spica / 泉和良

spica (講談社BOX)

spica (講談社BOX)

ファッキンラブ。

年齢5億歳男の僕とピンク髪でスピカ星人の遥香の終わりから始まる恋愛物語。
出会いがあって、別れがあって、そこで終るはずの恋物語は終わりを迎えずに、元彼女の遥香と微妙な関係を続けながらぐるぐると悩む主人公は、みっともないから諦めなさいと言いたくもなるような姿。でも、それくらいの理由で諦められるなら恋なんて簡単だとばかりに、浮遊感の文体で引っ張っていかれるのが面白いです。
不思議な言葉遣いをして、戦争と宇宙の話が好きで、ネトゲにハマって、虚言癖があって、びっくりするくらいよく食べて、食べた分下剤に頼って、寂しさを訴えて、そして浮気をした遥香。別れてからも、彼女に呼び出されて食べ物を届けて、彼女と話せることに一喜一憂して、彼女の部屋にある男の影に打ちのめされて。翻弄されて迷って悩んで、それでも忘れられない姿はもはや滑稽さすら漂います。
そんな2人を軸に、親友である千野の存在や音楽の自主製作で知り合い、僕に好意を向ける量子、そして純粋さの象徴のような三輪車ライダーのマサル。脇を固めるキャラクターもどこか変わった人たちばかりで、しかも今っぽい要素が詰め込まれているのが目新しい感じでした。
それにしても、僕のダメさ加減が炸裂具合ときたら。遥香への想いを捨てられないまま新しい男の影に苦しみ、現実から逃げるように自分に好意を寄せてくれる量子に会いに行って、でも迫られたら逃げるのだから本当にこの男は。女性キャラクターが都合の良い存在的に描かれている部分もありますし、本質的にダメ男小説なのかもしれません。
ただ、僕だけがダメなのかというとそういう訳でもないようで、クライマックスからの一連の流れは、お前らめんどくさいな! 的な気分でいっぱいになれる感じ。好きだからこそ上手くいかずに、周りを巻き込んで大騒動なんて、はた迷惑でもあり、微笑ましくもあり、それもまた青春で恋愛だなぁという感じでした。
そんな恋愛に振り回される人たちの姿を、好きな人を宇宙人にしてしまうような独特のセンスで包み込んだ作品。読んでいて確かに面白かったのですが、でもやっぱり面倒くさいよこの人たち!