僕僕先生 / 仁木英之

僕僕先生 (新潮文庫)

僕僕先生 (新潮文庫)

ニート青年が美少女仙人に弟子入りして各地を巡る物語、で正しく要約できちゃうことがある意味凄い気がするファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
働かないですむだけの資産が家にあるからと、父親の小言をやりすごしながら毎日何をするでもなく過ごしていた青年王弁が、見た目は美少女ながら長い時を生き、人知を超えた術を操る仙人の僕僕に出会うところから始まる物語。
何事にも無気力だった王弁が僕僕に師事して旅にまでついていく理由は、とどのつまりは一目惚れなわけですが、それを拒まずしかし本心は見せない僕僕の序盤の距離感の取り方が絶妙な感じ。王弁は弄られ遊ばれてる感じだけどそれはそれでまんざらでもなさそうだし、雰囲気をコロコロ変えて王弁を翻弄する僕僕もそれはそれで楽しそうだしで、読んでいて非常に楽しい関係になっています。
そして話が進んで別の仙人にあったり不思議な経験をしたりする中でちょっとづつ変わっていく王弁と、垣間見える僕僕の本心、そして縮まる二人の距離はなんかもうににやにやものでした。割と欲望全開に迫ってくる王弁をあしらったり、かと思えば逆に思いっ切り甘えたりという小悪魔っぷりったら!
基本的に王弁が無気力というか、欲のない人間なのでその語りにも強い抑揚があるわけではなく、状況が異様だったり深刻だったりしても、どこかのほほんとした空気を失わない肩の力の抜け具合が素敵でした。この辺りの性格がある種仙道に向いているのかも、と思ったり。それでいて、クライマックスに向けてはどんどんと盛り上がって行くのは素晴らしかったです。
そして、王弁の視点からの語りなので、結局僕僕の謎や本心には一定以上踏み込まず、けれど想像の余地を与えてくる辺りも心憎い感じ。
ボクっ娘仙人な辺りからも分かるようにキャラクター重視の物語ですが、中国の歴史や当時の風俗を交えながら読みやすさを失わないところとか、深くは語らないけれど人生観みたいなものが透けて見えるところとかと、他の部分がしっかりしているからこその満足度が高い一冊でした。文庫落ちしたらシリーズの続きも読みます。