 有川浩

塩の街

塩の街

塩害に侵された終わりゆく世界の中で、人々は生きて、そして恋をする。
塩の柱が立ち並び、人々が塩になっていく。世界の終わりを感じさせる世界の中で展開する物語の何と甘く切ないこと。荒廃した世界の中で人々の美しい面も醜悪な面も見せながらそれぞれがそれぞれの想いを抱えて生きていく様子を描くのは、大上段に構えて世界の命運を語るよりずっと入りやすくて、等身大な感じを受けました。
しかしそれにしても甘ったるいこと甘ったるいこと。連作短編のような構成なのですが、どの話もベタ甘なものだから、読み続けているうちにうっかり胸やけを起こしそうなほどでした。秋庭と真奈の歳の差カップルの仲睦まじさ加減が素敵です。10も年上なのに時々子供っぽさを見せる秋庭と、予想外な芯の強さを見せる真奈はお似合いな感じ。
この本は電撃の大賞で出版された文庫版を改稿して、その後の話を描いた短編をまとめた単行本なのですが、そのアフターストーリーの部分が良かったです。本編部分だけだと、いまいち盛り上がりに欠けるというか、どうにも消化不良感が残って2人の関係もなんだかもやもやしたままに終わってしまったような気がしたのですが、「旅の終わり」を読んでそんな不満は吹き飛びました。何かと蛇足になりがちな後日談ですが、これは素晴らしかったと思います。
それにしてもこれが電撃大賞だったということにちょっと驚き。出版までに色々あったという話も納得。あとがきで作者が「ライトノベルを大人にも分けてくれ」と言っているように、明らかに電撃のメイン読者層は外している感じなので。道具立てやキャラクターは確かにライトノベルっぽくて、一連のセカイ系作品群に連なりそうな感じなのですが、その料理の仕方は明らかに大人向けを意識して書かれているような感じがします。そういう意味で読んでいて新鮮な感じのする作品でした。