クロノ×セクス×コンプレックス 2 / 壁井ユカコ

クロノ×セクス×コンプレックス〈2〉 (電撃文庫)

クロノ×セクス×コンプレックス〈2〉 (電撃文庫)

男が触ると時間を跳ばされるウサギをめぐっての騒動が繰り広げられる第2巻。
ホーライ会に入ることに成功して自分の世界に帰る準備が整いながら、クロックバードで築いてきたオリンピアやニコたちとの関係も捨てられなくて迷うミムラ。自分が元の姿に戻ったとして、やはりクロックバードに入学することになっていた三村朔太郎としての自分の居場所はどうなっているのだろうと男子寮の様子を伺う彼女(?)が巻き込まれるのは、男が触れるとタイム・リープするというウサギを上級生から押し付けられた上に逃がしてしまい、追いかけているバーニーとアシュトンという二人の男子生徒。飛び飛びになる時間をバーニーとミムラの二人の視点で描きながら、ウサギを追いかけるドタバタ劇が紡がれます。
視点が別れた上にあちこちに時間が飛ぶという構成は、ともすれば読んでいて読者を混乱させるようなものになってしまいそうですが、バーニーだけが時間を跳んで、彼のタイムスケジュールを埋めるように語られていくので読みやすくスッキリとした感じ。とは言っても、当然そこに空白の時間の謎から意外な行動を見せる他のキャラクターやら、ミムラオリンピアの関係を揺るがすような事件の謎ややらが積み重なって、いったい何があったのだろう、これから何が起きるのだろうと先の展開にワクワクするような面白さがありました。進む時系列が違うが故の、バーニーとミムラの噛み合わなさもまた面白かったです。
このミムラとバーニーの関係はこの巻の大きな見所の一つ。元男であるミムラは気安く、男友達同士のような感覚でバーニーに近づくのですが、バーニーからしたら美少女にそんなに無防備に近づかれたらとても落ち着いてなんていられない訳で。女嫌いを標榜しながら、他の女子とは感じの違うミムラに惹かれていくバーニーと、自分は男だと言いながら、一ヶ月の女の子生活の影響かいろいろな部分で思考や行動が女の子化しているミムラの関係は、読んでいてニヤニヤすることしきり。普段はサバサバして気安いのに、ふとした拍子に女の子らしい弱さを見せるとか、ミムラはどれだけ小悪魔なのかと思います。これで本人は男に興味がないならとんだ男泣かせですが、このまま一生女でいるなら始めての相手はバーニーが……なんて妄想しているところを見ると満更でもなさそうなのが、またなんというかニヤニヤものだと思いました。こういう倒錯した関係はTSものの醍醐味だと思います。
そしてバーニーの方も、カッコつけで強がってばかりで、でも自分の信じたものは絶対譲らない頑ななまでの真っ直ぐさと純粋さを持っている良い子で好感度が高い感じ。ミムラに翻弄されてうろたえる様子は微笑ましく可愛らしいですし、決めるところは決めてくれる強さもあって素敵なキャラクターだと思いました。
物語は、ウサギを捕まえてさあ解決かといったところで、思いもよらない展開へ。まだ埋まっていなかったパズルのピースを埋めながら、もっと大きな物語に関わるミムラの行動がありつつ、オリンピアやアレクサンドラとバーニーを巡る因縁や、女子寮に渦巻くどろどろとした人間関係までを詰め込んで盛り上がっていくクライマックスが素敵でした。特に女子寮方面は、終盤のアレクサンドラの部屋のシーンの、ルーシーとオリンピアのそれぞれの行動に歪んだ愛憎を見て、背筋がぞっとするものがあったり。
事件はいったん解決を見たものの、火種はそこかしこに存在したままで、謎も多く残ったまま。この状況から、何かを打破してくれるならきっとバーニーの真っ直ぐさなのかなと期待しつつ、続きを待っていたいと思います。