ファミリーポートレイト / 桜庭一樹

ファミリーポートレイト

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あなたとは、この世の果てまでいっしょよ。
呪いのように。
親子、だもの。

暗く深い絶望の物語。そして、生きるということの物語。
圧巻。ちょっと気を抜いたら、あっという間に物語の濁流に流されて、どこか遠くへ連れて行かれてしまうような、そんな小説。桜庭一樹の小説には、個人的な思い入れが入りすぎて毎回語る言葉をなくしてしまう私ですが、それでもこれは凄い小説だと思います。
話としては、母親のマコと娘のコマコ(凄いネーミング!)の逃避行を描いた第一部と、マコを失ってからのコマコの人生、特に物語を生みだす者としての半生を描いた第2部からなります。テーマ的には、家族、母と娘、大人と子供、愛、荒野、家と女といった桜庭作品にここ数年間出てきていたものが重なりあって次々に現れてくる、まさに集大成のような感じ。
第1部の現実なのか幻想なのか境界線があいまいな世界の中で、マコという存在の大きさと残酷さが際立っているようなイメージは物語としての力を感じましたが、個人的には第2部がとても好き。奪われて失って始まったコマコの第2の生が、表現者としての道であったというのことに、作者の小説そして表現というもの全般に対しての強い想いが込められているようで圧倒されるものがありました。真っ暗な海の中でもがいているような、狂気と絶望と諦念がん混じったものを絞り出しているような、そういうイメージ。
それはまるでコマコというキャラクターに表現者としての自分を託した、まるで直木賞受賞後の決意表明のよう。こんなものを書かれたら、次に出てくる作品に期待せずにはいられないじゃないかという。
私が「ちゃんと生きなくちゃ」と思って心の奥底に閉じ込めたはずの何かを、ズッと手を伸ばして引きずり出してくるかのような、怖い、でも惹かれずにはいられない言葉の力をもった小説でした。やっぱり、これは特別で、凄い小説だと思います。