人類は衰退しました 5巻 / 田中ロミオ

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)

私の学舎時代の話と、レトロゲーム化する村の2本立てでお送りする人衰5巻。
私の回想話は、小さい頃からの捻くれっぷりをあらぬ方向にこじらせて、全寮制しかも少人数な学生社会の中でどんどん孤立して、孤立することでさらにこじらせていく私の様子が大変痛いです。厭世的なネガティブ思考は全開のままに、自分は一人でも生きらるんだ、生きなければいけないんだと思い込み、自分の殻に閉じこもりハリネズミ化するから周りには疎まれ孤立し、稀に差しのばされる手にすらその裏を疑い撥ね退けるという、ある意味での徹底ぶり。でもこの私の思考も行動も、分らなくはないというか、むしろ身に覚えがあるものだから、読んでいて「うわぁ」と思うことしきりでした。
それでも、そんな彼女も自分の痛みに向き合って、心を閉ざすことをやめて、少しづつ学生生活を変えていきます。ルームメイトになった巻き毛の少女、のばら会の先輩たち、始めは衝突し後に互いを理解し合ったY。広がっていく関係はもちろんただ奇麗なだけではなくて、それでも清濁併せ飲んでいける図太さと強かさは、底まで落ちた人間の強さでもあり、そして何より私というキャラクターの魅力だと思いました。
そこから回想の物語は、卒業、そして今に到るまでを駆け抜けるのですが、この200ページに満たない話の中に、私の10年近い時間を語りきるところが凄いです。クリケットのような小ネタ。物語の中に顔を出してくるRyoboや妖精さんの存在。衰退していく人類への切なさ、散り散りになる寂しさを感じさせてくれる卒業のシーン。そして何より、彼女たちが過ごした時間のほんの一部を切り取っている物語の向こう側に、いつものように集まってはかしましく活動するのばら会の様子や、子どもから大人へと変わっていく生徒たちの様子、その暮らしぶりが広がっているように感じられることが、この作品を豊かなものにしているように思うのです。この辺り、本当に作者は物語が巧いと思いました。
ただこのお話、いつものことではあるのですが妖精さんがあまりにも超常的すぎて、結局旧人類たる人間にとって妖精さんとはいったい何なのだろうかと、いい話的なものの裏側に背筋がうすら寒くなる何かを感じたりもするのでした。もちろんそれもまた、このシリーズの味ではありますが。
そして2本目は、レトロゲーム空間と化した空間での馬鹿話。文章だけ(一部AA風味)でゲームのグラフィックを想起させるのはみんなが知っているものを上手く使った面白い見せ方ですし、大量のゲームネタを話の中に入れていくあたりも凄いとは思うのですが、さすがにここまで好き勝手にやっているとハチャメチャで投げやりに過ぎるような気も……。確かに面白かったのですが、素直に楽しめないようなところもあるお話でした。ネタになっているゲームがほとんどレトロゲームで、私が半分くらいしか分らなかっというのもある気がしますが!