終わる世界のアルバム / 杉井光

終わる世界のアルバム

終わる世界のアルバム

前触れもなく人が、その記憶と共に消えて行ってしまう世界での、喪失の物語。
昨日までいたはずの人が、突然消えて元よりいなかったことになる。そんな病に侵されて、ゆっくりと滅びに向かっていくような世界の中で、カメラに写すことでその人の記憶を保つ事ができる主人公。その人が失われたことを、世界でただ一人覚えているということ。そのことを受け止めないですむように、何も感じないように人からも距離を取り、自らの心を殺して生きる彼の前に、いなかったはずの女の子が現れて、という展開で物語は進みます。
消えていった人はどうなるのか、そんな状態で体制やライフラインが維持されているのはなぜか、もっと外の世界はどうなっているのか、そういうことは恐らく意図的に何も触れず、ただひたすら失われていく世界での少年と少女の物語だけを描き続けるような作品。記憶というものをを扱いながら、内側へ内側へと閉じていく世界で、叙情的に感傷的に、ただひたすら喪失の痛みと切なさだけを描いていくような感じ。その極端なまでの振り切り方と、作者らしい繊細な感情の動きや終末的な空気の描き方はとても良かったです。ただ、ここまで割り切った作品を読んでも、思わずこの世界はどうなっているんだろうと思ってしまう位には、私が年を取ったのだろうなという。そういう意味では、あと5年前に読んでいたらとも思います。
あと、さすがに主人公が鈍感に過ぎるだろうと。物語自体はいなかったはずの少女奈月が一体何者なのかという謎が引っ張っていく感じなのですが、あまりにも分かりやすく奈月との関係が示唆されているのにも関わらず、主人公がそれに気が付かないのはさすがに読んでいてもどかしさを感じました。もちろん主人公がそうなのには理由があるのですが、それにしても。
そんな感じでちょっと肌に合わなかったのですが、読み終わって印象には残った一冊。ハマる人には本当にハマるような作品だと思いました。