ハロー、ジーニアス / 優木カズヒロ

ハロー、ジーニアス (電撃文庫 ゆ 3-1)

ハロー、ジーニアス (電撃文庫 ゆ 3-1)

陸上の特待生として入学しながら足の怪我でその道を絶たれようとしていう少年と、普通の人とは違う才能を持ったジーニアスとして生まれながら自らの道を選べずにいる少女。そんな二人が出会った、ある春のボーイ・ミーツ・ガール。
とにかく雰囲気が抜群に良い一冊でした。青い空が、澄んだ空気がどこまでも広がっていくような中に、微かに滲んだ痛みと苦味。どこか淡々と落ち着いたようでいて、見え隠れする気持ちの揺らぎや想いの強さ。そして、高行と八葉を繋ぐ「空飛ぶ魚」のイメージ。近未来、少子化によって子供たちが集められた学園都市、普通の人とは全く別種の能力を持つジーニアスたちによってもたらされた技術、その中で存在感を放つ本や銭湯のレトロな雰囲気。そういう物語の舞台や背景が、そして作品自体の持つ空気がとても素敵で、そこで紡がれる真正面から青春なボーイ・ミーツ・ガールの物語をより魅力的なものにしていたように感じます。
特待生として入学して、陸上部のエースとして活躍して、もう陸上のことしか頭になかった高行。そんな彼が故障によりそれを失った時に感じた気持ち。それから、人とは違うジーニアスとして生まれ、あまりに圧倒的な能力を持ちながら、自らの進む道を選べずにいる八葉の気持ち。少年と少女の境遇はあまりに違っても、同じように自らの行き先に戸惑う二人は出会うべくして出会います。
人付き合いに不器用な二人が、支え合い、ぶつかり合い、過ごしていく時間。ジーニアスと言えども八葉が見せるのは等身大の女の子の顔で、そんな彼女に振り回されながら一人で生きようとしてきた高行にも変化があって。お互いに不安や迷いを抱えた二人が、その関わりの中で何かを見つけて、それぞれに変わっていく。そんな青臭いくらいに青春な物語を、少し背伸びしたようで、けれどあくまでも等身大な感じに描いている、とても感じの良い作品でした。
高行は過去にけじめを付け、八葉は踏み出す勇気を得て、二人は新しい道を歩み始めます。ひとつの出逢いがもたらした、かけがえのない青春のひとコマ。そんな表現がすごく良く似合う、素敵な物語でした。面白かったです。