羽月莉音の帝国 / 至道流星

羽月莉音の帝国 (ガガガ文庫)

羽月莉音の帝国 (ガガガ文庫)

ビジネスでライトノベルで「雷撃SSガール」高校生版とも言えるまさに至道流星な1冊でした。
高校生の巳継が幼なじみの仲良しグループとともに従姉の莉音に引き込まれた、革命部という謎の部活動。「最終目標は建国!」と宣言する莉音の傲岸不遜で破天荒な行動に巻き込まれて、巳継たちがドタバタとする物語、というライトノベルのテンプレ的展開ではあるのですが、そこで繰り広げられるのは、建国に向けて必要なのは軍事力→そのために資金を集めることが必要→資金を集めるために起業するという、ある意味地に足が付いたビジネス小説的展開。
ボロ屋を借りて作ったオフィスを拠点にとりあえず数撃ちゃ当たる式に始める事業、幼なじみグループの一人である沙織を全面に押し出すことでコスプレ事業に辺りが出てからはそこに専念する形で事業を拡大、さらにコスプレ事業を推し進め規模が膨らんだところで事業ごと売り抜けて、その資金で株式公開のために東証2部企業に買収工作を仕掛けるという、荒唐無稽ながらビジネス的に順を追ったプロセスで世界を変えることに挑んでいく辺り、ライトノベルとしては異色作な感じ。ラノベテンプレ的キャラクターと乱発されるビジネス用語の組み合わせが、ラノベ好きで大学で経営系の専攻だった私としては面白くて仕方が無いものになっていました。
「雷撃SSガール」で感じたキャラクターが上滑っているようなミスマッチ感やキャラクターの描写の薄さは、主人公たちが高校生になったことで大分噛み合せが良くなったような感じ。その反面、余りにもやることなすこと上手く行き過ぎていることに違和感を感じる部分もありました。ただ、それが世界を変えていくんだというドライブ感に繋がっている面もあるのですが。
キャラクター的には見識、頭の回転、強気なメンタル、外見、コネに体術と完璧超人な莉音を始めとして、何事にも動じない大物ぶりを見せる巳継に、規格外の天然である柚、そして規格外のアホである恒太と癖の強い面々に、容姿抜群の美少女ではあるものの極めて一般的常識人である沙織が延々と振り回される構図。それ自体は賑やかで楽しげではありますが、コスプレモデルとして人前に嫌々立たされ、インフレしていく事業規模に混乱する様子は余りにも可哀想な気もします。
そして事業自体はその沙織に大きく依って進めてきた訳で、もし途中で彼女がやめたらどうする気だったのかとも思うのですが、沙織は巳継がいる限りやめないと踏んで、さらに巳継は自分のやることには付いてくると踏んでいたのだとすれば、経営者としての莉音はさすがというべきなのかなとも。どちらかというと、そういう細かいことは考えない、黙って私に付いてきなさい系のワンマン経営者で、だからこそ巳継のような人間がと必要になっているような気もしますが!
この巻では、巻き込まれていくことの大きさに対して革命部の面々がどう思っているのかや、多少は語られているとはいえそれを引っ張っていく莉音自身のモチベーションは、まだ十分には明かされていないような印象。個人的にはこの作者は社会に対して持っている考え方、そしてそれを作品に込めて謳い上げるところに魅力を感じているので、そういう意味では物足りなさも残る一冊でした。
とはいえ革命部はまだ株式公開に到達したばかり。これからも建国に向けて拡大を続けていくとすれば、その中でキャラクターたちが何を考え何のために何を成すのかという部分も、もっと踏み込んで描いてくれると嬉しいなと思います。