探偵・花咲太郎は覆さない / 入間人間

『閃かない探偵』花咲太郎の物語第2弾は、相変わらず事件に巻き込まれたりしているような気がするけれど、あくまでも本人は動かずにそれを流していくような印象。
5章の短編とエピローグから成る小説で、殺し屋に出会うし、隣人は殺されるし、家出少女を捕まえるし、お婆さんは気が触れてるし、あまつさえテロリストの人質にまでされる波乱万丈ぶりなのに、語り手である太郎がそこに積極的に関わる意識を持っていない、というか積極的に関わらない意識を持っているために、本当に起伏がない、何も起こらない作品になっています。
推理はショートカットでまともに事件の謎には向き合わず、物語からは一定の距離をとって、死にそうになっても何の危機感も持たず、ただ投げかけ続けるのはシニカルな視点のみ。意識が深入りしないから、その語りも思考の表面をなぞるようで、正直なところ冗長な割に退屈です。この世の中を斜めに見た上でのアホらしさというか、狂った世界の中で素敵に螺子の飛んだ正気を保ち続けている感じが非常に入間作品らしいところかなと思いました。ただ、太郎の語りの向こう側には、みーまーで僕の語りに感じるような切実な手触りが感じられなくて、その分不条理感以上には何を楽しんでこの作品を読めばいいのか分からない部分も。その辺りは、私がこのキャラクターに合わなかったということなのかもしれませんが。
そんな太郎が、ペット探しの安寧とした世界を捨て、おかしな世界に飛び込んででも拘った、この作品の中で唯一太郎の意志というものを感じられた対象は、一人の家出少女。トウキこと桃子とロリコンな太郎の関係は、常識で考えれば歪みきったものではありますが、サラサラとした筆致で描かれるそれはまるで当たり前のことのようで、居心地の良さすらあるのが奇妙な感覚。
そんな訳で、軽い手触りで狂った世界の当たり前の日常を描いた、いつも通りの入間作品だったのだと思います。