DON'T TRUST OVER 30 / TAGRO

DON’T TRUST OVER 30 (KCデラックス)

DON’T TRUST OVER 30 (KCデラックス)

「青春が終わってからが本番だ。お前を殺して俺は生きるよ」――佐藤友哉

帯のユヤタンのコメントがこの作品への感想の全てな気がしてならない、ファウスト掲載作中心のTAGRO短編集。ファウストを始めて読んだときに、小説と同じくらい衝撃を受けたのがこの人のマンガだったことを思い出しながら読みました。
青春的にうにゃうにゃとした、絶望というほどではなくて、でも決して浮き上がれないような、諦念というには痛みがあるような、前向きには程遠くても希望は残っているような何か。外側が閉じているからなのか、自己の内に潜っているからなのか、たぶん両方から来るのだろう閉塞感がただ流れていくような感じ。
生活感はあるのに現実感は乖離したような感覚が残る大人より手前の物語は、20代も折り返し地点を過ぎて色々割り切ったつもりでいる今ならば冷静に読めるかと思っていましたが、当時ほどでないにしろ全然冷静には読めませんでした。
一番好きなのは「The world is full of angry young men.」。大人の幼稚化が進んで精神年齢が管理される社会で、大人にならない大人と、大人へと成長していく子供の二人から、大人と子供というものを描いた短編。

私たちの遺伝子に降り積もっているのは青春への懐慕などではない。
大人達の諦念と子供達の怨嗟だ。

もういい加減子供とは言えない年齢の私ではありますが、それでもこの言葉はどうしても心の底に響くものがあります。
そして、主人公がひたすらうだうだ言っている1本目の「DON'T TRUST OVER 30」はさすがに冷めた目で読んでいたのですが、それへの回答として描かれるラストの「SON HAS DIED, FATHER CAN BE BORN」には胸の奥の方を締められるような息苦しさと救われる気持ちを混ぜあわせたようなぐちゃっとした感情が押し寄せて、読んでいて大変なことに。子供と親を通じて描かれる生きるということ。そして許すということ。
うまく言葉にできませんが、行き止まりのその先の希望を見せてくれるような作品でした。だから、私はこれを全部沈めきって、その先を生きていかなければならないのだと思います。