ニーナとうさぎと魔法の戦車 / 兎月竜之介

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

正義を掲げて戦争と戦う、戦車隊の少女たちの物語。
戦争の最中貧しい村に生まれ幼くして身売りされ、拾われた先の戦車隊では虐げられた末に這々の体で逃げ出した少女ニーナ。盗みや残飯あさりに手を染めなんとか生き延びてきた彼女は、私立戦車隊・ラビッツに拾われます。
過酷な境遇に追い詰められて、浮浪児のように生きてきた彼女が触れる人の優しさ。大人を戦争を心から憎むわずか12歳の少女の頑なになった心を、ラビッツの少女たちの優しさが少しずつ溶かしていくような展開は、読んでいて柔らかい気持ちになれるものでした。
ただ、戦時に使われた災厄である野良戦車から街を守り戦う魔道戦車隊という立場は、優しいだけのものではありません。襲い来る野良戦車、そして明らかになる大きな敵の姿。ラビッツに砲手として参加したニーナの視点から見えるのは、野良戦車の持つ力、戦争のもたらした暴力を前に、少女たちが決死の思いで戦い、血を流すような世界。戦いの場では命が失われていく。引けば街が襲われる。それでも、ラビッツは怯みません。
彼女たちを動かすのは、呆れるくらいに綺麗事な理想。戦争そのものを相手取って、守るための戦いに身を投じる。彼女たちは傷を負った少女たちの寄り合いで、掲げる正義はまるで絵空事のようで。それでも、首なしラビッツの名前の意味には、彼女たちがお互いに支え合いながら明日の幸せを掴むために死力を尽くす様には、確かに胸に響くものありました。
それと共に描かれるのはニーナ自身の成長。自分の身を守るために心を殺していた少女が、優しさに触れ、仲間を得て、自らの道を見つけていく。過酷な境遇が抱かせる復讐の炎に、戦争災害という過酷な現状に、根っからの戦車乗りである自らの業に、人々との関わりの中で自分なりに向きあって、ラビッツ的な、そして子どもらしい真っ直ぐな理想に向けて力強い一歩を踏み出していく。追い詰められた始まりからたどり着いたその姿に、希望を託したくなるようなラストがとても良かったです。
正直、世界はそんなに優しくなくて、彼女たちをいつまでも生かしてはくれないと、いつの日か、もしかしたら明日にでも首なしラビッツは残酷な現実に飲み込まれるのではないかと、そんなことも思います。でも、だからこそ、彼女たちが見せてくれる理想と正義と絆が何よりも尊いものとして輝くのだろうと思いました。作品を包む柔らかい雰囲気とあわせて、戦争というものを背景にしながら、その中で真っ直ぐに生きる少女たちの素敵な御伽話だったと思います。
そして、ラビッツメンバーのやたらいちゃいちゃしていたのが印象的。作品を包むどこか甘ったるい空気に、強い絆で結ばれた少女たち。特にエルザとクーのやりとりは読んでいてニヤニヤできるものがあって、その面でも楽しめる作品でした。面白かったです。