円環のパラダイム / 瀬尾つかさ

円環のパラダイム (一迅社文庫 せ 1-3)

円環のパラダイム (一迅社文庫 せ 1-3)

全てが≪ゲートワールド≫に呑みこまれた後の世界で、≪学校≫で生きる少年少女の物語。
バラバラの≪欠片≫に引きちぎられ、その≪欠片≫を≪門≫が繋ぐ世界。人類よりも先に≪ゲートワールド≫を生き抜いてきた異種族たち、その弱肉強食の論理が働く世界では人類はあまりにも非力で。
物語はそんな≪ゲートワールド≫をなんとか生き延びて≪学校≫と呼ばれる≪欠片≫にたどり着いた玖朗と可耶を主人公に、円環族との共生に生きる活路を見出した少年少女がほとんどを占める≪学校≫を舞台として描かれます。
厳しい旅の中で可耶を守ることだけを考えて、他のもの全てを捨ててきた玖朗と、庇護されてきた≪学校≫の少女ユカやことりの持つある意味で甘い理想とのギャップ。そしてそんな玖朗が、ある秘密を抱えながらも円環族と共生する≪学校≫のために、そしてユカのためにできることをしようとする姿は、人間不信に陥っていた少年が温かいコミュニティの中で繋がりを取りもどしていく様子が伝わってきて良かったです。
ただ、キャラクターにしても設定にしても説明が足りないというか、文章が簡潔すぎて色々描かれなければいけないものが抜け落ちていたような印象も。そのせいで、心理の変化が唐突に感じられたり、キャラクターを薄く感じたりしれしまう部分があって、ちょっともったいないかなと思いました。でも、このシンプルな文章が作っている、小難しくなったり、重たくなったりずに、どこか清々しさを感じさせる様な作品の雰囲気というのもあって、その独特さが魅力であることも確かなのかなとも。
そんな理由で個人的には、キャラクターの繰り広げるドラマよりも設定やシチュエーション、作品の雰囲気が非常に面白かった一冊でした。引き裂かれた世界、それぞれが異なる能力を持った異種族、円環族と人類の共生という要素。さらに≪創造主≫や≪設計者≫と呼ばれる、≪ゲートワールド≫においてメタレベルに位置する存在が提示されたことで明らかになる、この世界そのものに対して≪学校≫の生徒会長であるエリス、そして円環族、さらに玖朗と可耶が別々の思惑を持って関わり合っているという構図。冒頭での玖朗やユカ達の他の≪欠片≫への調査の階層から、少しづつ設定を語っていく辺りも、彼らに、そしてこの世界にどんな秘密が隠されているのかとワクワクさせられるものがありました。
≪学校≫という一つのコミュニティでの人の繋がりを基盤に、世界全体をも揺るがしかねない大きな話が描かれていきそうなシリーズの幕開けでした。面白かったです。この続きもとても楽しみ。