ヴォイニッチホテル 1 / 道満晴明

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

奇妙な島で繰り広げられるエキセントリックなキャラクターたちのシュールな日常劇。狂っているのに静かな、一言では表現できない独特の空気に包まれた作品。これは、クセになるマンガです。
日本人のクズキが訪れた太平洋南西に浮かぶブレフスキュ島のホテル。そこで住み込みで働く2人のメイドに奇妙なオーナー。謎の宿泊客たちに、街の少年探偵団、3人の魔女の言い伝え、暗躍する殺人者。ぶっ飛んだキャラクターが大勢登場し、オカルト的な要素からSF的な技術、かなり直球のエログロにパロディネタから可愛い少女とのラブコメ展開まで、いろいろな要素が節操無く闇鍋のように放りこまれて、でも出来上がったものは唯一無二のこの作品でしか無い世界観。
人の命が1グラムの重みもないかのように死んでいき、超常的な現象もごくごく普通に起きて、でも当たり前の生活も同じようにそこにはあって。現実感のとことんまで薄い死後の世界のような空気は、狂気が偏在しつつ、やたらと静かで穏やかなもの。読んでいて落ち着いて、切なくなって、少し不安になるような感覚は、この作品独特でどこか心地のよいものでした。
思い切りカオスのようで、食い合せの悪そうな要素を何食わぬ顔でそのまま並べてあるような世界観も魅力的。無理やりつじつまを合わせるのではなく、ただ全てのものはそこにあるようにあるという感じ。とはいっても、シュールで無意味に見えた出来事が、島の人々の行動の中でパズルをはめるように繋がって一つの絵になっていくような構成。それは、ひとつの世界が確かにここにはあって、読者としてはそれを断片的にのぞき見しているような感覚でとても面白かったです。
視点を変えて語られていく一つ一つのエピソードも作者独特のものが感じられて、澄ました顔で差し挟まれるベタベタなラブやギャグも面白かった一冊。「安全日」Tシャッツはあまりに衝撃的でした。そして女の子に義眼をはめるというシチュエーションのマニアックさは……!
とにもかくにも作者のセンスと想像力に満ちた、とても魅力的な作品でした。もっとこの世界の様子を眺めてみたいので、随分先になるであろう2巻の発売ではありますが、首を長くして楽しみに待っていたいと思います。