ゴールデンタイム1 春にしてブラックアウト / 竹宮ゆゆこ

大学生たちの繰り広げる青春物語の幕開けとなる一冊。
竹宮ゆゆこ最新作は大学入学を機に出会った人々の青春モノになりそうな感じ。静岡から上京して大学に通い始めた多田万里が、入学式の日に慣れない都会と知り合いがいない戸惑いの中出会った柳澤光央。そしてその光央を追いかけて現れた、どこからどう見ても超完璧、超美人、超自信家な完璧お嬢様の加賀香子。無理矢理に光央に迫って彼の人生を滅茶苦茶にしてきた香子の横暴に嫌気がさして逃げる光央と、そんな香子の寂しそうな様子を見てしまったが故に気にしてしまう万里。
そんな3人の人間関係を軸に回り始める物語は、怪しげなサークルの新勧に引っかかって危機一髪だったりしつつ、万里が香子の素顔を少しづつ知っていくような感じ。完璧超人で傲慢で「光央と私は結ばれて当然!」という態度と、ふと見せる素顔の彼女のどんくささや弱さ。その不器用さや幼稚さも含めて、いつの間にか一番近くで見てしまっていて、だからどうしても気になってしまって。でも光央は彼からすればストーカーもいいところな香子を毛嫌いして、ただ幼なじみとしての感情もあって、けれど彼は大学で出会った千波という子に惹かれていて。そして実は記憶喪失だった万里と色々謎なリンダ先輩の関係に、その他もろもろが絡みあってさあこれからどう転がっていくのだろうという感じで1巻は幕引き。
4月頃の大学生の浮き足立った雰囲気に懐かしさを感じたりしつつ、みっともなくて青臭くてでもぐちゃぐちゃになりながら自分の気持ちをぶつける姿に青春だなぁ、いいなぁと思いました。傷心の香子がライブハウスで暴れた、その後の万里との会話とか素晴らしいです。テンション振りきっちゃった後にお互いついポロッと出た生の言葉というか、そんなこと恥ずかしくて普段は人に言えないはずなのに、散々しょうもない姿を見せた後だからガードが下がって、お互いの心を晒してしまうような感じがもう。素面で眺めたら思わず目を背けたくなる、THE青春! みたいな、若いって素晴らしい的な何かがここにはあると思うのです。
そして、すっとぼけたようで、ふとした瞬間にキャラクターの心に斬り込んでいくような口語体の文章も相変わらず魅力的。今作では主人公たちは大学生ということで、人間関係の動きも「とらドラ!」の高校生たちとは違う展開を見せそうな予感があります。そしてこの先に、学校行事がメインになる高校生と違い、何でもできて何でも起こり得る大学生だからこそのストーリーが待っていそうで、まさにつかみはOK! な感じの一冊でした。続きが楽しみです。