アイドライジング! / 広沢サカキ

アイドライジング! (電撃文庫)

アイドライジング! (電撃文庫)

それぞれの企業が技術の粋を結集させたバトルドレスを見にまとい、アイドルたちが戦うアイドライジング。その新人アイドルとなったアイザワ・モモと二人三脚で歩むマネージャーのオウダ・サイのシンデレラストーリー。
とにかく、キラキラしていて前向きで元気でまさにアイドル! という感じの一冊。アイドルなのにエンタメ志向の格闘技をしていたりはしますがそこは痛々しくなったりすることはなく、芸能界ではありますが裏事情的などろどろもなくて、とにかくフレッシュで爽やかな世界が拡がっています。技術がどうこうというよりも、ある種トンデモな技術による必殺技とデザインを重視したようなバトルドレスの設定も、アイドライジングのバトルものとしての側面も、その中でのアイドルやプロデューサーたちの関係も、いろいろなものがごっちゃに混ざられている作品ではあるのですが、少年向けの少女漫画みたいな雰囲気の中、作者の描きたい世界は最初から最後までブレなくて、そのことがすごく安心して作品に浸らせてくれているように感じました。そういう意味でも、まっすぐな小説なのだと思います。
オーディションで決まっていた子を室長の気に入ったモモに無理やり変えてデビューという、冒頭からいきなりの無茶な展開も、そのあとのトントン拍子の活躍も、素直で真っ直ぐなモモの性格と相まってこの作品らしさに繋がっている感じ。とはいえ、さすがにいきなりトップ選手と戦って買ってしまうのは上手くいき過ぎだとは思わなくもありません。でも、そこはアイドルになりたくても身長が低くてなれなかったサイが、自分に足りなかったものを持っているモモにずっと考えてきた作戦を与えてみたいな流れがあるので、ぐっとくるものがありました。プロデューサーとアイドルというこの二人の信頼関係も、この作品の魅力だと思います。
プロデューサーとアイドルの関係という意味では、個人的にウダガワとオリンのコンビが好き。オーディションに勝ちながらモモにその座を奪われ、絶対アイドルになると決めていた腹黒ぶりっ子なオリンが実際にアイドルになれたのは、ギャグ担当色モノ系なアイドル代行事務所で、みたいな感じなのですが、そんなオリンの性格を分かった上でコントロールするウダガワと猪突猛進なオリンの組み合わせが良い感じ。なんだかすっかり地の出ているオリンの若干残念なところも魅力的だと思います。これからも物語をかき回していってくれるような役回りに期待大です。
アイドライジングの舞台の上、勝利して大歓声を浴びた瞬間の興奮。賑やかなキャラクターたちに彩られながら、とにかく前へ前へ、光の指す方向へと進んでいくような物語でした。私みたいな人にはちょっとキラキラしすぎていて面食らうところもあったりしたのですが、気持ちの良い一冊だったと思います。面白かったです。