神様のメモ帳 6 / 杉井光

神様のメモ帳〈6〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈6〉 (電撃文庫)

ある日突然ラーメンはなまるにやってきた香港マフィア黄同盟の後継者にして、ミンさんの親戚である黄紅雷、そしてその妹の黄小鈴。彼らが持ち込んだ事件はミンさんの父親が起こしたという事件、婚約予定だった黄香玉とその恋人を殺して逃げたというもの。婚約者の代理を紅雷に依頼されるミンさん、そんなミンさんに意外なほどの本気の想いを見せるヒロさん、何かを隠しているようなそぶりの小鈴。花田勝は本当は何をしたのか? ミンさんは紅雷と婚約してしまうのか? 様々な人たちの想いが絡み合い、少しづつ真実が明らかになっていきながら、物語は進んでいきます。
黄家とミンさんの関係。ミンさんとその父親花田勝の関係。その父が築き、ミンさんが引き継いだラーメンはなまるという場所。そこに集まるニートたち。探偵事務所を構えたアリスと助手になったナルミ。ニートでヒモなヒロさんがはなまるで働きはじめてまで見せたミンさんへの想い。紅雷のミンさんへの想い。小鈴と花田勝と香玉の関係。
シリーズも6巻目ということで、今まで描かれてきたものに、新しいものを加えて、何人もの人たちの物語が重なり合うように紡がれていきます。そこには暴力があり、哀しい事実があり、それでもこの作品に登場するキャラクターたちが、皆、バカみたいに、愚直なまでに純粋であるということを強く感じる一冊でした。社会のはみ出し者たちの物語だからこそ、呆れるほど不器用で、愛しく感じるくらいにピュア。だからこそ、その結末がやるせないものであっても、この作品は透明感に溢れたものになっているのだと思います。
そんな中でもこの巻で強く感じたのは、これまでの出来事で少しづつナルミの立ち位置も変化しているということ。本人の自覚は相変わらず薄いですが、もうただの高校生ではなく、いろいろな人の繋がりがあり、ニートたちから学んだものがあり、口八丁がある。それをもって、探偵助手として事件に首をつっこむ、その危なっかしさとでたらめさがアリスにとって、どれだけ特別なものになっているのかを感じます。
外との繋がりを極端に恐れるのに、真実を明らかにすることに強い欲求を燃やし、暴くことしかできない自分自身の限界も知っている。そんなアリスだから、外界と繋がり、そこに自分自身と誰かの気持ちを重ねて物語を描けるナルミが隣にいることは、どこまでも特別で、何よりも大切な事になったんだろうなと。相変わらず鈍感極まりないナルミではありますが、アリスの向ける気持ちは今まで以上に強くなっていて、そろそろそこに真剣に向きあって欲しいかなという気もしました。巻末短編での『必ず喜ばれる親愛表現25例』のくだりとかもう……。
そしてそんな色々な思いを載せた物語は、最後には花田勝という一人の人間の物語として結末を迎えます。身勝手で不器用で、けれど愛に溢れたその生き様はこの作品らしくて、澄んだ空気の中に少しの苦味が混じったような余韻を残すものでした。素晴らしい一冊だったと思います。