円環少女 9公館陥落 / 長谷敏司

なんて、濃密。
公館に火を放ち、神人遺物《扉》を目指して地下へ向かった《鬼火》東郷永光。旧世代の公館を象徴する専任係官である彼が、何故そんな行動に出たのか。米軍と手を結ぶ神聖騎士団、警察との結びつきに活路を求める公館、協会内での主流派と反主流派の争い、生きていた《魔術師》王子護ハウゼン、そして動きを見せはじめた円環世界とその長たる《九位》。
地下迷宮を舞台に様々な勢力と、様々な人間の想いが交錯し、濃縮し、そして爆ぜた一冊。誰しもが納得する正しさなど求められず、罪を重ね無力さを嘆き甘えに揺れて、それでもこの《地獄》に生き続けるしかない人間の業の深さたるや。答えの出ない世界の中で、それでも己の生き様をぶつけて生き抜こうとするキャラクターたちの姿は、哀しくもありながら、やっぱり痺れるものがありました。
特に今回は東郷先生。一人の武人として、その刀を持って己の思うままに生き抜いた姿は、どうしようもなく身勝手で、でもこんなにも格好良い。古い世代の人間として全てを背負い、そして後ろの世代に繋ぐ姿は、過剰なほどにセンチメンタルではありますが、それでもこんなの反則だとしか言えないじゃないですか。最後まで本当に、真っ直ぐで、それ故にずるい人でした。
そしてその想いを受けたのが仁。迷い、ぶれ続けてきた彼の一つの答えは陳腐かもしれないけれど、エゴに囚われ地べたを這ってでもその想いを貫くならば、それはこの世界で生きるための何かになるのかなと。その答えすら正解ではなく、まだこの先も迷い続けるのでしょうが、ずっと揺れていた彼の軸の部分は定まったのかなと。
そして仁が定まったことで、仁とメイゼルとの関係は、矛盾と欺瞞をいっぱいに抱えたままに、強くて形のある何かになってくるのかと思います。そして私はやっぱりこの自罰的なまでに誇り高くあろうとする魔女が好き。円環世界にとっての「アリューシャ」という名前の意味といい、ここから明らかになっていく真実が、彼女と周りの人たちをどこに連れていくのか、楽しみに待っています。