はるかかなたの年代記 双貌のスヴァローグ / 白川敏行

移り住んだ彼方の星で、〈換象〉と呼ばれる超常能力を人々が身につけた時代。国際学園であるフラムスティード学園に入学した、秘密を持った子供たちは出会います。
女の子みたいな顔をした少年ユウ、お嬢様なカティア、そして不良に絡まれた二人を救った少年クリス。それぞれがそれぞれにただならない背景を抱えて、それぞれの想いを胸に学園に入学してきた3人が親しくなっていく展開は、ユウとカティアの初々しい感じとちょっと離れて眺めているようなクリスの立ち位置に微笑ましさを感じます。お互いを解り合おうとして距離感に悩んだり、ドタバタなハプニングがあったりで、この辺りは楽しい学園生活といったところ。物語を包む優しい雰囲気と、柔らかい印象のキャラクターが魅力的です。
そして、後半にかけてある事件が起きて追い詰められる中で、それぞれが置かれた事情、その一端が見えていきます。ユウが共生する〈チョールト〉の正体、そして隠していた〈換象〉の力。そしてカティアの出自とその秘めた力。今回明らかになった秘密は軽いものではなく、ただ、だからこそお互いの秘密を知って尚信じあえる仲間に出会えたことが、孤独に生きるしか無かった彼らにとって特別なことになっていくのかなと思いました。
今回は明らかになりませんでしたが、クリスの過去にも重い秘密がありそうですし、そういった部分の背景には多国籍の生徒の集まる学園に垣間見える国際情勢や、そもそも〈換象〉とはなんなのかという部分まで、まだまだ様々な謎が残っていそうな感じ。
このあたり、あくまでも少年少女が悩んだり迷ったりしながら互いを信じて歩みだす等身大の物語の背後に、大きな流れや謎を示唆させる情報の出し方が上手くて、今の物語を楽しみながらこの先へ興味をひかれるシリーズの幕開けとしてはとても良いものになっていたと思います。ただ、主人公たちが特別な力やケタ違いの強さをいきなり持っている話なので、今後バトル的な部分が増えるとパワーバランスがどうなるのかというのだけは少し不安な気もしなくもなく。
とはいえ、3人とも主人公と呼べるような魅力的なキャラクターたちと、先への興味をひかれる設定で、今後のシリーズが楽しみになるような一冊でした。面白かったです。