零崎人識の人間関係 無桐伊織との関係 / 西尾維新

零崎人識の人間関係 無桐伊織との関係 (講談社ノベルス)

零崎人識の人間関係 無桐伊織との関係 (講談社ノベルス)

『殺し名』を始めとした裏の世界の人々が描く、捻れてひねくれていて、それでも家族の物語。
戯言シリーズ終了後の時系列で語られるのは、零崎一賊全滅後、生き残った人識と新たに零崎となった無桐伊織の兄妹の物語。そして同時に語られるのは、石凪萌太闇口崩子という兄妹、そして闇口憑依と六何我樹丸という親子までを含めた、家族の物語でした。
石凪萌太からの依頼を果たすため、闇口衆の拠点にして、萌太、崩子の兄妹が育った島である大厄島に乗り込んだ哀川潤。そんな潤に無理やり協力させられた人識と伊織に、拉致されてきた崩子。そこで彼らが出会う崩子の母である闇口憑依と、萌太、崩子の父であり生涯無敗の結晶皇帝、六何我樹丸。そして、それぞれの条件を課して始まる大厄ゲーム。
鬼ごっことサバゲーを合わせたようなそのゲーム自体のルールの面白さや、そこに絡んでくるキャラクターたちの、特殊カードとジョーカーしかいないような個性。そして普通に考えたら噛み合わないはずのバトルを言葉の魔法をかけたかのように成立させて、しかもそれが面白いというあたりは、異能バトルを描かせた時の西尾維新の異端さと才能をこれでもかと感じさせてくれます。そして出夢でのあの人に続いての、この人の登場も戯言ファン的には嬉しいところ。
ただ、そんなバトルもの的面白さも十二分に備えた上でも、やっぱりこの物語の焦点は、闇口崩子を中心とする家族と、零崎人識を中心とする家族の物語でした。
死んだこととされた石凪と闇口の兄妹。かつて大厄島から逃げ、そして戻って来た崩子を待っていたのは、「死んだもの」として扱われるという現実。哀川潤のいつも通りの横暴に巻き込まれるようにして改めて自らの家族と向き合うこととなり、そしてクライマックスでいつも澄まして見せていた彼女が我樹丸にぶつけた生の言葉は、彼女にとって石凪萌太とはなんだったのか、骨董アパートでの暮らしとはなんだったのかを主張する圧倒的なカタルシスをもったもの。そしてそのことが、萌太の哀川潤への依頼と繋がる辺り、この兄妹の絆というものを見せつけてくれる素敵な物語でした。
それにしても六何我樹丸というのは底の知れないキャラクターだと思います。憑依がなんだかんだで崩子と萌太の事を切り捨てられていないのに対して、死んだものであれば死んだように扱うし、生きているのであれば生きているものとして扱うという割り切り方は、この生涯無敗が普通じゃないことを感じさせるに十分な態度だったように感じます。
それから零崎一賊とはなんなのかというのも、人識と伊織の二人の関係から見えてくる物語。伊織の空気の読めないボケキャラっぷりと、すっかり丸くなった人識の様子に序盤は毒気を抜かれてそのやりとりを楽しんでいましたが、やはり追い詰められた時の行動は二人になっても零崎。家族のために何よりも力を出せる、家族のためなら己さえ顧みないその姿勢に、純粋な零崎故に零崎ではなく、最後まで定まることの無かった人識というキャラクターの、一番深い部分がようやく見えたのかなと思いました。そして伊織のアホの子なのか賢いのか分からないちゃらんぽらんな感じは、個人的にとても好きです。戯言シリーズと併せても一番お気に入りのキャラクターなので、またどこか別の舞台で活躍が見れればいいなと思ったり。
そんな感じに、戯言・人間シリーズの設定のもとに描かれたエンターテイメントとして非常に面白かったです。読み始めるまでは、もうこのシリーズはここまでで良いかなとも思っていましたが、これを読むと、この世界観でもっとたくさんの物語を読みたいと感じさせてくれるような一冊でした。