電波女と青春男 8 / 入間人間

電波女と青春男〈8〉 (電撃文庫)

電波女と青春男〈8〉 (電撃文庫)

「飛べないよ」

シリーズ完結。最後まで何も大きな事件はなく、ちょっとした決意と不思議な出来事があって、けれど代えがたく大切な日常が続いていくような、このシリーズの丸一巻かけてのエピローグ的な一冊でした。
真とエリオの前に現れたちっちゃいふとんぐーるぐることリトルスマキンが、二人を中心に色々な人を引っ掻き回すような展開でストーリーは進んでいきますが、最後まではっきりとは語られないリトルスマキンの正体や、彼女が控えめに撒き散らす宇宙人電波設定よりも、それに関わっていく人たちの生活と、同じようにエリオが宇宙人していた1巻の頃からの変化を感じるための物語といった趣。
相変わらずびくびくおどおどしながらも真への態度が変わってきてたり、曲がりなりにも田村商店で働いていたり、手に入れたケータイを見せびらかしてリューシさんと連絡をとってみたり、ちょっと勇気を出して学校のことも考えてみたり。あの頃からでは考えられないエリオの変化、その立っている場所が、それがリトルスマキンの登場でもう一度確かめられる。電波設定を語るリトルスマキンに、エリオが真顔で返した言葉。それを成長と呼ぶのかはともかくとして、その変化と、変化がもたらしたものに思わず優しい気持ちになれるような気がするのでした。
大量発生する自称宇宙人を始め変な奴らばかり集まって、でも本当の意味での大事件は起こらない。突拍子も無い夢は最初から叶わなくて、でもウチュウヒコーシになりたいと思うことはできる。世の中なんてこんなモノだという諦めと、けれど代えがたい日常の間をたゆたっているような感覚。緩やかに繋がっていく温かい関係と、一瞬よぎる逃れがたい冷たい感触。前向きとも後ろ向きとも取れなくて、良いことばかりではないけれど、それでも特別で大切で居心地の良い空気が漂うことがこの作品の魅力で、それは最後まで変わることはありませんでした。
宇宙人の見守るこの街で、こんな日常を生きている彼ら彼女らの姿に、読み終わって心の何処かが安心できるような、もう少しだけ自分も頑張ろうと思えるような作品。とても素敵なシリーズだったと思います。