難民探偵 / 西尾維新

難民探偵 (100周年書き下ろし)

難民探偵 (100周年書き下ろし)

講談社100周年記念の書き下ろし100冊企画から西尾維新の新作が登場。
就職活動に失敗して、就職難民となり万策尽来たところを、祖母の助けで人気作家で変わり者の叔父 窓居京樹のもとで手伝いをすることになった窓居証子。そんな彼女が京樹の知り合いであり、「元」警視にして現ネットカフェ難民な難民探偵 根深陽義と出会ったことで、何時の間にやら事件の捜査に首を突っ込んで、という感じのお話。
西尾維新らしいキャラクターのエキセントリックさは他の作品と比べて控えめで、ギリギリ現実的な感じですが、それでも個性は強くて魅力的。事件の捜査から逃げ続けていた癖に、事件にかかわるとなると手を抜けない陽義に、作家らしい偏屈さと奇人変人ぶりを発揮しつつ、妙に常識人っぽさもある京樹のキャラクターは魅力的ですし、その二人の会えば悪口の応酬になるにも関わらず、なんやかんやで仲の良い関係は面白いです。
そして、読んでいて色々と突き刺さるのは証子の境遇と性格。序章で散々面接に落ちながら、最低限の高望みが捨てられずに結局どうにかなるだろうという甘さを持ちつづけ、気がついたらどんどんと追い込まれてにっちもさっちもいかない状況になっている証子の現状にもうわぁと思うのですが、そんな彼女の性格に思い当たるふしがありすぎるのがなんとも。何事にも生真面目でそれなりに優秀だけど、常に一歩引き気味でリスクを取れずに何かに対して捨て身にはなれなくて、危機感がないわけではないけれど中途半端にプライドが高くて色々と見込みが甘いという現代っ子ぶりが、なんというか他人事とは思えない感じ。なんだかんだで生きていける恵まれた環境に甘えているのはわかっていながら、それでもなかなか変われない辺りが、社会人をやっている今でもまだ自分を顧みて苦笑いをしてしまうような感じでした。


そして以下ネタバレあり。




そんな彼女がいつの間にか陽義の助手として変わることになったのは、出版社専務が会社から遠く離れた京都のネットカフェで何者かによって殺されるという事件。序盤はなかなか話が動かなくて冗長さも感じたこの作品ですが、事件が始まってからはその謎や陽義の捜査手法、そしてその関わりの中で証子がどう変わっていくのか興味を惹かれ、先のページに期待をしながら読みすすめていたらラストで「おい!?」という感じに。
事件そのものも証子の成長ものとしても、現実はそんなミステリ的に綺麗じゃないし、小説みたいにうまくもいかないよとばかりに全てに肩透かしをくらったような結末は、高まった期待の持って行きどころを失ったままに宙に放り出されたような感じ。衝撃的ではあるけれどひどい結末だとは思うのですが、その放り出され方が余りにも清々しく、これはこれで気持ち良く騙された感でいっぱいになれるのが、なんとも悔しい感じの一冊でした。