ココロコネクト ヒトランダム / 庵田定夏

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト ヒトランダム (ファミ通文庫)

本当に辛い時に人が欲しい言葉は、「頑張って」でも「負けないで」でもなくて、「大丈夫だよ」なんだろうなと、そんなことを思った一冊でした。
文研部に所属する5人の高校生男女。彼らの間で突然始まったアトランダムで突然な人格入れ替わりに端を発する、コミュニケーションを描いた物語。前兆なしで短期間の人格入れ替わり、しかも男女間でも発生するというところで、入れ替わりもの醍醐味的なイベントも押さえられていて、そのあたりも楽しめますが、この作品の醍醐味は5人の人間関係の移り変わり。
いくら同じ部活の仲間だからといって、当然人と人の間にはこれ以上近づいては危ない距離やお互いに隠した部分があるわけで、本当なら少しずつ時間を掛けて埋めていかなければならないそれを、人格入れ替わりは一足飛びに、しかも強制的にゼロにしてしまいます。だから、お互いの一番深いを強制的に開け広げられ、その中でどうやってコミュニケーションを取って、お互いを理解していくのかがこの物語の焦点。
そして、その中で中心的な存在となるのが主人公の太一。彼の他人と真正面からぶつかることも厭わない、むしろそうしなければ道は開けないと信じている真っ直ぐさと、無根拠なまでの前向きさが少女たちの心の壁を崩して、その心に抱えた闇を晴らしていくような感じ。彼女たちが一歩踏み出せるように、不器用でも不恰好でも「大丈夫だ」と言葉と行動で見せられる太一はなかなかに大物だと思います。
ただ、せっかくの5人入れ替わりなのに、その中での人間関係が基本太一と3人のヒロインひとりずつの1体1で描かれていたのがちょっと残念。もっと人間関係が錯綜するような形になっていたら、より面白かったんじゃないかなと思いました。あと、キャラクターたちがやたらと理性的に描かれている気も。当然混乱したり、感情をぶつけ合ったりもしているのですが、皆どこかしっかり制御されているような印象で、心の中をさらけ出してぶつかるような展開にはならなかったのが、変にごちゃごちゃしないという意味でスマートではあるのですが、ちょっと物足りなくも感じました。太一が女の子のトラウマをパズルを解くかのように一個ずつ解決しているように見えて、人間ってもっと不確かでどろどろとしたものなんじゃないかなと思う部分があったり。
それでも、クライマックスの5人入れ替わりを活かしたシチュエーションと、その中で彼らが彼女らが考え、そして選んだ結論は凄く良かったし、文章も上手くて構成も綺麗にまとまった質の高い作品だったと思います。面白かったです。