シュガーダーク 埋められた闇と少女 / 新井円侍

6年ぶりのスニーカー大賞≪大賞≫受賞作。そして、さすが大賞という一冊でした。
謎の老人が管理する薄暗い共同墓地。墓穴掘りのために連れてこられた囚人の少年。墓地に埋められる怪物、力ある闇。墓地を包む夜の闇。湿った土の匂い。謎の子ども。そして少年は夜の墓地で、目深にフードを被った白く美しい、墓守りの少女と出会う。
仄暗い印象を与えるカバー表紙と巻頭イラストを入り口とした物語は、囚人の少年が薄気味の悪い墓地に搬送されるところから始まります。そしてそのまま、痛みを感じさせる訳ではないけれど、身体に纏わりつくような暗さや湿っぽさを持った空気に飲まれるように、物語に惹きこまれていくような作品でした。この雰囲気がとにかく魅力的で、思わず物語世界に浸っていたくなります。そして、話への入り方や文章もとても上手いので、安心して物語に身を預けられるような感じ。
この雰囲気の中で、少年が出会うのが、人知を超えた存在である力ある闇、そこへ繋がる謎を秘めた儚げで美しい浮世離れした少女。その少女メリアと穴を掘り続ける少年ムオルの関係が少しづつ移り変わっていく様子、そして利用するためにメリアに接していたはずだったムオルの心情の変化と、そこから繋がっていくクライマックスシーンは、王道の展開と静かに抑えられたまま加速する物語が、凄く滑らかで心地良かったです。
ハラハラドキドキの盛り上がる展開とか、個性的でアクの強いキャラクターとか、そういうキャッチーな部分はないのですが、これはそういうものを必要としない、作品の持っている世界観が魅力の作品なのだと思います。個人的にはとても好みで面白かったです。
ただ、サービスハプニング的なものを絡めたメリアとムオルの関係の描き方などは、少し作品の雰囲気から浮いていたかなという気もして、どうなのかなとも思ったり。読んでいて気になる部分には読み手の個人的な要素もあるとは思うのですが、そういう引っ掛かりがなければ本当に素晴らしい作品だったと思うだけに、少し残念に感じる部分ではありました。
そんなところもあって、これからこの作者の人には、ラノベ的な要素とか、流行とかには左右されないで、今作よりも更に、もっともっと美しい物語を読ませて欲しいなと思いました。それだけの力と、可能性を持った作家だと思うのです。