神さまのいない日曜日 / 入江君人

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

神さまがいなくなった世界で、墓守の少女が見せる、生きるということ。
もう二度と人は死なず、そして生まれない。神さまに見捨てられたそんな世界で、動き続ける死者に安らぎを与える存在、墓守である少女アイ。そんな彼女が過ごす村を襲い、彼女以外のすべての人を葬った、アルビノの不老不死、人食い玩具(ハンプニー・ハンバート)。そんな二人の出会いから始まる、終わり行く世界の小さな奇跡の物語。
裏に何かがあるとは思わせるものの説明がないままに話が進んでいく序盤から中盤にかけての展開は、アイの思考や行動もハンプニーの思考や行動もよく分からない部分が多くて、頭に疑問符を浮かべながら読んでいました。村を襲った仇を、直観で父親と呼び憎みながら慕うようなアイの感情の流れの不可解さも、残虐な登場シーンとは裏腹の優しさを見せるハンプニーの行動も、与えられた情報が少なすぎて理解できないような感じ。アイのセリフ、ハンプニーのセリフ、そして地の文で語られているものがズレているような妙な感覚があって、正直読み辛かったです。
ただ、中盤から少しづつ、この世界の在り方、アイの村で大人たちが隠していたもの、そしてハンプニーというキャラクターの内面が見えてくると、物語の印象はガラッと変わります。アイの行動も言動にも、ハンプニーの行動や言動にも、語られないから分かり辛かっただけで、最初から最後まで徹頭徹尾一貫したものがあって。そして最後まで読むと、神無き世界で壊れた墓守と不死の化け物が愚直なまでに貫いた信念と想いに、その行動が呼んだ小さな小さな奇跡にじんとくるものがありました。
特にアイというキャラクターは、喜怒哀楽がごちゃ混ぜになったまま、それを自分でも整理せずに外に出しているようなところがあって、一見すると支離滅裂なように見えるのですが、生き死にの境界すら薄れてしまった世界の中で、瑞々しい生の感情を、そこから生まれる信念と希望をその言葉と行動で示していたように思います。失われていく世界の中で彼女が見せる、飾らない、生きていることそのもの輝きみたいなものが、この作品の魅力なのかなと思います。
ファンタジア大賞ということでやたらと期待が大きくなっていたこともあり、何か少し描き切れていないような物足りなさも感じましたが、どこかフワフワとした柔らかさのある、素敵な物語でした。