333のテッペン / 佐藤友哉

333のテッペン

333のテッペン

4つの事件、語り部の主人公、"女子高生"探偵というミステリ的な展開で語られる物語は、普通ではない主人公が普通に生きようとする物語でした。佐藤友哉作品というと、異常なキャラクターたちが、普通で狂った世界をぶち抜こうとするようなイメージが強いのですが、この作品はそんな作品とは反対という感じ。
明確には描かれないものの、過去に何らかの事件起こしたことがほのめかされ、名前を変えて生きている土江田という男。「かつての自分」の狂気を抱えながら、ごく当たり前にありふれた日常を渇望する彼の目前で起きる4つの事件。東京タワーのテッペンで起きる殺人や東京駅のど真ん中で発生する殺人といった、非日常で狂気におあつらえ向きな事件に巻き込まれ、己の狂気ののまれそうになりながらも、普通であることを嗜好する。境界を見失い揺らいで揺れて、それでも手放さないありきたりな倫理。そのこと自体が異常であるように感じる部分は別としても、それ自体狂っている普通の世界に対して、必死で執着とする主人公の姿は興味深いものでした。それがおかしくても、人の寄る辺はそこであるというような。たとえその想い自体が、何らかの方法によってそれが刷り込まれたものであったとしても。
そしてそんな土江田の隣で彼を繋ぎ止めたのは女子高生の格好をした少女探偵である赤井。正直彼女と彼の関係というか、彼女が土江田にこだわる理由はよく分からず、都合のいい存在に見えなくもないのですが、探偵という普通とは正反対にある職業につきながら、思いの外普通の少女らしい一面を見せる彼女の存在が、普通であろうとする土江田にとって意味をなしているのは確か。そしてこの全能そうに見えて全然そうじゃなかったり、高所恐怖症だったり取り乱したりする少女がまた普通に可愛いのです。ユヤタンの作品で普通に可愛いとはどういうこと!? と思ったのは秘密。二人のコンビも意外に息があっていたりして、読んでいて楽しかったです。
物語はミステリ的筋立てでミステリではないというか、それぞれが自分にとって都合の良いストーリーを事件に対して当てはめているという感じ。依頼者にとって望ましいストーリーを作るだけと言い切る探偵を始めとして、すでに起きた事件を後から語ることに対して、真実というものに一切価値を見出していない感じが面白かったです。最後にほのめかされる、騙られたストーリー以上に趣味の悪そうな真実まで含めて、まっすぐにひねくれた気持ちの悪さが作者らしい作品だと思います。
そんな感じに佐藤友哉作品らしさがありながら、エンターテインメントとしても読んで面白い一冊になっていました。というか個人的には、ユヤタンの作品が普通に読んで普通に面白いということにびっくりしていたり!