パズルの軌跡 穂瑞沙羅華の課外活動 / 機本伸司

パズルの軌跡―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

パズルの軌跡―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫)

書き下ろし文庫で出版されてびっくりした「神様のパズル」直接の続編。前作のラストで普通の女子高生に戻ることを選択した沙羅華の下に、綿貫が人探しの仕事を持ちこむところから始まる物語です。
森矢沙羅華として一介の女子高生の幸せをつかもうとしていた沙羅華ではあっても、人間そうそう簡単に全てが変われる訳でもなく以前の穂瑞沙羅華と森矢沙羅華の間で揺らいでいて、そこに綿貫の持ち込んだ仕事から、自分の過去、そして精子バンクから生まれたという出生の秘密にかかわるものを発見して。
宇宙を作ろうとした前作に対して、今作は自分を変えようとするものですが、「人間とは?」「幸せとは?」「自我とは?」という疑問を抱えてある種暴走をする沙羅華を、綿貫がどうにかこうにか引きもどそうとするという構図は変わらず。ただ、テーマ性そのものよりも、自らの出自と、それ故に抱えた身に余る天賦の才に苦しみ、そういうテーマに向かって突っ込んでいってしまう沙羅華と、それをどうにかしようとする凡人すぎるほど凡人な綿貫の二人の関係を楽しむ小説になっているように思いました。
それにしてもこの話、ライフロスト、ノアスというキーワードに反応し、一人で考え一人で消えた上に、心配して追いかけてきた綿貫に文句を矢継ぎ早に繰り出す沙羅華も沙羅華ですが、考えが甘いというかもはや考えなしに近い上に厚かましさを存分に発揮する綿貫も綿貫。でも、考え過ぎで一人で完結しようとするくせに不安定な沙羅華と、考えなしではあるけれど変な行動力と強引さのある綿貫の二人だからこそ、お互い色々と問題を抱えながら、お互いのことを補完できる良いコンビなのかな、とも思います。特に島でのクライマックスのシーンから、ラストの畑でのシーンでは、二人とも読んでいる方が恥ずかしくなるようなことを散々言いながら変なところで素直じゃないなと思いつつも、これはお似合いという表現がしっくりとくるんだろうなと感じました。
答えは分からないままにもがいて生き続けるに人間たちの物語は、まだこの先も続いていきそう。沙羅華が走り抜け、綿貫が後ろから邪魔したり支えたりする二人の道のりを、もっと読んでみたいなと思います。