下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件 / 嶽本野ばら

桃子とイチゴが帰ってきた! な下妻物語の完結編。文庫化されたので手に取ったのですが、どうして単行本の時に読んでおかなかったのかと後悔することになったのでした。やばい何これ大好きすぎる!
桃子は相変わらずロリータで、イチゴは相変わらずヤンキーで、それでも何故かよく一緒にいる二人の関係はそのまま。シリーズ2作目でキャラが固まっている分、ロココな美意識を貫きワガママで嘘つきで天の邪鬼な桃子と、びっくりするほどおバカさんでびっくりするほど真っすぐなイチゴの掛け合いが完成されていて、二人が喋っているだけでも面白いというキャラクター小説的な魅力もある作品になっています。散々イチゴをからかったりする桃子ですが、孤高で傲慢な振舞いをしながらも、なんだかんだでイチゴを放っておけないあたりがとてもツンデレな感じで、友情ともちょっと違ってもっと親密な二人の女の子の関係がとても良いなと思うのです。
そして個人的に大好きなのは桃子の饒舌なのに力の抜けた一人称で語られる文章と、そこに表われてくる彼女の考え方。身勝手に我儘に、でも自分の美意識には忠実に。ロココでロリータな精神を貫いて、周りのことなんて気にしない、自分の信念だけは揺らがない強かなそのスタイルは、本当にカッコいいと思うし、そんな風に生きられたらと憧れるものがあります。

「ロリータは、ヤクザさんやヤンキーみたいに、背負っているものの重さが違うんだ見たく糞真面目な、というか、無理やりな自己肯定をしなくても、否定したけりゃ否定していいんだもん、馬鹿にしたければご自由に、私はヘコんだりしないもんという開き直りというか、誇りを持っているからこそのロリータであって……」

こういうことを悪びれずに言えちゃうのは、本当に自分の価値観を信じているからなんだろうなと。
物語は、東京からの帰り道、桃子とイチゴが高速バスで出くわしてしまった殺人でイチゴが犯人候補になってしまってさぁ大変という事件と、BABY,THE STARS SHINE BRIGHTにちょこちょこと顔を出すようになった桃子がデザイナーとしてスカウトされてという話が軸になっています。事件の方は事件自体がどうこうというよりは、その事件を通じて出会う人や二人の関係が描かれていく感じ。そしてこの事件の方で桃子とイチゴに関わってくる走り屋のジャスコ警備員の人が、イチゴに負けず劣らずバカだけど、でもどんなにカッコ悪くても前向きで常にぶつかっていくその姿勢で、何故憎めない良いキャラをしています。
このジャスコ警備員をめぐるイチゴの恋愛話に、BABYの磯部様からの熱心なスカウト、そんな諸々ありつつ、桃子は一つの決心をします。それはロリータな価値観からすれば、とんでもなくダサいことで、それでも何よりも自分の好きなことに正直な選択は、やっぱり桃子らしくて、自分らしくありながら、変わっていけるというその強かさがとても素敵でした。
そしてそうやって、桃子を変えていったのは、間違いなくイチゴや警備員さんたちとの関係。成長とか、青春とか言えば、桃子にクサい、ダサいと怒られそうですが、このシリーズはまさしく、大切な人との出会いと別れの物語であるという意味でも、自分の美意識に忠実であることと社会で生きていくことの折り合いの付け方という意味でも、桃子というキャラクターの成長物語だったのかなと思いました。
そしてラストシーン。ベタでベタでどうしようもないものをバカみたいに真面目にぶつけてくるイチゴと、天の邪鬼でそんなものいらないと嘯いていた桃子が、二人で重ねてきた時間の持っていた意味。最後の最後で正面から繋がった二人の想いは、真っすぐだからこそ感動的で、なんて素敵なんだろうと思うことしきりでした。
そんな感じで、非常に面白くて、憧れて、笑って、泣いて、感動して、読み終わった時にちょっと元気になれる、愛すべき作品でした。私はお洋服のことは全然分かりませんし、同じくヤンキーやヤクザの世界も全然分かりませんが、それでもこの世界とこのキャラクターはとても魅力的だと感じました。
これよりももっとすごいと思える小説はたぶん世の中にたくさんあるけれど、これよりももっと好きだと思える小説は滅多にないんじゃないかなと思える一冊。大好きです。